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【座談会】小児アトピー性皮膚炎治療を展望する

2023年3月31日
ザ・プリンスさくらタワー東京
コレクチム®︎軟膏の座談会
第1回小児アトピー性皮膚炎治療の重要性、判断のポイント、治療の現状について
司会;五十嵐敦之先生、話者;福家辰樹先生、馬場直子先生


はじめに

以前はADの抗炎症外用薬のうち、乳幼児にも使用可能なものは少なかったが、2021年3月に外用JAK阻害薬であるコレクチム®︎軟膏が小児適応を取得し、2023年1月には6ヶ月以上2歳未満のAD患者に対する有効性および安全性が報告された。この他にも小児に使用可能な全身療法薬なども登場し、治療の選択肢が増えてきた。

ADのアレルギー疾患発症への影響

アレルギーマーチとは、AD素因のある人にアレルギー性疾患が次から次へと発症していく様子を「マーチ(行進)」に喩えたもので、かつては乳児期にADと食物アレルギーがほぼ同じ時期に発症し、その後に喘息やアレルギー性鼻炎が発症すると考えられていた。しかし、近年はまずADを発症し、次に経皮感作などによって食物アレルギーが生じ、喘息、アレルギー性鼻炎の発症に至るフェノタイプがあると考えられている。

当座談会の冊子より

さらに最近は、好酸球性食道炎花粉食物アレルギー症候群(PFAS)もアレルギーマーチの後半を担っている可能性について報告されている。
乳児期のADは経皮感作を通じて食物アレルゲンの感作や、食物アレルギー発症のリスクになることが知られており、乳児期にADを発症すると鶏卵アレルギーの感作リスクが5〜10倍に高まる。また、1歳以下におけるADの重症度が高いほど、吸入アレルゲン感作及び鼻炎発症のリスクが上昇したことが報告されている。

国立生育研究センターの宮地らが行った後方視的研究において、ADを主訴に受診した1歳未満の乳児のうち、湿疹出現後4ヶ月以内にプロアクティブ療法による積極的治療を開始した群では、5ヶ月以上経過してから治療を開始した群に比べて、生後22〜24ヶ月時点での食物アレルギー発症の割合が低いことが示された。

小児ADでは、発症から介入開始までの期間が長くなると、食物アレルギーの発症リスクが上昇する可能性があるので、早期の治療開始は重要である。

小児ADの診断

日本皮膚科学会のガイドライン2021(現在では2024年版)では、
1)瘙痒、2)特徴的皮疹と分布、3)慢性・反復性経過
の3つの基本項目を満たすものを、症状の重症度を問わずADと診断するとしている。

U.K. Working Partyの診断基準

世界的には1994年に作成されたU .K.Working Partyの診断基準も用いられている。
「皮膚のかゆい状態」があり、それが現在までに肘の内側、膝裏、足首の前、首周り、頬のどこかに出現、アレルギー疾患の既往、乾燥肌の既往、屈曲部の湿疹などが認められる場合はADと診断できる。

当座談会の冊子より

つまり、日本のガイドラインの診断基準とほぼ同じ。

小児AD診断の現状

日本の一般集団の出生コホート調査結果によると、医師に診断されたアレルギー疾患のうち、1歳時、2歳時、3歳時におけるADの有症率はそれぞれ4.0%, 7.3%, 6.0%であった。一方、保護者を対象に行ったアンケート調査では、1歳時、2歳時、3歳時における「かゆみのある湿疹」の有無についてあると回答した割合はそれぞれ16.8%, 15.3%, 13.4%と、医師が診断したADの有症率と乖離していた。
かゆみのある湿疹が全てADということではないが、乳幼児ADは十分な受診行動に至っていない可能性があり、診断の遅れが懸念される。

乳幼児ADと他の湿疹との鑑別

日本で「乳児湿疹」と呼ばれるものは、新生児ざ瘡や乳児脂漏性皮膚炎、汗疹、接触皮膚炎などを指し、乳児ADとは鑑別する必要がある。

例えば、乳児脂漏性皮膚炎では、黄色痂皮が付着した落屑性紅斑が生後1ヶ月頃から出現し、その後1〜2ヶ月の間に自然に軽快することが多いが、乳児ADでは症状は2ヶ月以上続く。乳児脂漏性皮膚炎では、生後3ヶ月を過ぎると皮脂の過剰な分泌は抑えられることが多く湿疹も治るが、乳児脂漏性皮膚炎が治っても、その後数ヶ月経過してからADを発症するケースもあるため、注意が必要。
また、顔面などある部位の皮疹だけが難治の場合や、左右対称でない限局性の湿疹病変がみられる場合は、接触皮膚炎を疑う。汗疹は1〜2mm大のかゆみを伴う紅色丘疹が体幹、四肢屈曲、頚部などに多発するが多くは数日で消失する。

乳児湿疹+ハイリスク児(両親ADなど)では慎重に経過観察を行い、乳児ADと診断できる状態になった段階で速やかに治療を開始するのが望ましい。

小児AD治療の実際

保護者に対する指導のポイント

AD患児の保護者、特に日々のスキンケアや外用薬の塗布などを行う母親は治療のキーパーソンとなり、母親に対していかに教育・指導していくかが、小児AD治療を成功させる上で重要となる。

  • 外用薬は最初に塗り方を実践しながら説明し、次いで母親にも塗布してもらう。

  • 必要十分量を処方し、次回診察までに全て使い切るように指導する。

  • 1FTUの説明をし、すり込むのではなく均一に乗せるように指導する。

  • 皮膚の上に乗せた薬剤は濃度勾配によって少しずつ皮膚の中にしみ込んで効果を発揮するため、ある程度の厚みと時間が必要であることを説明する。

  • ADのコントロールが不十分であると痒みのために不眠、成長障害や発達の遅れを来しかねないことも説明しコントロールの重要性を理解してもらう。

  • 保護者のタイプを見極めつつ、対応を選択していく。(例. 治療に対する不安が強ければエビデンスを交えて正しい情報を伝える、保護者のアドヒアランスに問題があれば次回診察までに行ってもらいたいことをシンプルに伝える、など。)

当座談会の冊子より

ガイドラインにおける診断治療のアルゴリズムと重症度に応じた治療戦略

現時点での本邦ガイドラインにおけるAD診断治療アルゴリズムでは、最初に重症度評価を行うにもかかわらず治療に重症度は加味されていない。
しかし近年はAD治療の場にさまざまな新規治療薬が登場しており、重症度に応じた治療が行える時代になった。
例えばヨーロッパ皮膚科学会のAD診療ガイドラインでは、保湿、環境整備、患者教育を「基本」として、「軽症」「中等症」「重症」といった重症度に応じたステップ方式の治療が示されている。中等症ではプロアクティブ療法や紫外線療法など、軽症ではリアクティブ療法や新規抗炎症外用薬を推奨している。
軽症の患者ではコレクチム®︎軟膏などをベースの抗炎症療法として継続し、ステロイド外用薬の軽減を目指したり、重症化させないようにすることも選択肢。



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