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結局駅に着くまで1時間くらいかかった

出会いはマッチングアプリだった。
背が高くて顔が濃いめでダンスが得意なイケメンとマッチして、うきうきで飲みに行ったのは夏の夜だった。

***

3か月間、地方に出張することになった。
どうせ3か月後には離れる土地だし、顔見知り程度の知り合いしかいないし、後腐れなく遊びたかったからマッチングアプリをいれた。
仕事は忙しかったけど休みはもらえていたし、知り合いのいない土地で一人で過ごすのに限界があった。
彼とはそこで知り合った。
メッセージもそこそこに電話しようよ、という彼に応じて、1時間くらい喋った。明るく人懐っこい口調に、年下という要素もあって気安く話すことができた。
駅から近いし、料理も得意だからおれが作るし、うちでお酒飲みながら話そうよ、という直球な誘いに悪い気はしなかった。
こういう風にテンポよく進んでいくのは楽だったし、気兼ねなく遊びたいというお互いの利害が一致している感覚があったから罪悪感もなかった。

当日、電車の乗り換えを間違えた挙句、待ち合わせの場所が分からず迷ったまま約束の時間を過ぎてしまった。
どうしても待ち合わせ場所にたどり着けず、自分がどこにいるかも分からず、途方に暮れていたら電話がきた。
「いまどこ?」
「どこだかわからない。たぶん、バスが停まるところ」
「なにそれ(笑)じゃあ動かないで、そこにいて」
緊張と申し訳なさで挙動不審になりながらそわそわ待っていると、背の高いすらっとした人が近づいてきた。
「なんでこんなとこにいるの(笑)」
「迷って、わかんなくなっちゃった、ごめん」
「いいよ、会えてよかった。じゃあ行こう」
いこ、のところで手をつながれた。
ナチュラルに敬語を使っていないところ、スキンシップが早いところ、なによりとてもきれいな顔立ちをしているところ、をひっくるめてダンス君はモテるだろうなと分かった。

***

準備してあるからすぐできるよ、座って待ってて、とソファを進められた。
こじんまりしたワンルームは、大きなベッドとリビングと寝室を区切るための背の高い棚がメインのシンプルな部屋だった。

モテる人といるのは異性問わずたのしい、というか楽だ。
彼ら(彼女ら)は他人との距離感の取り方がうまい。
コンプレックスと自己愛の塊みたいな人と話すとどこに地雷があるか分からないし、こちらにも踏み込まれすぎて不安な気持ちになる。
会話やしぐさで自分を査定されている感覚がするのだと思う。
距離感がうまく取れるとちょうどよく気の抜けた楽しい会話ができる。
個人情報なんて話さなくても会話は成り立つのだ。

しばらくは彼が作ってくれた料理兼おつまみを食べながらお酒を飲んだ。
少し休もうと手を引かれてベッドに沈んだのはもちろん嫌じゃなかったし、期待もあったし、なにより差し出せるものがそれしかないように思っていた。

***

いざはじまってみたら、ぜんぜん良くない。酔ってるのにそう思うくらい、いまいちだった。
背が高くて顔が濃いめでダンスが得意なイケメンでも、相性がよくないとこんなもんか。
それとも慣れないアルコールのせいだろうか。気分は高揚するけれど、感度は弱まると聞いたことがある気がする。
見知らぬ天井を見ながらぼんやりしていたらことは済んでいた。

泊まっていきなよ、と言ったのは彼の優しさか、それとも彼にとっては良かったからか。でも私はよくなかったから帰ることにして、ワンルームのアパートを後にした。
普段使わない駅だったし、駅からアパートまでは彼に付いていっただけだったから駅の方角がぜんぜん分からなかった。てきとうに明るい方に歩くことにした。
スマホでナビを見ればすぐだけど、生ぬるく湿った空気を肌に感じながら、アルコールでふわふわした頭を覚ましたくてあえてナビを見ずに歩いた。

したって別に何も変わらないと思っていた。その行為に意味を見出すほど関係性は深まっていない。あいさつのようなものだ。
そう思っていたはずなのに、つまらない気持ちだった。
しない方がよかったな、と思った。



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