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【猫噺#11】スコ座りカワイイ~❤ の背後にあるもの
スコ座りは確かにカワイイけど
テレビを観ていたところ、さる女性アイドルが自宅で飼っているネコチャンがおっさんのような貫禄でどっかりと座った写真を見せ、「スコ座りって言うんです。カワイイでしょ!」
微笑ましい光景なのだが、、、
スコティッシュ・フォールドは一番人気の系統ですね。アニコム社(損害保険)の調査では2009年から12年連続首位だとか。
垂れたお耳にまん丸なお顔。確かにカワイイです。
テイラー・スイフトの愛猫たちとしても知られていますね。
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スコティッシュ・フォールドとはどんな猫?
その名のとおり、英国北部スコットランド(スコティッシュ)にあるクーパーアンガスの農場で見つかったスージーという耳折れ(fold=フォールド)猫が起源です(1961年)(*1)。
本国ではオウル(フクロウ)に似ている、と表現されたりします。
長毛のスコは、ハイランド・フォールド、スコティッシュ・フォールド・ロングヘアなどとも称されます。
耳折れの遺伝生化学
この耳折れが起こるのは、突然変異遺伝子によるものです。
スコティッシュ・フォールドの耳折れ遺伝子の発現は、「不完全優性」です(*2)。
「優性」とは誤解されやすいですが、優れているということではなく、優先的にその形質が発現するという意味です。
マンチカンの短足化遺伝子の交配による優性遺伝子の伝播を過去にまとめました。
スコティッシュの耳折れ具合の交配による不完全優性は、もっと複雑です。
これは、耳折れに係わる遺伝子が単純に1コピーではなく、2コピーあることに由来します。
複雑になるので、その遺伝タイプをいちいち挙げることはしません。
ただこのため、スコの交配では耳折れの程度が異なる仔猫が産まれ、まったく耳折れのない「立ち耳」のスコも産まれます。
耳折れの程度によって、シングル、ダブル、トリプルなどとクラス分けする人もいるようです。
なぜスコ座りをするのか?
スコティッシュ・フォールドの耳折れに係わる突然変異遺伝子は、耳を折るのが専門の遺伝子ではなく、軟骨の正常な形成を阻害する遺伝子です。
軟骨形成不全の特徴として、耳に特徴が現れやすいのでその外見が注目されることになりました。
しかし、これは「骨軟骨異形成」という深刻な症状を呈する病気の原因ともなります。
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軟骨は耳朶の形成のほかに、関節のなめらかな動きを支えるための、潤滑剤として働きます。これが正常に形成されないと負担がかかるたび、痛みに襲われます。
スコティッシュ・フォールドがおっさん座りするのは、ふつうに座って後肢の関節に負担がかかると痛いからです。
カワイイ~と言われたくて、行っているポージングではありません。
スコ座りカワイイ~の背後にある闇
冒頭のアイドルの方や、スコ人気にケチをつける気は毛頭ありません。
カワイイ形質によって、長く愛される猫がいるのは良いことだと思います。
むしろ、水を差すようなことを言ってしまう、私ごとき老翁が空気を読まない無粋であることは重々承知しております。
GCCF(イギリスの血統猫の登録機関:Governing Council of the Cat Fancy)は、1970年代初めにスコティッシュフォールドの登録を禁止して以来、禁止を継続しています。また英国獣医協会も、スコティッシュフォールドの繁殖をやめるべきだとしています(*3)。
世界各国でその繁殖が疑問視されるなか、日本は世界のスコティッシュ・フォールドの売り上げを牽引する役割を果たしています。
人の手を介して病気の猫を増やし、苦しむ姿を見てはカワイイ~とSNSに写真をアップする、という行為を日本人がリードしている、という皮相な見方もできます。
日本人は職人信仰や血統信仰が強く、腕のいいブリーダーが繁殖させたり、優れた血統を交配させれば病気にはならない、と言う人もいますが、じっちゃんの名に賭けてそんなことはなく、厳密な遺伝現象です。
耳折れと、関節痛の症状のちょうどよいバランスの個体が、幸運にも市場に出るわけですが、発症リスクは高いです。
そのうえ、ちょうど良い、を生み出すには多くの「良くない」子も産まれます。
スコティッシュの骨軟骨異形成に有効な治療法はなく、痛み止めで症状を抑えるなど、対症療法が主になります。
症状が現れたら、早めに気づいて病院に行ってあげてほしいものだと思います。
10年ほど前に実態を確かめに行く、と言って友人のMクンが調査に向かいました。それ以降、彼の姿を見たものはいません。
ペット界隈のとばりは深く黒く、、、
だれか『闇より出でて闇より黒くその穢れを禊ぎ祓え!』と祓ってくれませんかね~
-reference-
(*1)"Scottish Fold Cat Breed Information, Pictures, Characteristics & Facts". CatTime. Retrieved 7 July 2018
(*2)Takanosum M, Takanosu T, Suzuki H, Suzuki K (April 2008). "Incomplete dominant osteochondrodysplasia in heterozygous Scottish Fold cats". The Journal of Small Animal Practice. 49 (4): 197–9. doi:10.1111/j.1748-5827.2008.00561.x. PMID 18339089.
(*3)^ “Should Scottish fold cats be banned?”. 20220505閲覧。