見出し画像

ユニコーンが見える

17歳の夏まで、私にはユニコーンが見えた。
つまり、処女だった。

高校の時は部活ばかりしていた。
毎日ジャージで走り回り、学校と部活と家が全てだった。
そんな部活を引退して、ぽっかりとあいた夏休みだった。
部活しかしていない私と違って、同級生は彼氏がいたり、好きな人がいたり、なんだか恋愛経験豊富そうに見えた。
そんな友達たちが羨ましかったし、誰かと付き合ったことがない、恋愛経験のない自分が恥ずかしかった。
好きな人と付き合いたいというより、彼氏という存在が欲しかった。
そこで、当時流行っていたSNSのアカウントを作り、学校以外の人たちと連絡を取るようになった。
Rとはそこで知り合った。
Rと私は同じ市内に住んでいて、高校も同じだった。
正確に言うと、高校1年生の夏に学校を辞めてしまったRのことを私は名前だけ知っていた。
でも、向こうは私のことは何も知らなかったと思う。
Rは当時、かわいい同級生の女の子と付き合っていた。

なんとなくメールのやり取りをするようになり、お互いにとあるマイナーなバンドが好きだと知り、曲の感想やおすすめのアーティストの話で盛り上がった。
一緒に歌いたいね、遊ぼうよ、と言われて夏休みに電車に乗ってRの家の最寄り駅まで行った。
ほとんど人のいない、小さな駅だった。
私は精一杯のおしゃれをして、普段はほとんどしないメイクもして、緊張で吐きそうになりながら電車を降りた。
ネットで知り合った人と実際に会うのは初めてだった。
良く晴れた暑い日だった。

Rは目鼻立ちの整った、小柄な、中性的な雰囲気の子だった。
長めの前髪の隙間から少し上目遣いでこちらを見るしぐさが印象的で、よく覚えている。
私とRは近くの公園でおしゃべりして、喉が渇いたらコンビニで飲み物を買って、また別の公園に行って喋った。
歩くときには少し手を繋いで、それだけのことに無性にドキドキした。
夕方、少しオレンジになった空と、踏切そばの公園。
そこでさらりとキスをされた。
うちにくる?と言われて、ほいほいと着いていった。
もしかしたらこの後するのだろうかと思ったけれど、別にいいや、むしろもらってもらおうと思った。
はじめてはとても痛かった。
快感なんて一切なくて、ほとんど無理やり押し込まれた感じだった。
恋とか愛とか楽すらもなかったけど、それを済ませたことで私は安堵した。
これで私も一通りの体験をした。もう経験がないことを恥ずかしく思うことはない。そう思うとなんだか楽になった。

そのあとRとはもう一度だけ会って、カラオケに行った後に体を重ねた。
相変わらず全然良くないけど、みんなこんなもんなんだろうと思って我慢した。
あのバンドの曲は一緒に歌ったのか、もう覚えていない。

処女は捧げるものだと聞いたことがあるけれど、私のそれは捨てるに近かった。
誰でもいいというほど自暴自棄ではなかったけど、少し好感が持てればそれで良かった。
もう私のもとにユニコーンが来ることはない。
来ても見ることができない。
それが少しさびしい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?