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Back to the world_013/帰りに駅で

 船が岸壁を離れた。すぐにきゃあきゃあ言う女子は船頭の義手に気づいてぎくっとしたが、すぐに態度に出さぬよう自分を抑えた。それを見て、先に甲板に着いていたショーグンと佐内は思わず顔を見合わせる。佐内は感心したように何度かうなずいていた。

アニメ軍団と女子たちは船の舳先に陣取って海景色を楽しみ始めた。ブー美が振り返り、船内に座った純をちらちらと見ている。
波とエンジンの音で声はまったく聞こえて来ないが、高司が純について説明していることは明らかだった。
ーーはからずも純とブー美は互いに自己紹介した形になってしまったのだ。

「あ、あのね、集団宿泊ーーもう来週になっちゃったね」
ショーグンが人の好い笑顔と共にぎこちなく口を開く。
気を遣われている!ーー純は普段通り思うままに行動しただけだったが、ブー美に放ったセリフは唐突すぎ、ズレていたのかもしれない、そう思った。
「夜はキャンプファイヤーとかがあるんだよね、ああいうの、だるいよねえ」
「ね!毎度おなじみって感じだよね」
ショーグンが話題を変えるべく話してくれたことに感謝しながら純は素早く明るく返事する。
佐内も応えた。
「ああ、同じ中学だった女子が演劇部なんだけど、寸劇やるって言っててさ、たぶんオレそれに呼ばれると思うわ」
「え?劇をやんの?何?どういうこと?」
「演劇部として出し物を希望したんだって!練習に来いって言われてる」

「ああ、積極的な意見は先生喜びそうだもんね、こんな時期だし。あ、あとやっぱりさ、みんなでキャンプの歌歌ったりする予定らしいよ、親睦親睦」
「わーくだらねー、ほんとにやだなー、馬鹿らしい。あ、でも佐内ちん、劇は出ればいいじゃん。見たいな、俺」
「いや部員が女子しかいないからアンタ出て、って言うのよ。オレだって嫌よ!演劇部でもないのに」
言いながら佐内はまんざらでもない表情だった。
「僕も見たい、出なよー」
「うーん、本番前にちょろっと打ち合わせして、っていうぐらいなら考えてもいいけどね」
「…なんか今の殿様っぽくなかった?」
「ショーグン、結構キツイとこあるよね!ジェリー、そう思わない?!」
「確かに!ははは」
「いえいえ、品があるなと思って。ふふ」
純は学校が準備するレクリエーションに興味はなかったが、佐内が一体どんな芝居をするのか興味があった。確かに佐内の性格なら演劇部から声をかけられるかもしれない。うまくできそうなら自分も参加してみたいとも思った。

船がかなり大きく揺れた。
「あ、見て」
ショーグンが指差した先には高司が横波をかぶってびしょ濡れになっていた。純たちはもんどりうって大笑いした。

船を降りる時に高司が
「涼しいかも」
と言いながらすました笑顔を向けて来たので、3人は顔を見合わせてもう一度笑った。多少おおげさに、そのセリフにあきれているという意思を示しながら。
「ソープランド見に行くけどお前も行く?」
「いや、やめとくよ」
女子たちを無視した佐内の呼びかけに高司らアニメ軍団は苦笑いして、ブー美たちとぞろぞろと去って行く。

その後純たちはしばらく、何気なさを装いながらソープランドの裏を見張っていたが人が現れる気配はなく、駅へ向かった。
ささやかなイベントが空振りに終わり3人は互いにまだ帰りたくないという気持ちが働いた。広い待合室で電車を2本ばかりやり過ごして話し込もうという流れになり、ひとしきりアニメ軍団と高司について面白おかしくこき下ろしていた。

ここは天井が高くドーム型になっており、たくさんの古い木製のベンチが並べられている。ベンチの青いペンキが剥がれて朽ちた感じはひと昔前の映画のセットのような雰囲気があり、純はとても気に入っていた。時折隣のトイレからアンモニア臭が流れて来る事を除けば。

トイレから戻って来た佐内は慎ましく端に座っていたショーグンに席を詰めさせて真ん中に据えたのち、彼らしく前置きなく口を開いた。
「ショーグンは何?霊感とかあんの?俺そういうの全然ないんだけど」
「ははは、僕だってないよ」
「龍見えるって霊感じゃないのかー」
「『ないのかー』って、どうなんだろうね、それは。フフフ」

純は鼻息が荒くなるのを抑えながらショーグンに向き直った。
「俺も全然霊感とかはないけどねー…でも不思議な話はあるんだよ」
ショーグンに話したくてたまらなかった話をじっくり話す機会が訪れた。■


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cocktail
とにかくやらないので、何でもいいから雑多に積んで行こうじゃないかと決めました。天赦日に。