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『哲学』の散歩道 Vol.9「システム」論Ⅲ

八正道の軌跡

本日は、前回の続きで、仏教の八正道から「こころ」の「システム」を紐解く。

はじめに少し、このシリーズの趣旨を確認しておこう。

この『システム論』は、私の個人的な命題、『居心地の良い場所の提案』に対する考察ならびに実践的方法論を展開する場として開かれた。この命題についてできるだけ簡潔に要点を述べる。

本日の趣旨は、居心地の良い場所、つまり『場』とは『認識』であるという観点から、仏教の八正道を解説していく。

「システム」としての八正道

内面の心の在り方『居心地』を変える。

精神医学界では実存分析の父として名高いヴィクトール・フランクル博士の名著『夜と霧』は、アウシュビッツの強制捕虜収容所での体験を速記したものだといわれる。


その中に、

「精神は決して奪われ得ないものだ。収容所の劣悪な環境においても、こころ中に美しい花園を見ることもできる。」

と記されている。

その人の持つ基本的な能力、例えば「言語能力」や「身体運動能力」も、またあらゆる「芸能的なセンス」も他人には奪われ得ない

しかし「トレーニング」が必要だ。それが能力を育てる唯一の方法だろう。

最近、堀江貴文の番組、ホリエモンチャンネルで、彼がメディアや記者の教養の無さを嘆いていた。

彼は逮捕されてから検察など一連の国家権力の歴史やその組織構造などを獄中でかなり勉強したらしい。

人間は追い詰められると真剣な「場」が提供され、凄まじい能力を発揮することができるのだろう。

やや前置きが長くなったが、これから本題に入ろう。

こころの改善は
こころの浄化

「八正道」は、人生における道標であるが、それを発見したのはお釈迦様だ。これは浄化のための「トレーニングシステム」の一種だ。

お釈迦様は一連の苦行も行ったが、苦行を捨て菩提樹の下で、この世の摂理「一切は苦である」という原理を説かれた。

ここで繰り返しになるが、前回の「こころの授業」の内容を確認してみよう。

(1) 自分が苦悩の状態であると気づき、
(2) 深層意識の心の声にしっかりと耳を傾け、
(3) 悩みの本当の正体を特定し、
(4) 美しい心の状態で正しい行動を選択していく

これはこころの浄化プロセスである。

この浄化に必要なメソッドが「八正道」に記されている。

その感情に気付くこと=正見
それを思いながら=正思惟
感情の「心の声」を聴く=正語
自分中心になり悩んでいる事柄を問う=正業
改めて美しい心の状態で自分の使命を問う=正命
そして行動を選択してみる=正精進

さらに実践の心構えとして、

自分本来の理念を見出し=正念
清らかな心を創る=正定

お釈迦様は、この世を救済する大義を目指していた。そのスキルとして、まず自らの「こころ」を浄化する仕組みを導き出した。

その方法が「八正道」だ。

四諦したい」と
PDCAサイクル

この世の救済とは、世直し的な役割の意義もあるが、現代風に言うと「浄化」とは「改善」に他ならない。

仏教に「八正道」と並ぶ大切な教えがある。それが「四諦」である。

これは、「改善」を示す根本原理だ。

お釈迦様は、この世の一切は「苦」であると説かれた。この世をご覧になりそのように評価されたのだ。

そして、この世の苦しみの原因は、どうしても自分に執着し「集め」てしまう習性があると考えた。

さらに、心の動きを洞察し「滅す」方法を考案され、実際に行う「道」を示された。

これが簡単な「四諦」

「苦」「集」「滅」「道」

の概略である。

一方、PDCAサイクル「改善」の指標である。

P=計画      plan
D=実行         do
C=評価   check
A=目標         act

とされる。

改善のプランを立てそれを実行評価し、更なる改善案を出していく。これが改善のサイクルだ。

お釈迦様はまさに同じ意図から「改善」を考えていた。

「苦」=  C
「集」=  A
「滅」=  P
「道」=  D

である。

この世は「苦」であると評価し、そのような問題は執着して苦を「集」める習性からなり、それらを「滅」することが「道」だ、と説いたのだ。

PDCAは、C=checkからA=actへ至る部分、つまり「苦」から「集」へのアプローチが最も重要だ。

「四諦」の一般的なPDCAとの相違点は、条件として「完全自己研鑽」モデルということだ。

つまり「自己」認識するために行う「改善」も意図しているのである。

しかし、これは組織やチームの「改善」ではない

会社ではPDCAを掲げても思うようにうまく機能しないことが多い。

会社勤めで特に管理職的な立場の方は切実にお分かりだろう。

もともと、この「システム」自体が「公」の「集団」や「組織」に汎化できるデザインとはいい難いからだ。

そもそもお釈迦様は、自己研鑽を積まれた末にこの法則を見出した

つまり、自らが進んで「改善」しようとする「意欲」無くして、このシステムは巡らないのだ。

逆に言えば、「改善」しようと本気になっている「集団」「組織」であれば、このシステムは非常に良く機能する。


さて来週は、「集団」や「組織」の在り方が、私たちの「意識」にどのように関与するかを、最近話題の「社会組織科学」の視点から論述する。

そのうえで「こころの立体モデル」「八正道」の関連性を解説していく。

次回、システム論Ⅳをお楽しみに。


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