アメリカの長距離バスの世界を垣間見る
私は北米のニューヨーク州のお隣に住んでいます。2ヶ月半ほどの夏休みが終わり、今週から娘の学校の新年度が始まりました。ここ数日は朝晩の気温が下がり、だいぶ過ごしやすくなってきました。
今年の夏はとても暑かったです。うちの地域では雨がほとんど降らなかったので芝生が茶色く枯れてしまいました。スプリンクラーで芝生に水を撒いているのですが、町から1日置きにするように規制されたので、十分に水が浸透しなかったようです。芝生だけでなく、枯れかけている木も多かったのでよほど乾燥してしまったのでしょう。青々とした芝生を見慣れていた私にとっては少しショックな出来事でした。
今朝はぐんと気温が下がり、気分が良かったので娘をバスストップまで送っていくついでにウォーキングすることにしました。
みなさんはウォーキングする時に音楽を聴きますか?
それとも、ラジオやポッドキャストを聴きますか?
私は英語の勉強も兼ねて、This American Lifeという英語のラジオ番組兼ポッドキャストを聴きます。シカゴのラジオ局が中心となって運営しているラジオ番組で、全米の500のラジオ局で週1回放送されており、毎週、2億人のリスナーが聴いているそう。ポッドキャストも大人気で、1つのエピソードにつき、2億回以上ダウンロードされているそうです。伝説のラジオ番組と言っても過言はないでしょう。
内容はというと、主に一般の人々へのインタビューを通して、1つのテーマについて掘り下げていきます。編集やナレーションが絶妙で聴いているだけで、まるでその場にいるような気分にさせ、何気ない日常にも泣き、笑い、不思議、驚きが隠されていることを気づかせてくれます。興味のある方は下記のリンクからご覧ください。(英語のウェブサイトです)。
今朝はRoad Trip!というエピソードを選びました。例のウイルスのパンデミック以来、旅行に行っていないので、旅をしている気分をラジオを通して味わいたいのです。
取材をしたのは通称「皿洗いのピート」。北米の長距離バス、グレイハウンドで7日間の旅をします。ピートはこれまで何度もグレイハウンドで旅をしてきました。
私はアメリカで長距離バスに乗ったことはないけれど、日本では8時間ほどの深夜バスに乗った経験が1度だけあります。当時、20歳の私は狭いバスの座席で隣の人に迷惑をかけまいと縮こまっていました。寝ているうちに東京に着くはずと思っていたけれど、結局一睡もできませんでした。バスを降りる頃には足がパンパンに浮腫み、履いていたブーツのジッパーが上がらなくなっていました。それ以来、1度も長距離バスには乗っていません。
さて、高価な録音機材とワクワクを胸にグレイハウンドに乗り込んだピートでしたが、期待とは裏腹にほとんどの乗客がインタビューを断ります。インタビューに応じた数人もピートの質問に言葉少なに答えるだけ。長距離バスで起きる人生模様を切り取ろうと張り切っていたピートの心が折れ始めます。
さらにピートの不運は続きます。インタビューを試みた女性から、怪しい人と思われ、他の乗客たちからも疑いの目で見られます。その後のバスでは、隣に座った人が吐き始めたり、子供が長時間泣き喚いたり。バスの狭い座席に座り続け、他人が起こす不快な行動に晒されます。
それでも我慢していたピートですが、トイレ休憩で乗客の母親が幼い子供に暴力を振るうところを目撃してしまいます。
もう、我慢できない!
とうとうピートは家に帰ることを決心するのでした。
何も特別なことは起きないけれど、7日間のバス乗車によるピートの心の変化が伝わってきます。
ピートの長距離バスのリポートを聴きながら、北米から日本へのフライトを思い起こしました。100時間超の長距離バスに乗るよりは大変ではないけれど、13時間のフライトは毎回、私の心を疲弊させます。それでも、日本に行きたいのは家族や友達がいるから。アメリカに何年住んでも、日本は帰る場所だから。
北米発成田行きの飛行機はとても静かです。お隣さんとは搭乗した時に挨拶をする程度。あとは、離陸するまで、ほぼ何も話しません。長いフライトを快適に過ごすための暗黙のルールなのでしょう。私は米国に暮らしていますので、朝の便ですと、ほとんど眠れないまま13時間を過ごします。日本からの旅行者がニューヨークで遊び疲れて、10時間以上熟睡しているのを見ると羨ましくもあり、微笑ましくもあります。