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社会人一年目、配属に絶望した自分がいた

社会人一年目。

私は、人生に絶望した。今まで頑張ってきた意味がまるでない、と思った。

だって……「営業に配属される」なんて!

コピーライターに憧れて、広告会社に入った。学生時代からコピーライター養成学校に通い、同期とも差をつけてきたはずだ。

それなのに、営業。しかも、営業志望だった同期の子は、逆にクリエイティブに配属されたらしい。信じられない。

会社は一体、何を考えているんだろうか。きっと、何もわかってない。

私は悔しくて、一人、涙を流した。

・・・

これまでの人生で、なんとなく気がついてきたことがあった。それは、「人生は、想像のちょっと下をいく」ということだ。

目指していた国立大学は、受からなかった。だから、滑り止めで受けた私立大学に、進学した。

就職もそうだ。本当は、一番大きい会社にいきたかったけど、そこは落ちてしまった。私が入社したのは、第二志望の広告会社だ。

みんなは私のことを「すごい」というけれど、私はあんまり、自分自身の人生に納得していない。

・・・

人生を思い通りにコントロールするのは難しい。いつだって、想像していたちょっと下くらいをいく。

99%でよしとするか、101%やりきり続けるか。毎日、101%の力を出せれば、1年後には37倍になっている。逆に、99%の力しか出せなければ、一年後には30分の1になってしまう。

私の人生は、99の方なのだと思う。頑張っているつもりでも、イメージのちょっとだけ下をいく。

この先もそんな感じで、自分の期待を下回っていくのだろう。

・・・

「マリちゃん、元気にやってる?」

会社で、先輩のユウカさんに声をかけられた。

「なんとか元気にやってます」

私は、無理に笑顔を作って答えた。あまり、自分が落ち込んでいることを悟られたくなかった。

「今度、飲みに行こうよ」

大学のOBでもあるユウカさんは、コピーライターとして活躍している。OB訪問した時から、ずっと憧れの先輩だ。

「ぜひぜひ! 行きましょう」

ちょっぴり胸がチクチク痛みながら、そう答えた。

・・・

数日後、ユウカさんと、会社近くのおでん屋さんに来た。

お店は、ユウカさんのチョイスだ。私は、こんなにオシャレなおでん屋さんなんて、知らない。

お酒が入ってすぐに、ついユウカさんに愚痴を言ってしまった。

「営業なんて、本当にやりたくないんです!」

私はずっと、泣き言をいっている。

「コピーライターじゃないなら、この会社に就職した意味がないですよ」

私は文句を言いながら、ビールを一気にあおった。

「別に、そんなに落ち込む必要ないよ。めぐり合わせなんだから」

ユウカさんは、優しくなだめてくれる。

「ユウカさんは、コピーライターだから、そんなことが言えるんですよ。営業なんて、本当につまらないですよ!」

私はなんだか、泣きたくなってきた。

目の前にいる先輩と、自分を比べてしまう。私は、この人のような101%の人生なんて歩めないんだ。

・・・

それから、ユウカさんは、大根を美味しそうに食べた後、

「よし。マリちゃんに、いいこと教えてあげよう」

と言った。

「私もね、今はコピーライターをやっているけど。実は、最初は営業だったんだ」

「え?」

驚いた。初耳だった。

「コピーライターを志望して入ったのに、営業に配属されちゃって、本当にショックだった。でも仕方ないかって、開き直って、営業を頑張ってみたんだよ」

「そうなんですか」

「でもやっぱり、コピーライターが諦めきれなかった。だから、休日を使ってコンテストにずっと応募してた。それで、いくつかの作品が入賞したの。
それから、入社して3年目だったかな、クリエイティブに異動できたんだ」

ユウカさんは、昔を思い出すようにそう言った。

「そうだったんですね……」

「でも今になって思うのは、営業やっていて本当によかったってこと。

クライアントがどういうことを求めているのか、とか。営業の人がどういうことを考えているのか、とか。そういうのは、営業を経験しないと絶対わからなかった。

クリエイターって、得てして独りよがりになりがちなんだよ。自分の世界に酔っちゃう人もたくさんいる。

でも、営業からコピーライターになった人で、そういう人は見たことない。自分でこういうこと言っちゃうと、よくないけど」

ユウカさんは笑った。

「別にマリちゃんは、落ち込む必要なんてないよ。近道なんてないから。

きっと道はいくつもあって、悩みながら歩いたその足跡が自分らしさなんだと思う」

その言葉を聞いて、思わず、涙が溢れた。

「私、自分勝手だったかもしれないです」

「いいんだよ。私も、営業に配属された時、同じように先輩に励ましてもらったから」

「ありがとうございます……。まずは、食わず嫌いせずに、営業がんばってみます」

「うん! また悩んだらいつでも相談して」

帰り際に、ユウカさんは、笑いながらこんなことを言っていた。

「言い忘れたんだけどさ、自分で予測できない人生の方が、私は面白いと思うよ」

・・・

人生は確かに、思い通りにコントロールすることは難しい。

でも人生がコントロール出来ないのは、「私たちが飽きないように、神様がそう設計した」からなのかもしれない。

コピーは休日に書けばいい。まずは営業で、頑張って結果を出そう。

私の最初のクライアントは「キリン」と言われている。最近出た「本麒麟」が好きだったし、とても馴染みが深い会社だ。

がんばれ、私。

悩みながら歩いた軌跡こそが、私の人生なんだ。

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コボ・コボボ
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