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誰かのために

「あなたは、何のために音楽をやっているの?」

とある吹奏楽部に密着した番組で、顧問の先生が部員たちに問いかけた言葉。先生の求めている答えは、

「誰かのために。聞いてくれる誰かのために、いい音楽を届けるため」

思い出すだけで、今でも胸をドンと突かれたようだ。

小学~中学生と吹奏楽に夢中だった私は、そう考えたことがあっただろうか。自分が上手くなりたい、きれいに吹きたい、ソロが吹きたい。自分のための音楽だった。毎年チケットを買って聞きに来てくれた母や祖父母、友人のためにと、考えたことはあっただろうか。むしろ、今までの努力を認めてほしいと、その思いばかりだった気がする。

・・・

今、私はどうだろうか?

仕事に慣れてくると、どうやったら楽になるだろう?手間を省けるだろう?早く帰れるだろう?とそういうことにばかり知恵を絞っている気がする。行動としては間違っていないだろうけれど、その目的が間違っていた。

「より良い空間をつくるために。より良い仕事をするために」

目の前の仕事に手一杯になると、思考がより自分のためになってしまう。


とある物件の担当中、私は自分の力不足に打ちひしがれていた。ただ、打合せをしたお客さんの顔や会話を思い出しては、「いや、私がやらないでどうする!」と奮起しては、私のひく一つの線で少しでもいい空間をつくりだせるようにと思って図面をひいていた。それはやはり、伝わるのだ。すごく自慢げに家のあらゆる部分を「これいいよね!」と話してくれる。その瞬間が、一番うれしく、誇らしい。

・・・

忘れてはいけない。何のためにやるのか?

自分を選んでくれた、託してくれた人に応えるためにやるのだ。

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