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【映画の噺#8】四面楚歌からの大逆転「三秒間の死角」
まさに”四面楚歌”。
『THE INFORMER/三秒間の死角(原題:The Informer)2019年 英、米、カナダ合作』は、そんな状況からの逆転劇にスカッとする佳作です。
刑務所という閉鎖空間に閉じ込められ、周囲は敵だらけ。
主人公はなんとか知恵を絞り、敵と敵のすき間を抜けていく。一方、彼の家族のほうにも危機が迫るのだが・・・
万事休すの危機的状況下から、タイトルにあるように一瞬の死角を突いて逆転を試みる主人公と、その家族の物語です。
(ネタバレなし)
(見出し画像のImage Souse=The Informer (2020) | The Informer English Movie | Movie Reviews, Showtimes | nowrunning)
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リアルな刑務所の描写
原作小説は、アンデシュ・ルースルンドとベリエ・ヘルストレムの共作小説(2009年)で、英国推理作家協会賞やスウェーデン最優秀犯罪小説賞などを受賞したベストセラー。
刑務所の実際の姿や、内部の習慣、囚人たちの状況が非常にリアルに描かれている。
それもそのはず、共作者のひとりベリエ・ヘルストレムは、自ら犯罪者として服役した経験から、犯罪抑止のための団体を興し、非行少年たちのケアをしてきた経歴の持ち主。
もうひとりのアンデシュ・ルースルンドは、ジャーナリスト・テレビ番組制作統括で、刑務所に関するドキュメンタリー制作中に、ヘルストレムと出会って意気投合した仲なのだ。
日本にも、安部 譲二のように自らの服役経験をもとにして、小説を書いた作家がいた。その小説「塀の中の懲りない面々」も、我々がなじみのない世界のリアルな活写が話題になった。
その方面を「塀の中」と表現するようになったのは、この小説からである。
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FBIの潜入捜査
元特殊部隊の兵士でベイル・ヒル刑務所に服役中だったピート・コズローは、減刑と引き替えにFBIから潜入捜査への協力を迫られ、マフィアに潜入していた。
捜査はうまくいっていたが、同じように潜入していた経験の浅いNY市警の覆面捜査官の正体を、やむなく暴いてしまうことになる。
マフィアのボスである通称「将軍」はピートの能力を買い、家族(妻と幼い娘)の安全と引き替えに、ベイル・ヒル刑務所に戻って、刑務所内の麻薬流通網を牛耳るよう指示する。
FBIに助けを求めたピートは、逆にその計画に乗って「将軍」を逮捕する証拠を握るよう命じられた。
家族の安全はFBIが保証し、バックアップもして必要なら釈放させることを条件に、ピートは刑務所に戻る。
いっぽう、部下を殺されたNY市警のグレーンズ警部は、FBIの違法捜査を疑い始める。
刑務所内では、ピートが所内で麻薬取引を牛耳っている黒人組織と、将軍の手下との抗争に巻き込まれていた。
刑務所長を始めとする刑務官は、組織から賄賂を得ていたため、ピートは三者から疑われる。危機を察知した彼は、FBIに作戦の中止を求めたのだが。
違法捜査をNY市警に暴かれるとまずいFBIは、ピートを見捨てると共に、その家族まで危機にさらす選択をする。
塀の内と外で、四方を敵に包囲されたピートは窮地に陥るが・・・
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アナ・デ・アルマスがカワイイ!
ピートの妻役が、最近引っ張りだこのアナ・デ・アルマス。「ブレードランナー2049」での、3Dアバターのような清楚な美女役が印象に残っている。
「007」最新作にも抜擢された。
一時期のアマンダ・サイフリッド(セイフライド)のように、便利づかいされている感がある。
顔・体のパーツ全部がまんまるで癒しの美女の印象だが、本作では娘を守りつつ夫を信じてサポートするハードな役。
ピートは、クラブで彼女に乱暴しようとした相手から守ろうとして、誤って殺してしまったという設定だ。
AI画像生成で、シャープな美女を出すにはエマ・ワトソン(ハリポタのハーマイオニー)、癒しの美女を錬成するには、アナ・デ・アルマスの名前を呪文に加えると良いらしい。
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大逆転の布石
NY市警のグレーンズは、部下の命を奪われる原因を作ったピートと、その家族を調べるうちに少しづつ何かがちがう、と感じ始める。
手柄を得るためには手段を選ばず、我が身に累が及びそうになるや全力でピートを陥れるFBIと対照的だ。
それもそのはず、この映画では脇役だがルースルンドとヘルストレムの小説シリーズを通しての主人公は、このグレーンズ警部なのだ。
TVドラマでFBI捜査官が主役のときは、賄賂にまみれた市警の悪徳警官が登場するので、この両者の関係は持ちつ持たれつである。
刑務所という閉鎖空間に閉じ込められ、刑務官も敵。非力な妻と娘にもマフィアとFBIの脅威が迫る。
という行き詰まる展開がイイ!
日本にも2009年の江戸川乱歩賞受賞作「プリズン・トリック(遠藤武文)」という、刑務所を舞台にした小説の傑作がある。
息苦しい展開が欲しくなる自虐的な気分のときは、こうした作品に手を染めてはどうだろう?
この映画に対する批評家の評価は辛く、「スリラー映画に多くのものを求めないファンにとって、『THE INFORMER/三秒間の死角』はまずまずの気晴らしになるかもしれない。しかし、同作を構成する要素のほとんどは同じジャンルに属するより優れた作品で使用されたものをリサイクルしたものである。(Wikipediaの「腐れトマト」からの引用)」
私はスリラー映画に多くのものを求めない”ぼんくら”なので、充分に楽しめました。
日本にもいる映画批評家コメントがつまらないのは、このシーンはあの作品の借り物、主人公が女性の作品は前例がある、主人公が日本語を話すのはありふれている、などなどつまらない知識の羅列でしかないから。
ChatGPTのほうが、虚構も交えてよほど面白い解説をしてくれますよ。