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爺じいの役目

爺じい は、前世がセミだったこともあってか、ことあるごとに「じいじい」と声を発する。

爺じいの好物は誰にもわからず、母親が誰だとか妹がいるとかいないとか、そんな噂が飛び交うのも最初の頃だけだった。

じいじい。

ああ、また爺じいが鳴いている。

この声がしたら、なぜか皆、家に帰りたくなってしまうのだ。

じいじい。

一度鳴くと爺じいはいつまでも鳴き止まないので、町民の、帰りたい帰りたいという気持ちは大きくなっていく一方だ。

じいじい。

それでも止まなかったら。

町中の会社から、店から、人が消える。

やがて、全員が家に帰ってこたつでみかんなんか剥き始めると、ようやく爺じいは鳴くのをやめるのだった。


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