マグマと手をつないで
マグマは、いつだって僕らの真下にある。
普段、僕たちは、生活においてそれを意識することはない。空を見上げることはあるけれど、地面を掘り始める人なんていないし、ましてやマグマを目にする人なんていないだろう。
それでもマグマは、そこにあり続ける。知らず知らずのうちに、僕らにパワーを与えている。
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どんよりとした雲が、空一面を覆っている。
「ねぇ、この道で本当にあってる?」
僕は運転をしながら、隣に座る妻に尋ねる。
「あってるはず」
「ほんとかよ」
さっきからずっと、同じような道を走っている。けっこうな速度を出しているけれど、僕らのほかに車は一台もない。不安だ。
時刻は夕方になる前。ざっと見た感じ、あまり外灯もない気がする。もし日が暮れたら、けっこう怖い。
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そんな感じで不安だったが、なんとか日が暮れる前にたどり着いた。秋田県にある「玉川温泉」という場所だった。
市街地から車で何時間も走らせたところにあり、文字通り「僻地」と言ってよいだろう。
何が楽しくてこんな場所に来るのか。ホテルに入って目につくのは、ヨレヨレのおじいさんと、おばあさんたち。
実はここ、若いカップルのデートスポットというよりは、むしろ、老人たちの湯治スポットとして注目を集めている。
何やら、がんが治るとかなんだとか……。真偽はいかほど、という感じがするが、これだけの湯治客がいるところを鑑みると、一定の効果はあるといえそうだ。
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僕たちは、東北をドライブで旅行しているところだった。
この妙ちくりんな温泉地にやってきたのも、その目的は湯治ではなく、観光である。
しかしここ、本当にすごい。単一の湧出口から、毎分9000リットル(!)の温泉が湧き出しており、湧出量としては日本一と言われている。
源泉が湧き出ている場所は、圧巻だ。これまで、草津がすごいなぁと思っていたが、そんなレベルじゃなかった。
スケールが違う。
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さて、チェックインを済ませて、さっそく風呂場に向かった。
ひのきで一面を囲まれた大浴場は、趣がある。この「新玉川温泉」では、打たせ湯や蒸し風呂、そして飲泉など、様々な種類の温泉を楽しめるようだ。
そんな中で、僕は、源泉100%と書かれた温泉に入った。
じんわりと暖かさが広がる。しかし、なんだろう? 痛い。痛いぞ?
何が痛いって、酸度が強すぎる。しゅわしゅわしている。
温泉に入って、「痛い」という感想を持ったのはこれが初めてだ……。
でも、痛みに慣れてくると、とても気持ちよく肌に馴染んでくる。ドライブで疲れた身体が、ゆっくりと癒やされていくのがわかる。
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こういう温泉に入ると、僕は「地球」を感じる。僕らの下にはマグマが流れ、人間やその他の生物にパワーを与えてくれている。まるで、地球の声が聞こえてくるようだ。
湯治、だったっけ。
たしかに治っちゃうんだろうなぁ。いろんなものが。地球からパワーをもらって、治せないものの方が少ないんじゃないだろうか。
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温泉に入ることは、つまり、地球と会話をすることだ。
明るい人と話すことで元気をもらえるように、地球と会話をすることで、生命の神秘に少し近づける気がする。
秋田の僻地で、僕はそんなことを考えた。