輪切り体
自分の体が、少しずつ輪切りにされていくのに僕は気づいた。
頭のてっぺんが、ちょっと平べったいな、と思ったら、頭が一スライス分なくなっていた。
それから三年後、朝起きると尋常じゃないほど頭が平べったくなっていた。
またそれから三年後に、今度は眉毛のところまで輪切りにされていた。
そのペースで、自分の体はスライスハムみたいに輪切りされていく。
これはいつまで続くんだろうか、と、考えた。
それから数十年たって、もはや自分には上半身がなかった。
足だけの体。
それで生活しているうちに、わかってきた。
他人にこれは見えていないんだ。
認識できるのは自分だけ。
またすり減り、膝くらいまでしか残っていない自分は、いつの間にか今年で89を迎えていた。
自分の魂が抜けるのが速いか、それとも体がなくなるのが速いかなどということは、自分にはわからなかった。
それからまた10年ほど経ち、そろそろだな、と思った。
そろそろ、自分の人生は幕を閉じるのだ。
結局、今残っている体は足の先の爪だけ。
それなのに、こうやってものを考えられるのは不思議だ、と思いながら、目をゆっくり閉じた。
窓から入り込んだ風が、なけなしの体を散らしていった。