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欠点ではなく武器だと認識を変えた木澤尚文

コブ山田です。

ようこそいらっしゃいました。

今回は、欠点の有効活用について、記します。

※2024年03月にヘッダー画像を追加しました

私の愛読書のひとつに、落合博満『采配』があります。

その107~111ページに、『欠点は、直すよりも武器にする』というくだりがあります。
新人選手は短所、欠点、弱点を必ずどこかに抱えているものであり、一例がストレートがシュート回転してしまうピッチャーを挙げています。
外角にストレートを投げてもシュート回転してしまったら甘く入ってしまう打たれてしまう危険性が高まります。
ただ、シュート回転しないストレートを身につけても、それは可も不可もないピッチャーになってしまう危険性もあります。

そこで、落合はシュート回転するストレートを武器にする方法はないかと考えるというのです。
別にシュート回転しようが、甘く入らなければいいのです。右バッターの内角に食い込んできたら打ちづらいでしょうから。外角に投げるときにストレートを要求しないようにすればいい。

これには一理あるどころか全面的に賛成です。本文中に、ひと言多いヤツに対して「喋るな」と注意するよりは行動力に期待した方がいいと記載があり、現に私も職場で言い方がきつい同僚に対して、「やかましい」「その言い方はダメだ」と言ったことはありません。それも一つの特徴であり、これを消してしまうのは社会的損失だと思うからです。
自分にだって特徴あるだろうが、と言い聞かせています。
長所、強味に目を向けるストレングスモデルとも言うものです。

自著で記した落合がどう思っているか非常に興味があるプロ野球選手がいます。否定的なことは言えないはずです。

東京ヤクルトスワローズの木澤尚文選手です。

慶應義塾大学から2020年ドラフト1位で東京ヤクルトに入団。早川隆久(東北楽天)、鈴木昭汰(千葉ロッテ)のくじを外しての1位指名ではありましたが、山田哲人、村上宗隆の活躍を知っているファンから見ればマイナスの要素とは感じないでしょう。

155km/hのストレート、140km/hのカットボールを武器に慶應義塾大学のエースと活躍していました。

ルーキーイヤーの2021年、広島の栗林良吏が新人王を獲得も阪神の佐藤輝明が新人特別賞を受賞。2位指名の横浜DeNA牧秀悟も新人特別賞を受賞も、木澤は1軍で投げる機会はありませんでした。
それどころか、チームは優勝争いをしている一方で、自身はフェニックスリーグで15失点という失態もありました。

出遅れたか?と私は思いましたが、それから05か月後の2022年03月06日(日)バンテリンドームナゴヤでの東京ヤクルト戦にて、06回裏、木澤がマウンドに上がりました。
この時は実況配信を聞いていました。お、木澤だ、と思って聞いていました。打者04人、高橋周平にヒットは許すものの無失点でした。
私のTwitterTLにて何回も出ていた名前だったので、話題の木澤くんねー、という感じで。

このあとの私ですが、東京ヤクルトの試合は09月に中日戦を観ただけと多くはありませんでした。
ただ、シーズン終わってみれば木澤は55試合を投げ70と1/3イニング、09勝03敗、防御率2.94という成績でした。
09勝は大きいでしょう。間違いなく優勝に貢献したひとりです。

どうして大きく飛躍することができたのか。
それは、木澤が持つ特徴を活かそうとする指導および本人の取り組みがあったからです。

実は、木澤はストレートがシュート回転してしまうことを欠点だと認識していました。昨年15失点してしまったこととの因果関係は不明ですが、関係があってもおかしくはありません。
そこで、欠点があっていけない、真っすぐなストレートを投げるんだという思いを持ち、春季キャンプできれいなストレートを習得しようとします。

もともとプロ入り前からストレートのシュート回転は意識していたようですが、他球団の同学年がすぐ活躍しているのに自分がプロ初登板も果たしていないとなると、短所は消してしまいたいと焦る気持ちも理解できます。

これは『采配』に書いてあった一例に非常に親和性が高いエピソードです。ストレートがシュート回転するからそうでないストレートを投げようとする。
ただ、それによって木澤から長所となりえる特徴が消え、武器を自ら手放すことになりかねない危険性もあります。

しかし、そんな木澤の取り組みに待ったをかけ、よりよい方向に導いた人物がいます。落合の著書での主張に賛同の立場でしょう。
ピッチングコーチの伊藤智仁、臨時コーチを務めていた古田敦也です。

逆転の発想もある、球は強いんだからストライクゾーンに投げてしまえばいいのではないかと伊藤は言い、どんどんシュートを投げて押していったら抑えられると古田は言いました。

古田による木澤への指導エピソードは日本シリーズでのラジオ中継(ニッポン放送ショウアップナイター)でも複数回流れていました。
ふたりとも、シュート回転気味という木澤の特徴を短所と認識せず、これを活かして幅を広げた方が生産的だと考えたのです。

そこで、木澤は同僚の原樹理からシュートを教わります(ツーシームと記載しているメディアもありますが、右バッターの芯を外して打ちづらく感じる変化球のことです)。
実際に投げているシーンがこちらです。確かにシュートを投げています。

「もともとストレートに力はありますから、ゾーンで勝負できるようになると…」

と解説の方も言っており、やはりシュート回転する特性を消さずに活きる変化球を新しく身に着けたことが奏功したということです。

また、まとめサイトに記載があったものですがいい例えがありました。
髪に例えると、縮毛矯正がうまくいかないので、くせ毛を活かしてオシャレなパーマを当てるようなもの。
何の手入れもしてない天パ(天然パーマ)をパーマと言い張ってる訳ではない、というものです。

きれいなストレートを投げることはひとつの手段に過ぎない。ストライクゾーンに投げてバッターを打ち取ってアウトカウントを重ねることが目的です。
木澤自身としても自己肯定感が高まるはず。デメリットが思いつかないぐらいです。

もちろん他球団は2023年以降も木澤にやられっぱなしというわけにはいきません。何かのポイントを探し出して攻略しようと対策して当然です。
そうは言っても、東京ヤクルトの指揮官は絶対大丈夫という考え方の高津臣吾。特徴を消し去ろうという文化ではありません。木澤のさらなる進化が期待できます。
この考え方がプロ野球他球団のみならず企業や学校でも広まることを願うとともに、自身も確固たる持論として採り入れ活かしたいと、2022年、セ・リーグ連覇を果たした東京ヤクルトスワローズを見ていて思ったのでした。

ありがとうございました。

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コブ山田(Cob  Yamada)
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