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中国インターネット企業の日本進出(前編)


ここ数年、日本市場に進出する中国インターネット企業が相次いでいます。ByteDanceやDidiのような大手企業はもちろん、BluedやXimalayaのような新勢力企業も矢継ぎ早に日本支社を立ち上げてきました。彼らの中には、既に素晴らしい実績を達成した企業もあります。例えば、ByteDanceのショートビデオアプリTikTokは既に日本で一千万人以上のユーザーを獲得し、若者の間で使わない人がいないぐらい人気アプリになっています。それに、NetEaseのバトルロイヤル系スマホゲーム「荒野行動」は現在日本App Store売上ランキング4位で、累計800億円の売上を達成したようです。

日本はある意味、中国企業が海外進出する際に定番の選択肢とも言えます。地理的に近いし、漢字も使えるし、文化面も共通するところが多いです。しかし、中国インターネット企業の日本進出は、決して順風満帆とは言えません。例えば、2007年に中国のグーグルと言われる検索エンジンのBaiduは日本支社を立ち上げ、凄まじい意気込みで日本市場を制覇しようとしましたが、7年間苦戦した結果、なかなかうまくいかず、2014年にBaidu検索エンジンの日本語版の幕を降ろしました。

最近、中国の有名経済ニュースアプリの「虎嗅」(フーシュー)の編集部は東京を訪れ、日本で羽ばたく中国インターネット会社を取材したあと、興味深い特集を出しました。今回の記事は、その特集の一部を参考しながら、私自身の見解も加え、近年日本に進出してきた中国インターネット企業の浮き沈みについて述べます。前編は、Kingsoft、Baidu、NetEase、そしてHappy Elementsの日本進出を述べます。後編はTikTok日本版の物語の後に、俯瞰的な視点から日本市場に進出してきた中国インターネット会社の成功要素と失敗原因を深掘りしていきます。

Kingsoft

最初に紹介したいのは、最も早い段階で日本に進出した中国インターネット会社の一つのKingsoft(キングソフト)です。Kingsoftは1994に中国北京で設立された老舗のPCソフト会社で、90年代の主要プロダクトは、PCゲーム、ウイルス対策ソフト、それにMicrosoft Officeのようなオフィススイートでした。そのキングソフトは、2005年にKingsoft Japanを立ち上げました。そして、2007年に黒字化を達成しました。今では、80人の日本人を含めて100人ぐらい規模で、法人向けと個人向けのソフトやインターネットサービスを提供しています。

厳密に言えば、Kingsoft JapanはKingsoft本社の日本子会社ではなく、Kingsoft本社と日本現地のパートナーが一緒に作った会社です。いわゆるジョイントベンチャーです。そのパートナーは中国出身で、当時伊藤忠本社に勤めていたバリバリの商社マンだったらしいです。Kingsoft本社がソフトの開発などの技術面を担当し、日本支社は市場開拓や営業活動を担当しました。

Kingsoft Japanが成長した要因の一つとしては、日本でまだ見られていないビジネスモデルを採用したことだと言えるでしょう。具体的に言うと、最初は「長期的に無料でソフトを提供する」ことでした。今では1ヶ月ぐらいの無料試用期間はよくありますが、15年前はまだかなり珍しかったです。それに加え、中国本社のベストセラーソフトを日本に持ってくるというザツなやり方ではなく、日本市場のニーズを詳細に調査し、最も売れそうなソフトをローカライズし、日本で販売するという戦略を取っています。今では、企業用のソフトの他に、LiveMeというライブストリーミングアプリも運営しており、自社のアイドルグループも保有しているらしいです。

Baidu

次に紹介したいのは、Kingsoftより少し遅れ、2008年年始に日本支社を立ち上げたBaiduです。「中国のグーグル」と知られていたBaiduは、検索エンジンと広告を中心に様々なインターネット事業を展開し、2008年に既に中国の最も影響力のあるインターネット会社の一つになっていました。

日本進出のタイミングは正直、悪くはなかったです。当時日本市場のナンバーワンポータルサイトだったYahoo Japanは、諸事情により、アメリカ関連会社のYahooの検索エンジンシステムの使用を停止せざるを得なくなりました。グーグルもまだ今ほど日本市場に浸透していませんでした。つまり、検索エンジン領域において、極めて珍しく、隙がある時期でした。もし当時のBaiduが上手い戦略を取っていたら、Yahoo Japanと提携して一気にサービスを広げられたかもしれません。もしくは、もしかしたら、独自でサービスを展開し、日本主流の検索エンジンになれる可能性もゼロではなかったと思います(高くもなかったですが)。

しかし、Baidu Japanは、この機会を全く掴めませんでした。本業の検索エンジン事業が頓挫し、膨大なマーケティング費用などを投入しても、日本人ユーザーに使われていませんでした。結局、赤字が膨らむばかりでした。Baiduが開示した財務情報によれば、2008年から2010の3年間、日本事業は約90億円の損失を計上しました。2015年に、日本事業に対する自信と忍耐を失ったBaidu本社は、日本版の検索エンジンをシャットダウンすることを決意しました。今、Baidu Japanという法人がまだ存在していますが、日本での事業は、中国向けのウェブマーケティングや日本語文字入力キーボードソフトなどの小規模な事業に絞ってあります。

Baiduの本業検索エンジンが日本で失敗した原因を二つ挙げられます。まず、サービス自体に著しい欠点があったことです。日本人の嗜好に合わせるようなUIデザインや日本語検索に最適化したアルゴリズムができなかったそうです。それから、よくある話ですが、日本支社の裁量権が小さくて、全ての重大な判断は中国本社に指示を求める必要があったようです。そうすると、判断のスピードが落ちるだけではなく、明らかに現地の実情に合わない判断も度々発生したようです。

NetEase

日本に進出した中国ゲーム会社の中、最も成功しているのはNetEaseでしょう。ある統計によると、2019年の日本App Store売上ランキングのトップ50のうち、4個がNetEaseのゲームでした。特に2017年11月にリリースされた「荒野行動」は、日本で累計800億円の売上を達成できたそうです。

実は、中国の他のゲーム会社のように、NetEaseも昔からゲーム大国の日本で自社のゲームを出すことに力を入れてきました。最初に本格的に日本でリリースしようとしたのは「陰陽師」という平安時代を舞台にしたスマホゲームでした。ユーザーが陰陽師の安倍晴明になり、式神を率い、怪物や妖怪と戦うという設定でした。ゲームシステムの品質が高かっただけではなく、日本人デザイナーや声優を起用したので、ストーリー面も美術面も非常に高い水準を達成できました。元々2016年前半に日本でリリースして、それから中国にも持っていくという計画でした。しかし、日本で色々なユーザーテストを実施した結果は、なかなか芳しくありませんでした。仕方なく、日本でのリリースを一旦断念し、2016年6月に直接中国でリリースしました。驚異的なヒットタイトルになり、一時期中国売上ランキングトップを占めしました。

そのあと、「陰陽師」は2017年2月にようやく日本でリリースされ、ある程度話題になりましたが、決して中国と同じようなヒットはしませんでした。なぜか日本市場を狙って作られたゲームは日本で頓挫しました。しかし、「陰陽師」の日本リリースを通じて、NetEase社は大切な日本でゲームリリース及び運営に関するノウハウを蓄えてきました。そのノウハウは正に後日日本でリリースしたゲームの「荒野行動」や「第五人格」で活かしました。

「荒野行動」という2017年11月にリリースしたバトルロイヤル系のシューティングスマホゲームは、いうまでもなく、今まで日本で最も高い知名度と売上を達成した中国製ゲームです。上記のように、「荒野行動」は2019年日本App Store売上ランキングのトップ5に入り、FGOやモンストなどの日本人気タイトルと肩を並べました。「荒野行動」の成功を分析すると、二つの要素があげられます。

まず一番目の要素は、タイミングです。ゲーム業界の人なら誰でも知っていますが、2016年から最も業界に影響を与えたゲームは、PUBGやFortniteに代表されるバトルロイヤル系のゲームです。PUBGのPC版は2017年の9月に日本に上陸し、コアゲーマーの間で話題を呼びました。しかし、ゲーム用のPCを持つ日本人がそもそも少なくて、多くの日本人はバトルロイヤル系のゲームに魅力を感じましたが、なかなかプレイする手段がありませんでした。NetEaseは、まさにそのタイミングを狙い、速やかに「荒野行動」というスマホゲームを日本市場に出しました。実は、「速やかさ」を追求したあまりに、ゲームリリース時点の2017年11月3日に、中国語版をそのまま日本でリリースしました(後日ちゃんと日本語にローカライズしました)。バトルロイヤル系のゲームの元祖のPUBGも2018年の5月に日本でスマホ版のPUBGをリリースしましたが、多くの日本人ユーザーに既に「荒野行動=正統派のバトルロイヤル系のゲーム」という思い込みが植え付けられていました。

二番目の成功要素は、やはり徹底したローカライゼーションです。最初はスピード重視で、中国語のままリリースしたという逸話はさておき、「荒野行動」は基本、徹底的なローカライゼーションを行いました。テキストや音声を日本語化するというスタンダード的な作業はもちろん、それ以外にも、日本の市場に合わせて、ゲーム内で「東京決戦」という地図を作ったりしました。その地図の中には、渋谷や東京タワーなど、東京の代表的なランドマークが盛り込まれました。かなりの手間がかかったと推定できますが、それで得られたのは、日本人ユーザーからの親近感でしょう。

「荒野行動」を皮切りに、NetEaseは日本で相次ぎ人気タイトルを出してきました。「第五人格」や「ライフアフター」などは、「荒野行動」の成功を超えていないものの、非常に良い実績を得られました。ところで、NetEaseにとって、日本が既に最も大きな収入源に一つになったにも関わらず、基本、リモート運営という方式で日本ゲームを運営しています。言い換えますと、全ての主要なゲーム運営及びマーケティングに関する企画と決断は、中国本社のスタッフが遠距離で担当するとう体制を取っているそうです。

Happy Elements

2009年に設立され、北京に本社をおいたHappy Elementsは、2011年にも日本に進出しました。最初は京都の3〜4人ぐらいのアプリ制作会社を買収して、それをHappy Elementsの日本支社、Happy Elements株式会社に変身させました。

今まで見てきた中国企業の日本戦略は、多少違っても、基本的に「中国開発、日本リリース」といったビジネスモデルでまとめられます。しかし、Happy Elementsは異例です。Happy Elementsの日本支社は、今や京都で200人、東京で100人ぐらいの従業員を雇い、ゲームを日本で開発し、日本でリリースします。中国本社との共同開発やリソース共有がないと言い切れないものの、そういった国境越えの提携がなくても日本支社が独立的に事業を回せる体制が整っています。Happy Elementsが2015年に日本で開発し、日本でリリースした女性向けアイドル育成スマホゲーム「あんさんぶるスターズ!」は、大ヒットし、一時期App Store売上ランキングのトップになっていました。今でも根強いファン層を持っています。

Happy Elementsの創業者CEOの王さんはメディアの取材でこう言いました「現地のビジネスのやり方を尊重することと現地の優秀な人材を採用することは、日本で成功した要因です」。実は、今の日本支社の社員9割は日本人で、社長も2011年日本に進出した当初買収した京都のアプリ制作会社の元メンバーだそうです。中国における人件費が高まる今、日本市場に向けてゲームを作るなら、日本で開発・製作の部隊を雇用するという方式は今後より多くの中国インターネット会社が採用するでしょう。

終わりに

今回はKingsoft、Baidu、NetEase、そしてHappy Elementsという五つの代表的な中国インターネット企業の日本進出の物語を述べてきました。彼らはそれぞれ違うやり方で日本市場で頑張ろうとしてきました。成功した経験もあれば、失敗した経験もたくさんあります。
この記事の後編は、日本市場で今回の企業に一目置かれている成功を収めたTikTokの運営会社のByteDanceのストーリーを紹介したいと思います。そのあと、俯瞰的な視点から日本市場に進出してきた中国インターネット会社の成功要素と失敗原因を深掘りしていきます。


参考した「虎嗅」(フーシュー)の記事:https://www.huxiu.com/article/320722.html?f=member_collections

写真の出所:
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000063.000010379.html


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