【エッセイ】義実家への帰省で私だけ早退した話②
ちょっと現実逃避したくて小説を投稿したりしていましたが、気を取り直して現実の話に戻ろうと思います。
〈前回までのあらすじ〉
夫の実家への帰省は、いつも3泊4日以上。ずっとそうだったけれども、私は「それは長いので期間を短くしたい」と考えた。そこで、帰省を早退することを決意した。
以上が前回までのあらすじです。
さて、帰省を早退することに決めたものの、いつ、どうやって早退するか。
義実家へは何と言って早退するか。
まず期間。
日帰りだと往復だけで一日がかりになりそう。
1泊2日だと義理だけ果たしてそそくさと帰る印象になってしまう。
そういうわけで、大幅短縮へのチャレンジはまた次回へのチャレンジにとっておくことにして…小心者の私は、今回は、一日だけ削る2泊3日コースを選ぶことにしました。
要は、夫と小学生の子どもを残して一日早く早退する形になるわけですが、まあ、それでも「私だけ先に自宅に戻ります」と宣言するのは、それだけで大冒険。まずは、冒険することに意義あり。というわけで、「一日だけ短縮」に決定。
あとは帰省中にタイミングを見て、「今回は私だけ一日早く戻ります」と伝える。そして、帰りは迷子にならないように気をつけながら、頑張って一人で帰るしかない。スーツケースを抱えて、電車を乗り継ぎ乗り継ぎ、いくつか県境を越えて、自力で帰るしかない。
さて、いざ義実家での帰省が始まり、早退のこと、いつ言おういつ言おう、と思っているうちに、早退予定日前日になってしまいました。「不満があって怒って帰った」みたいに思われないように、本当は初日に言った方がスマートなのは分かっていたのですが、なかなか言うタイミングがなくて。言う勇気もなくて。
で、早退前日の夜、私は意を決して、キッチン仕事をしている義母のところへと行きました。
私「あのう…ちょっと明日私だけ帰りますね」
義母「そうなの。どうして?」
私「本当は2泊3日くらいが私はちょうどいいんですけれど、主人は3泊4日を希望していて。でも私のせいで帰省日数を減らしてもらうのは悪いので、主人は残ることになりました。息子も、主人と一緒に残りたいみたいなので、私だけ一日早く帰りますね」
言えた。ついに言えた。言っちゃった。
もうドキドキ。心臓どくんどくん。
怪訝そうな顔をする義母。
私「あのう、別に何か嫌なことがあったからとか、そういうことじゃないんです。早退は帰省前から決めていたことなんです」
私の心の内を探るかのように、じっと私を見つめる義母。
こうなったら正攻法でいくしかない!
私「嫁という立場上、一般論として、どうしても義実家にいると気をつかってしまうというのはあります。でも皆さん優しいですし、具体的な不満があるわけでなくて。これは私の性格の問題なんです。
私は小さい頃から集団生活が苦手で。主人のお姉さん一家も含めると、帰省中は総勢8人の人間がこの家で寝泊まりすることになるわけですが、この8人っていう人数がちょっと私には負担で…。
例えばご飯の時とか団らんの時間も、皆さんが楽しそうに身内話をしていても、なかなか話に加われないんです。何か言おうとしても、場違いなことを言って皆さんを白けさせてしまいそうだし、というか、すでに何度も白けさせてしまっている気がするし。かといって、聞き役に徹するといっても、団らんの間じゅうニコニコうなずいているだけっていうのは、すごく疲れるんです。
こうして一対一で誰かと話をするのは好きだし、義実家の皆さんお一人お一人と一対一で話をして、もっと仲よくなりたいという気持ちはあります。
でも、グループトークで皆さんと同じテンションで話に加わるのは、どうしても苦手なんです。
これね、昔からそうなんですよ。どこへ行っても、一対一なら何時間でも話せるのに、グループトークとなると、私本当にダメで。ママ友たちとの井戸端会議も苦痛に感じることがあって。一人一人と話すのは大丈夫なんですけれど。
実を言うと、中学の時に、仲のいい友だちがなんとなくそっけなくなったことがあったんです。ある日、その子含めて仲よしグループ皆で話をしていたんですが、私が何か発言した時の皆のリアクションが妙に淡白で。あれ、おかしいな、と。それを境に、結局その友だちとも、そのグループとも少しずつ疎遠になっていったことがあって、その時のことがトラウマになっているのかもしれません。元々の性格もあるかもしれませんが。そういうわけで、今も昔も、グループトークが苦手で集団生活が苦手なんです。
アウェイな場所にいると、段々みじめな気持ちになっていくんです。自分がダメな人間のような気持ちになっていくんです。だから、そんな場所に、4日間もいるのは辛いんです。
だから、早退するのは、私の性格の問題なんです。そういうわけで、勝手を言って申し訳ありませんが、明日自宅に戻ります」
義母は真剣な顔をして、じっと聞いてくれていました。
そして、
「自分は子どもの頃、友だちが一人もいなかった。初めての友だちは高校生になってからできた。今はたくさんの友だちに恵まれている。人生とは分からないもの」
という思い出話などを聞かせてくれました。
私が早退する理由は、平たく言うと「疲れるから」なのだけれど、そのまま言うとさすがに角が立つので、とにかく「あなたたちに非はありません」ということが伝わる理由にしたかった。そこの柱だけ決めて後は思いつくままに話してみたのですが、ウソは一つもついていないので、我ながら、頑張ったなあと思っています。
翌日、私は義実家の皆さんに、グループトークの場ではなく、一人一人散り散りでいるところを狙って、一人一人に近づいては、
「今日私だけ帰りますね」とだけさらっと伝えました。
そのたびに相手にポカンとした顔で、「あ、そうなの。気をつけて帰ってね」と優しく言われ、まあ、そうなんだよなあ、一人一人と話せば、皆優しいんだよなあ、などと改めて思いつつも、無事にミッション完了。
皆さんに「気をつけて」と優しく見送られ、無事に脱出成功。
スーツケースは重かったけれども、心は軽やか。と言いたいところですが、軽やかというよりは、ちょっとした達成感でいっぱいでした。
電車を乗り継ぎ乗り継ぎ、帰りましたよ。たった一人で、何日かぶりの自宅の玄関を開け、たった一人でリビングで駅弁を食べ。
今ごろ義実家では、私の悪口で盛り上がっているのだろうか。
そんな風に思いながら食べる駅弁は、あまり味はしなかったけれども、それでも大冒険これにて完結。
この話も続編とならず、完結できてよかったです。
私の長い冒険話にお付き合いくださり、ありがとうございます。
m(__)m
〈予告〉
義母とは電話で時々話をするのですが、最近、義母の、人間関係にまつわる人生観に、はっとさせられたことがあります。いつか、そのことも書いてみたいと思っています。