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「も」を知っている
「も」が書けなくなる病のことをこの上なく知っているという老人は、身から出た錆にまみれて、鉄くさかった。
「も」が書けなくなる病のことを教えてやろうか。
老人は、地球が燃え尽きる瞬間まで、言い続けるはず。
そのうち誰かが根負けする。
鉄くさいのをずっと嗅いでいたくないからか、それともなんなのか、誰かは老人に問う。
「も」が書けなくなる病、ですって?
そうしたら、老人は首を傾げて、傾げて、首がとうとう肩に食い込んで。
それから老人は、まるで潰れたひしゃくみたいな形をして、カタン、と地面に転がる。
その潰れたひしゃくで打ち水すると、異様に涼しくなるらしい。
ただ、時々鉄くさかったりするのだけど。