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【犬噺#5】性格の良い犬、悪い犬(!?)
「性格が良い」「悪い」という言い方は、あまり好きではありませんでした。
要するに、自分にとって都合がいい=性格が良い、自分に都合が悪い=性格が悪い、と言い換えをする悪い大人を、多く見てきたからかもしれません。
けれども「犬の性格」については、なるほどと思えるところもあります。
もちろん性格は血統・系統だけで決まるわけではなく、それぞれの犬によってちがう、という事をふまえて読んで頂ければ。
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性格が悪い? チワワ
「性格が悪い」で調べると、チワワの名がよく出てくる。
あの可愛いチワワが? 飼い主の前では可愛く振る舞いながら、影では他の犬からカツアゲでもやっているのか?
それとも、ブサイクで知られるパグやフレンチブルなどが、嫉妬して流した根も葉もないデマなのか?
チワワで検索すると、吠えつく噛み付く懐かない、と悪口のオンパレード。チワワよ、オマエはそんなに嫌われてたのか?
メキシコのチワワ州原産の犬を、交配によって作出した血統。攻撃性の強さは、警戒心が強くて臆病なことの裏返しだ。
小型犬は威嚇手段が「吠える」ことなので、うるさいことがある。
しかし「性格が悪い!」と表現されるのは、飼い主には忠実だが他人には懐きにくい。という性質を、ご主人にはおもねって利害関係のない人間には冷たい、と擬人化したせいだろう。
小さいことから期待されるような愛らしさは、ご主人にだけ見せる。
いっぽう、自分よりグループ内順位が低いとみなした、子どもに噛み付いたりする、のも悪評の原因かも。
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レトリバーはなぜ性格が良い?
チワワと対象的に、あのひと性格いいよねっ!と評判がいいのがレトリバーだ。
あざと可愛い新入社員の女の子がチワワなら、自分の脅威にならない大人しめのおっちゃん的な立ち位置(?)
クリーム色のゴールデン・レトリバーも、水かきがあるラブラドール・レトリバーも、その優しさによって「性格の良い犬」と言われる。
猟犬は分業が発達しており、巣穴に潜って獲物を見つけるterrior(テリア=穴掘り人)や、獲物を追い立てるhound(ハウンド=追跡者)がいる。
そんななかで、ご主人が撃ち落とした獲物を回収する(retrieve:レトリーブ)する役割だったのが(retriever:レトリバー=回収者)だ。
レトリバーには獲物を狩りたてる攻撃性より、注意力や観察力が求められた。
だから心優しき賢者の風貌をしており、今に至るも好感度が高いというわけだ。
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猟犬の性質が残るダックスフント(ド)
ドイツ原産の犬で、ダックス(Dachs)とはアナグマのこと。アナグマ猟のための犬だった。
フント(Hund=犬)はドイツ語詠みで、フンドは英語詠み。
アナグマやアナウサギなどを狩るため、足が短くなった。と言うと、意志の力が足を短くした、というカン違いを起こしやすい。
アニメの影響で誤解しがちだが、進化とは一代で起こる変化ではなく、より特徴的な子どもが選抜されることが「何代にもわたって」、繰り返されて特質が際立ってくる変化だ。
ダックスフントもチワワと同じく、その愛くるしい外見と異なり、獲物の位置を教えるために吠えるので「性格が悪い!」と言われるようだ。
スタンダード、ミニチュア、カニンヘンとサイズによる身分制度がある。
本来はサイズを計って分類すべきものを、ミニチュアが好まれるから給餌量を絞って、無理やりミニチュアにしたりするのが問題になることもある。
性格がワルいのは、人間の方かもしれない。
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キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルって誰やねん?
やはり「性格が良い」=「飼いやすい」「おとなしい」でトイ・プードルやシー・ズー、パグなどが選ばれるようだ。
シー・ズーは性格悪い、でも検索に引っ掛かるので、やはり主観というのは各人でちがうものらしい。
そんななか、キャバリアもしくはキャバ嬢などと呼ばれるキャバリア・キング・チャールズ・スパニエル (Cavalier King Charles Spaniel)は異色だ。
チャールズ2世時代の絵画でこの犬を見た米国人が、1926年にこの犬の姿の復活に懸賞金をかけたことから、生まれた系統。
いかにも英国風の高貴な犬が、アメリカ人の大地主がかけた懸賞金によって再生したというのが面白い。
長らく英国王室ではこのキャバ嬢が好まれてきたのだが、18世紀になってパグとか狆のような短吻種、顔のちぢこまった犬に流行が移った。
そのためかけ合わせによって、わざわざ東洋顔の「キング・チャールズ・スパニエル」を作出し、元のキャバがいなくなった。
それが英国王室の雰囲気に憧れた、アメリカの成金がかけた懸賞金につられて復活した、というなんとも不思議な流れ。
英国王室は東洋の文物を欲しがり、新興国アメリカの成金は伝統ある英国風を欲しがり、英国のブリーダーはアメリカ成金のカネを欲しがり、みな自分の側にあるものの価値には気づいていない。
人間のアホな狂想曲に係わらず、この犬はその穏やかな性格と英国王室風の高貴なたたずまいによって、「性格の良き」犬とされる。
日本人は「自分は(都合がいいから)好き」と言うと、ワガママで嫌われると思うのか、「アイツの性格が良いから好き」と絶対的価値に置き換えるのが好みのようですね。
さらに「性格が良い・悪い」とよく言う割に、人によって解釈が異なって「飼いやすい」「気性が荒い」「フレンドリー」「攻撃的」「よく懐く・懐かない」などの意味に使われるようです。
そんな人の思惑に係わらず、個々の犬の性格は「育ち」の要素も大きく係わるようです。
「しつけ」る前の性格形成期に、兄弟たちとの生活で社会性を学び、相手を本気で噛んだらいけない、などの学習をすませておくのも大事でしょう。
人と生活する犬や猫の性格付けは、人の生き方の鏡とも言えます。
こちらに都合のよい生き方を強制するばかりでなく、共存するための最善の道をうまく見つけられればいいのですが。