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うそばかり


「今好きな人とかいるの?」

落ち着いた低い声、綺麗な瞳、ハンドルを握るその繊細な手。いつもあなたは私をドキドキさせる。
でも私は知っている。あなたに“彼女”がいること。そしてこのドライブだってあなたの暇つぶしだってこと。


「好きな人が誰か言わないと帰してあげない」

笑っちゃう。自分って思ってるんでしょう?自信があってそう聞くんでしょう?答えてあげない。だってズルいじゃない。私が恥をかくだけ。それに、あなたでいっぱいのこの車の中に、あなたのそばにいれるんでしょ?そう考えてしまう私もズルい女。

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エンジンがかかる。
結局私は彼の思い通りになってしまった。まだ好きって確定したわけじゃないのに。
「今…彼女とうまくいってないんだ。」
期待持たせるようなこと簡単に言うのね。
「何かしてほしいことある?」
なにそれ?私がホイホイ捕まると思うの?バカにしないでよ。
意外にも柔らかく肉厚の手は片方がハンドルにもう片方は私の手を握る。

そんな状況をワクワクしてしまう。もしかして、なんて。その気持ちのない手に温もりを感じてしまう。良い子を装った私は家に帰してもらう。

あれから少しして、連絡が途絶えた。全く。新年を迎えると彼は一児のパパとなった。らしい。


うまくいってないなんて、嘘だったのね。わかってたつもりだったけど。
涙なんて出ない。出るわけがない。少しだけ、ほんの少しだけ心に隙間ができただけ。すぐに埋めることなんてできるんだから。

強がっても彼との時間と私の時間はもう交わることはない。幸せであろう彼の顔がふと頭をよぎる。

うまくいって良かったね。

私の時間も刻々と過ぎていく。


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