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ストマ周囲型壊疽性膿皮症
壊疽性膿皮症は5つに分類される
潰瘍型、膿疱型、水疱型、増殖型、特殊型としてストマ周囲の5型。
Peri-stomal (Pera-stomal) pyoderma gangrenosum (PPG)は、人工肛門造設後にストマ周囲に生じたPGとして1970年にMountainが初めて報告した。
【Ladanらによるシステマティックレビュー】
335例中、女性が67%で、81%は基礎疾患にIBD(クローン病50%、UC31%)
活動性の全身疾患がある患者が69%、ない患者は31%
自己免疫性疾患あり42%、なし37%
ストマの種類;Ileostomy(回腸) 78%、Colostomy(結腸) 16%、その他6%
発症時期;ストマ造設から平均23ヶ月(0.1ヶ月〜312ヶ月)
(※ 別の報告では1.5〜7ヶ月)
症状;半数以上に疼痛・紫色調の深窟性、不規則な辺縁
潰瘍周囲の紅斑37%、化膿性23%
検査;半数で生検、創部培養は34%で採取
治療;
ステロイド外用とカルシニューリン阻害薬外用は同様の効果(62% vs 56%)
ステロイドよりもタクロリムス外用の方がより早期に改善を認めたとの報告もある。
ステロイド局注は効果が低く、一部で悪化。(pathergyの懸念)
ステロイド噴霧やステロイドやダプソンの粉砕もストマ装具の装着のための無害な代替手段となる。
全身療法ではステロイド内服が最も多く、52%で完全奏効した。
シクロスポリン・ダプソンも同様の効果だった。
インフリキシマブ、アダリムマブはそれぞれ67%, 58%で有効だった。
抗菌薬は比較的限定されるが、メトロニダゾールは17例中80%で奏効。
だたし比較試験がないので、治療の優劣は判断困難。
外科的介入については、ストマ閉鎖は15例で100%が再発なく治癒。
活動性IBDを伴う腸切除は23例全例で完治したが2例は再発した。
ストマの移設は28例中96%で改善したが67%の患者が新しいストマ部位に再発した。
外科的治療の適応;難治性が最多、次いで合併症。
デブリードマンの効果は低かった。
創傷ケアについては29の研究で検討された。10例では、清潔な環境を維持するために生理食塩水と創傷洗浄剤が使用された。アルギン酸カルシウム、ハイドロコロイド、フォームドレッシングは、滲出液の吸収、創傷治癒を最適化するための湿潤環境、ストマ装着時の皮膚バリアという利点がある。
2ピースパウチシステムは、皮膚の再上皮化に対する障害を最小限に抑え、パウチ交換の適切な間隔を確保する。
適切なストマ装具の装着は、腸内容物の周囲皮膚への漏れを防ぐ。
病態
Behcet病の針反応と同様、軽微な外傷により好中球が過剰に活性化する状態(Pathergy)が関与するとされており、ストマ造設そのものに伴う侵襲や排便による刺激も誘因となる。
さらに、高頻度に合併する活動性のIBDが循環血漿中の免疫複合体・細菌細胞壁ポリマーやサイトカインの産生に関与するとされており、血管透過性の亢進により炎症を惹起する可能性も考えられている。
しかしながら、悪性腫瘍や痔瘻などを基礎疾患としてPPGを発症した症例報告や抗好中球細胞質抗体、抗リン脂質抗体との関連について指摘する報告も散見され、発症機序についてはいまだに不明な点が多い。
IBDの合併は80%(古典的PGでは30−65%)とされるが、
PPGの20%はIBDがないことに注意。IBDがないために見落とさないように。
Ladanらの総説では、69%の症例がPPG発症時にIBDの再燃がみられたが、割合は文献によりまちまちである。
症状
小膿疱から始まり、急速に進行して有痛性潰瘍となる。
辺縁が紫色調、深窟性・蛇行状の境界で、潰瘍周囲に紅斑を伴う。
pathergyや萎縮性の櫛状瘢痕も特徴的。
疼痛は、ストマに近接しているため酵素を多く含む排泄物と接触することで増悪すると考えられる。
PPGにおけるpathergyは一般的であり、ストマからの漏出、頻繁な器具交換、ストマ器具に起因する緊張または虚血のため、軽減が困難である。
潰瘍によりストマ装具の接着が妨げられ、その後の漏出がさらに潰瘍を悪化させ、創傷治癒を阻害する。
診断
他の疾患を除外し、臨床的に診断する。
皮膚生検と培養は、PPGの診断に有用。
病理組織学的基準は存在しないが、以下の所見はPPGを支持する。
無菌性の好中球の真皮浸潤
混合性炎症またはリンパ球性血管炎は伴うか伴わない。
治療
PGの管理は、炎症のコントロールと創傷ケア。
特にPPGは長期的かつ多方面からの治療アプローチが必要。
より重篤な症例や全身疾患を有する症例では、全身薬物療法や外科的介入が必要となる。
創傷治癒を促進し、増悪を予防するために、創傷ケアおよびストマ装具への配慮が重要である。
外用療法(グレードCの推奨)
副腎皮質ステロイドおよびカルシニューリン阻害剤
ストマ装具との兼ね合いで、高力価の製剤や、粉砕(グレードD)、スプレーなどを用いることも戦略である。
PPG症例におけるタクロリムスの有意な全身吸収は報告されていないが、PG症例では報告されている。
全身療法
重症例や急速進行例では第一選択治療となる。
1. 免疫抑制療法(グレードCの推奨)
副腎皮質ステロイドが最多。
他にシクロスポリン(3~5mg/kg/日)、ダプソン(100mg)などがある。
50%の患者で完全奏効が得られる。
長期ステロイド投与のリスクは、IBDの長期使用例で懸念されている。
ランダム化比較試験Study of Treatments for Pyoderma Gangrenosum Patientsでは、PG患者の6ヵ月治療後のシクロスポリンの消失率は47%とステロイドと同程度だったが、PPGに対する有効性は不明。
メトロニダゾール、アザチオプリン、スルファサラジン、タクロリムスの全身投与はあまり一般的ではなく、有効な代替療法または補助療法と考えられる。
2. 免疫グロブリン静注療法(グレードCの推奨)
報告は少ないが、難治例に考慮できる有効な治療法。
10例中7例が完全、3例が部分奏効した。
3. 生物学的製剤(グレードCの推奨)
インフリキシマブとアダリムマブ
それぞれIBDの有無にかかわらず、治療抵抗性のPPGに有効。
エタネルセプト、ウステキヌマブも同様に有効であった。(グレードD)
一方で、UCやCrohn病の治療として抗TNFα製剤をはじめとした生物学的製剤を導入された症例でPGが発症することもある。(paradoxical reaction)
4. 外科的治療(グレードC推奨)
活動性腸疾患における残存腸管の切除と、
難治例・重篤な大腸炎・IBDの合併がある場合のストーマ閉鎖がある。
難治性PPGはストーマ閉鎖の重要な適応となる。
小規模なケースシリーズでは、ストマ閉鎖と腸管切除により全例で完治した。
発症素因であるストマからの漏出によるpathergyや腸管内の炎症性病巣などの病因が除去される可能性がある。
内科的治療を併用することで、外科治療後のPPG再発率が低くなる。
ストマの再造設や移設は再発が多いため(67%)避けるべきである。
(合併症(虚血、脱肛、狭窄、腸閉塞、ヘルニア、難治性のストマ周囲皮膚炎、潰瘍など) や難治性のPPG症例を救済する目的で適応となる場合を除いて)
炎症時の積極的なデブリードマンはpathergyの観点から避けるべきだが 、穏やかなデブリードマンによる壊死組織の除去は有益。
創傷ケア
PPGの管理には創傷ケアが重要である。
閉塞性ドレッシング材は感染に対するバリアとなるだけでなく、再上皮化、血管新生、コラーゲン合成を促進する。
癒着と圧迫を最小限に抑え、装具の交換による創傷の破壊を制限し、適切な装着により漏れを防ぐことで、pathergyリスクを軽減することができる。
PPGは古典的な潰瘍性PGと共通する臨床的特徴が多く、同様の治療に反応するが、ストマ装具が誘発する外傷の最小限化、局所療法のほか外科的介入がより重要な役割となる。そのため、PPGの管理には創傷ケア看護師、消化器内科医、外科医、皮膚科医からなる集学的チームが不可欠である。
本邦の症例報告
①45歳女性、UCあり、回腸瘻造設後2年に発症。UC活動性はなし。
ストマ周囲のほか、手掌大を超える潰瘍が体幹四肢に多発。
PSL30mg p.o,DDS75mg p.o,MINO100mg div, ステロイド外用(strongest),FGF製剤,白色ワセリン外用にて治療開始。
開始後1週で肝障害と貧血のためDDSは中止。
潰瘍は上皮化傾向で、PSL15mg,MINO100mg内服継続中。
②25歳男性、Crohn病あり、ストマ造設後1ヶ月以内に発症。
ストマ周囲のほか両大腿に膿疱とびらん。
strongestクラスのステロイド外用にて軽快。
41歳男性、7年前に難治性の肛門周囲膿瘍と外痔瘻に対してストマ造設。
造設後3日目に潰瘍出現したが難治だった。
初診2週前から39度の発熱と多発関節痛、腰臀部・会陰部・下肢に地図状穿窟性潰瘍と、ストマ周囲の潰瘍が急速に拡大。
DDS75mg内服・ステロイド外用(strong)3ヶ月間で改善。
精査でIBDの合併、腸炎性関節炎の指摘あり。
消化器症状に対してメサラジン内服、関節症状に対してPSL5mg, MTX12mg/w開始し経過良好だったがストマからの粘血便・ストマ周囲潰瘍・顔面潰瘍が出現。
内視鏡でindeterminate colitisの診断。
PSL1mg/kg div、ステロイド外用(strong)が開始され消化器症状改善とともに潰瘍も徐々に上皮化。
PSL30mgに減量時点で腰痛再燃・下血あり。アザチオプリン75mg併用するも効果不十分。インフリキシマブ400mg(≒5mg/kg)導入で消化器症状・皮膚症状・関節症状いずれも軽快。PSL減量しつつインフリキシマブを投与継続し再燃なく経過。
引用
Ladan A et al. J Am Acad Dermatol. 78(6):1195-1204, 2018.
桜井直樹, 他 : 臨皮 59(6) : 518-521, 2005.
土井知江, 他 : 臨皮 67(11) : 863-868, 2013.