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『愛の美学』 Season2 エピソード 7 「愛の段階」(2753文字)
『愛の美学』では、「愛の段階」は思考を通した意識の水準であるとする。本日は、その外郭を心理学的側面から概観してみよう。
1)愛は思考と意識の段階
愛を人倫とするなら、必ずそこには思考を通した愛がある。道徳や倫理というとなにやら胡散臭く感じるが、本来の愛とは、思考する智慧の中に培われていくものだ。
①スパイラルダイナミクスから
見えること
智慧には、明らかな段階がある。クレア・W・グレイブスが研究し、ドン・ベックとクリス・コーワンによって深掘りされた「スパイラルダイナミクス(以下SD)」は、人類史の発達段階を示す大きな物差し の一つだ。一般的には「価値のライン」と言われている。
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※1 意識の発達段階を検証するにはハワード・ガードナーが提唱した多重知性(智慧の物差しの種類)を考える。はじめは簡単に教科のようなものと考えてよいだろう。算数は不得手だが、国語は得意など。しかし一般に多重知性は、抽象概念項目が多く、ここが単純な教科とは違うところだ。たとえば、認知、倫理、感情、運動感覚、自己、価値、欲求など、そのそれぞれの発達段階をラインと呼び、それぞれ個人の発達成長には水準(レベル)がある。これらラインはそれぞれ、ピアジェ、コールバーグ/ギリガン、ゴールマン、ガードナー、レーヴィンジャー、グレイブス、マズローの代表的研究者により、5段階から8段階、もしくはそれ以上の発達のレベルが検証されている。そしてそれぞれのライン間の関係性により個々人の意識や知性が色付けされていく。
ここには段階として8つある。マズローの発達段階は5段階であったが、グレイブスらはそれをさらに発展させた。また、虹の色味や叡智の伝統チャクラシステムの色に準え7段階を提唱している学者もいる。
ここでは、一つひとつの段階を説明する前に、おおまかな発達の流れを見ていこう。
はじめに、これら発達変遷の特徴は、大きく二つのセクションに分けられる。つまり、前半4段階と次の4段階。この両者の時間的な隔たりである。サバイバル領域のベージュは10万年前、パープルは4万年、レッドが1万年、ブルーが5千年前と前半各段階が出現するまで非常に時間がかかっている。最初の4段階で、マズローの承認欲求を除く階層説のほぼ全てを網羅していることが分かる。
方や後半4段階は、オレンジの個人主義からグリーンが200年、グリーンから統合のイエローまで50年、イエローからターコイズのホリスティックまでは20年足らずと出現期間が大幅に短縮している。
この歴史的な変遷は、外部環境の情報伝達スピードが著しく早くなっていることに大きく関連している。
また色味の変化も、ベージュ、レッド、イエロー系統と、ブルー、グリーン系統が交互に現れる構造となっている。これは、スパイラルという意識変遷を意図しており、レーヴィンジャーが提唱した、同化帰属性(Assimilation Belongingness)、異化独立性(Differentation Independence)という自己意識(自己感覚)のラインが交互に繰り返しながら上昇しているイメージに似ている。
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そして、1700年代の近代、オレンジ/マズローの承認欲求以降、より個人(私人性)を重視する個人主義にシフトしていく。つまり個人の内面への意識が開かれる時代になっていく。
② 各段階の変遷
個体発生は系統発生を繰り返す、という言葉がある。つまり、母親の体内で胎児期に10万年の生物学的歴史的変遷を繰り返すように、誕生後、新生児から約10万年の意識変遷が生じる。
まず、ベージュのベーシックな活力の源の生存欲求的意識段階があった。次に、シャーマニズムの世界観が、天と繋がる意識の芽生えとすれば、これは、天界の紫外のイメージに近い。
そして、レッドは大地に根ざす土着的側面から従属の欲求との関連が見られる。さらにブルーで、再び神の存在を提示し、見える青として、形而上学的な思考が働く段階が訪れる。そして個人(私人性)の意識が目覚めるまでしばらくこの時代が続く。
さらに、オレンジの内面の段階に入るが、オレンジは集団の従属を受けながらも、それに抗う闘争的衝動を持ち、合理的で良心的なこころが芽生える。
グリーンの段階では人間の絆と、相対的な個人主義が定着してくる。平和主義を装うが、その本心は「私の勝手」「俺のやることに口出すな」という身勝手な部分が残存している。
ここを越えてイエローの段階に入ると、さらなる自律的で相互主体的な人間関係を構築することができる。社会組織科学でティール(組織)と同じ意識段階だ。
おそらくここから先が、「愛」本来の意識段階の入り口だろう。つまりグレイブスでは、ターコイズの段階。統合された意識。これはいわば、限りなく自我感覚が減少することに通じている。
2)愛は「自己中心性」の減少
ハーバード大学の発達心理学者ハワード・ガードナーは次のような興味深い指摘をしている。
「成長とは自己中心性の減少のプロセスである」
「幼児は全面的に自我中心的(エゴセントリック)である――というのは、自分のことだけを利己的 に考えていることではなく、逆に、自分自身のことを考えられないという意味である。自我中心的な子供は自分以外の世界と自分自身を差異化できない。他人または客体から自分自身を分離していないのである。そこで、他人は自分の苦痛や快楽を共にしている、自分のモグモグ言うことは必ず理解されるだろう、自分の展望はすべての人と共有されている、動物や植物さえ自分と意識を共有していると感じるのである。(中略)人間の発達の全コースは、自我中心性の連続的な減少と見なされる……」
自己愛、または自己中心性は、差異化が最小な状態、つまり同化している状態なのだ。自己のラインの図で見ると、支点 1(F-1)が最大で、支点 2 へと移行するにつれて減っていく。最初の最も重要な変容が支点 4 の「規則・役割的」の段階であり、ここでは他者の眼を通して自分自身を律することが可能となり、自己中心性は一層減る。
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ガードナーの言葉の「成長」を、「愛」と言い換えても良いだろう。
このように考えていくと、単純には、意識レベルが上位になればなるほど、「愛」の力は大きくなる、はずである。
オーヴァーマインドやスーパーマインドの色はクリアーライトといわれるが、そのレベルまで行くには、やはり様々な経験と智慧が必要になってくるだろう。
今回は、「愛の段階」を、発達心理と思考、意識の段階を基に概観した。
次回は、「愛」の力を高めるために、どのような方法があるのか、ややハウツーに近いことを、仏教的見地から垣間見ていくことにしよう。
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