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コカコーラより時価総額が高い中国白酒メーカー「茅台酒」の成功秘訣とは

2019年9月のある日に、上海のCostco一号店が開業しました。数千人の長蛇の列ができ、店のドアが開いた瞬間、店内になだれ込み、人気商品を奪い合いました。多くの人気商品の中でも特に人気が集まったのは「飛天牌 貴州茅台酒」(以下:茅台酒)です。茅台酒は、広東省の少し北西にある、中国で最も貧しい省の一つとして知られる貴州省の茅台鎮で作られる白酒(中国発祥の蒸留酒)です。アルコール度数53で、中国ダントツナンバーワンの白酒ブランドとして名を轟かせています。一瓶(500ml) 1499元(約2.3万円)という小売価格は決して安価ではありませんが、Costcoで発売後数時間で売り切れになってしまいました。翌日、転売サイトで1.5倍もの価格で売れていました。

中国にはこういう話があります「世の中に、二種類の白酒がある。一つは茅台酒、もう一つはそれ以外の白酒」。茅台酒ほど人々を狂わせるお酒は中国にはないと思います。高級接待で最高のおもてなしとして茅台酒を出す人もいれば、茅台酒を買いだめ、転売する人もいます。実は茅台酒を製造、販売する「貴州茅台」という上場企業は、2020年6月時点で、米国のコカコーラや日本のアサヒを抜き、約28兆円で世界時価総額最大の飲料メーカーとなっています。今回の記事では、茅台酒という中国の貧しい農村部のど真ん中で作られるお酒がどのように中国の「国酒」になったかについて話します。主に二つの原因があります。「運」と「正しい経営判断」です。

比較的みずぼらしい生まれ

中国の銘酒の中で、茅台酒の歴史は決して長い方ではありません。ある文献によれば、茅台鎮という地域で初めて白酒が生産されたのは、今から500年前の清王朝の中期でした。しかし、現在の茅台酒と関係ある酒蔵といえば、清王朝の末期の1870年前後に出来上がった三つの酒蔵です。つまり、茅台酒は160年ぐらいの歴史しかありません。

「歴史」という観点から見ると、茅台酒に勝る白酒が数多くあります。例えば、「汾酒」という山西省の汾阳市の杏花村で作られた白酒は、西暦550年頃に既に中国の銘酒として知られていました。唐朝の大詩人の杜牧(ト ボク)も杏花村のお酒を詠んだ漢詩を残しました。中国で最も古いお酒として知られ、1500年の歴史があります。そして、「五粮液」というよく「茅台酒に次ぐ中国で二番目の高級白酒」として知られているお酒も、1200年ぐらいの歴史があります。

共産党との出会い

「年齢」で勝負できない茅台酒は1935年にある幸運にめぐり合いました。それは、後日中国を統治する共産党との出会いです。複雑な歴史的な事情をまとめますと、毛沢東が率いた共産党軍は当時中国政府軍の国民党軍に敗れ、1934年から1936年にかけて、1万2500kmを徒歩で移動しました。途中で茅台鎮を通過し、二日間滞在した時、そこの農民たちは共産党軍を大歓迎し、地元の名物の茅台酒を散々共産党軍に飲ませたと言われています。その豪快な飲酒は、当時強敵に追い込まれていて、命さえ危うかった共産党軍にとって、一生忘れられない出来事だったでしょう。

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1949年10月1日に、国民党軍を中国大陸から追い出した共産党は、新しい政権を立ち上げ、「開国大典(中華人民共和国の成立を宣言した式典)」を開催しました。おそらく茅台鎮での記憶があったのか、その日の晩餐会で他ならぬ茅台酒が振る舞われました。その後長い間、中国の指導者たちが海外の要人と晩餐会を行う際に、出されるのは基本茅台酒になっていました。例えば、初代首相であった周恩来(チョウ エンライ)はアメリカのニクソン大統領やベトナムのホー・チ・ミン主席などを宴会に招待した際に、茅台酒を振舞いました。そして、1972年に、周恩来首相と田中角栄首相が杯(さかずき)を交わしたのも茅台酒でした。二人で53度の茅台酒を一瓶(500ml)飲み干したという逸話もあるようです。もし当時、共産党軍が茅台鎮を通過しなかったら、そういった宴会で使われるのは、茅台酒より有名で、歴史が長いお酒になったでしょう。

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経済改革開放中の茅台酒

国の宴会で出されるとはいえ、茅台酒はすぐに中国ダントツナンバーワンの白酒になったわけではありません。実は1963年に政府により開催された白酒コンテストでは茅台酒が5位に終わりました。1位は上記の1200年の歴史を持つ「五粮液」でした。

共産党政権の下、中国のほぼ全ての酒蔵は1951年前後に「国営化」の運命に会いました。茅台酒も例外ではありませんでした。実は、茅台酒の酒蔵のオーナーの一人の王秉权氏は国営化に逆らった結果、死刑にされました。国営化に加え、中国では計画経済を実施していたので、販売価格は政府によって決められており、企業が需要によって変更することができませんでした。それに、国が保証していたので、経営がいくらダメだったとしても、倒産するリスクがありませんでした。それが原因で茅台酒は1980年代の末までの数十年間は、赤字経営が続いていました。

変化が前世紀の80年代に起きました。その頃から、中国政府は、国がほとんどの品物の価格を決めるという計画経済から市場の需要によって価格が変動されるという市場経済に、政策を切り変えました。白酒の価格も1988年に自由化されました。最初にこの改革から恩恵を受けたのは、前述した唐朝の大詩人の杜牧も絶賛した「汾酒」でした。汾酒は、価格が自由化されてからの6年間、つまり1988年から1993年まで、中国売上ナンバーワンの白酒でした。どのようにしてそれを達成できたかというと、「高級白酒の中で一番安い」という価格戦略を打ち出したのです。アパレル業界の例でいうと、Nikeの戦略に似ています。「ブランド名がない服と比べたら高いですが、有名ブランドの中では、安い方だ」ということです。しかし、価格が下がるにつれ、消費者にとってのブランドバリューも徐々に下がりました。高級白酒のような、日常生活品ではなく、接待や宴会用品は特にそうです。「汾酒」は1990年代に高級白酒から大衆白酒にイメージダウンしてしまい、(後日また価格高騰により、高級のランクに戻りましたが)、利益も右肩下がりになりました。

1990年代の半ばからの10年間は、前述の「五粮液」はマーケティング戦略や価格設定(値上げ)が功を奏し、中国白酒の王者になっていました。1999年、中国建国50年の記念日の晩餐会で振る舞われたのは、50年前の建国日の晩餐会で出された茅台酒ではなく、五粮液でした。2003年の時点で、茅台酒の年間売上は、300億円ぐらいで、トップの五粮液の1/3ぐらいしかありませんでした。単価も3000円で、五粮液より数百円安かったです。しかし、その後、五粮液は大きなミスを犯しました。売上の増加を追求するために、高級白酒のみならず、大衆白酒の市場にも進出しようとしました。「汾酒」の二の舞を避けるために、五粮液というお酒の価格を下げるのではなく、いくつかの低価格の関連ブランドを作りました。それも結局ブランドイメージを損ない、長期的に悪い影響を与えました。時計の例でいうと、Grand Seikoが代表する高級モデルを持ちながら、単価1万円以下のモデルも持つSeikoの戦略に似ています。

茅台酒はブランドの多様化をせず、販売価格も下げませんでした。その代りに、ひたすら一つのモデルを維持し、販売価格を上げ続けてきました。2000年から今まで、希望小売価格は3000円ぐらいから2.3万円までに高騰してきました。それに加え、小売業者が希望小売価格より低い価格で販売することを禁じてきました。

もちろん、高い価格を設定するだけでうまく行くはずがありません。優れたマーケティング手段も導入してきました。様々な広告を出しましたが、一言でまとめると、「ストーリーを作る」という方針です。茅台鎮を通る川の水ではないと、茅台酒を作れないなど。まさにコカコーラがレシピを金庫で保管したように、茅台酒もお酒に神秘的な要素を加えることに腐心してきました。

様々な要因によって、茅台酒は2005年頃から他の白酒ブランドを凌いできました。茅台酒の2018年の売上は約1.1兆円で、純利益は約6千億円で、どちらの指標も二位の「五粮液」の2倍以上でした。少し詳しく分析すると、その増加は一部が販売価格の値上げによりますが、もう一部は販売数の増加によるものです。ブランドバリューを維持するため、また稀少性をアピールするために、一気に生産量を増やさなかったものの、それでも過去20年間で生産量を数倍に増やしました。つまり、商品自体や生産コストがあまり変わっていないものの、価格と販売数が両方とも上がったという飲料メーカーなら誰もが羨む快挙を達成できたわけです。

不思議な時価総額

冒頭で話したように、今の茅台酒は中国の転売サイトで小売価格の2.3万円より数倍高い値段で転売されることも常にあります。実は、既に株や金のように一種の投資資産にもなっていると言えると思います。茅台酒の時価総額もそれを反映し、右肩上がりに伸びてきて、ついにコカコーラを抜いて世界一位になっています。茅台酒という消費者数が非常に限られている高級白酒メーカーが、まさかに世界の隅々の人々に愛飲されるコカコーラより時価総額が高いなんて、本当に不思議ではないでしょうか。


出所:

'https://news.futunn.com/post/3962456'

‘https://www.sohu.com/a/352489239_636169’

‘https://www.sohu.com/a/280738689_100171045’

‘https://mp.weixin.qq.com/s/dFtCI8Rc7WsywERScI1nOA’

‘https://diamond.jp/articles/-/75058’

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