【科学夜話#9】「放射能」と「放射線」のちがい、説明できますか?(前編)
むかし、勤めていた会社から出向した施設で、近隣住民への放射線施設に関する説明会を、担当させられた事があります。
前任者からは、近隣の方から「難しいことを言ってごまかすな! キログラムとかメートルとか、我々にもわかる単位で説明しろ」と突き上げられて困った。などと脅されました。
頭を抱えたのですが、まずはよく聞くけど説明には困る「放射能」のことなど。。。
(見出し画像は、Jan HelebrantによるPixabayからの画像)
放射能だけでは意味がない!
例えばA市は税金が高く、物価も高く、行政サービスが悪くて日に日に人々が脱出しているとしよう。
あまり良い例えだとは自分でも思わないが、このように不安定で壊れながら変わっていく市(原子)に注目し、崩壊する速さの目安がいわば「放射能の大きさ」になる。
そしてそのような、内部から崩壊して別のモノをまき散らす「能力」のことが「放射能」だ。
多くの場合、まちがった使い方をされている。言葉は生き物だから、もう間違いのほうがひとり歩きしていると言っていい。
脱出家族は近郊の町へランダムに散っていく。どれくらいの速さで引っ越しが起きているかが放射能の大きさ、とする。
実際には、不安定な原子が1秒間に何個崩壊するのか、というのが放射能の単位ベクレルになる(むかしはキュリーが使われていた)。
ちょっと考えれば、これだけでは何の意味もなさない、と気づくはず。大家族が引っ越しするのか、単身者か、などで状況は異なっていく。
そして報道にその文字が躍ると騒ぎになる「放射能」も、まったく事情は同じ。
放射線の種類でちがいすぎる
「放射能」は、崩壊する側の立場からのみ状態を記した言葉。
では、A市を脱出する家族に目を向ける。
脱出する家族がどんな人数、どれほど速く移動するか、それが「放射線の線質」。
大家族が引っ越しして移動すれば、そのインパクトは大きい。これに相当する放射線が、アルファ線になる。
アルファ線は実体のある原子のつぶで、それが高速で飛んでくるため、まき起こす影響は大きい。
名前は聞いたことがあるだろうが、ガイガーカウンターで計測される。
ベータ線は、喩えるなら単身者の移動。
実態は電子で、電気は帯びているものの軽いため、ほんのちょっとモノを透過する。また電気的な性質で検出される。
アルファ線のように、重いものがぶつかってくるイメージではないが、軽いぶん遠くまで影響を及ぼす。
ガンマ線は電波で、その一部をX線と呼ぶ。
引っ越しする人が、友だちにラインで連絡している状態。ビルなど遮蔽するものがあっても通過するけど、影響は少ない。
レントゲン撮影などに使われる。
A市からは単身者が多く逃げだし、B市からは大家族が、という風に放射能をもつ物質によって、どんな放射線が出るか決まっている。
だから放射能だけでなく、その原子の種類が決まらなければ、その影響を測ることはできない。
このように、放射性物質によって性質は大きく異なる。その量を測定する方法も、どの放射性物質のどの状態を計測するかでまったく異なる。
立場がちがえば
では崩壊しつつあるA市ではなく、引っ越し家族が流入してくる受け入れ市側に目をむけよう。
考えればわかるように、A市から引っ越しした全家族が、ひとつの同じ市を目指すわけではない。
また大家族が引っ越してくるのと、単身者が来るのとでは受け入れ側の影響もちがう。
これが被ばく線量で、健康被害などに関してはこちらが重要。単位はシーベルト。
これも考えてもらえばわかるように、崩壊市に近く、時間が長いほど影響は大きく、また途中に交通の遮断など遮蔽物があると影響が遮られる。
自然放射線も人工放射線も同じ
日本に限らないが、人々が篤く崇めているのが天然物信仰だ。
自然状態でも放射線は降り注いでくる。宇宙線や地殻、セメントなどの建材からの輻射などとして。
だが自然放射線は害がなく、人工物は非常によくない、と信じている人の多いこと。
天然性善説、人工性悪説は根強くて、天然もののフグなら当たらない、と主張する人は多いのだが、影響はまったく同じ。
なので高高度を日常的に飛ぶ、パイロットの発癌リスクは高くなる。
地殻からの放射線は、西日本のほうが大きい。
影響は必ずしも負の方向ばかりではなく、世界的には地殻放射線が大きいほうが平均寿命が高い場合もある。病原性微生物なども、人と同じように影響を被るからだ。
また日本には、なにかあるたび宇宙線を測定してはSNSに掲げて、唄い踊る風習があるそうだ。
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日本語を話してくれる宇宙人が、放射能を晴らす機材を無償貸与してくれるので取りに来て、というアニメの影響からか、放射性物質に毒霧のようなイメージを持つ方も多いようです。
放射能をもつ放射性物質は、粉塵と同じ挙動を取るので合っている部分もありますが、一概に同じ性質をもつものではありません。
(後編)
なぜウラン「濃縮」と言うか?
確定的影響と確率的影響
被爆限度の意味するところ
「納得」してもらうという事