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ピス

椅子を制作中の大工である俺は、ビスが足りないことに気づく。
「ビスを2本とってくれ」
そういうと、助手の高橋は困った顔をした。
「今探しましたが・・ピスしかありませんでした」
「ピス?なんだそりゃ」
すると、高橋はさらに困った顔になる。
「ビスの代理品ですが、少々難点がありまして・・」
「難点だと?」
「とにかく、強度がないのです。ほら」
そう言って、高橋は指先で「ピス」をくしゃっと潰してしまった。
「んなもん、駄目に決まってんだろ!ビスは無いのか」
高橋は首を横に振る。
まいったな。
椅子は明日までに仕上げなければならないというのに。
「ああ、もう、それでもいい。よこせ」
俺は高橋から「ピス」を奪い取ると、それを椅子に刺して、金槌で叩いた。
叩くたびに、「ピス、ピス」と情けない音がして、それは椅子に刺さることなくぺっちゃんこになってしまった。
「おい!なんだこれは。こんなものどこで売ってんだ」
「最近できた大型薬局です」
「薬局・・」
すると、高橋は言いにくそうに口を開いた。
「あの・・その大型薬局で買ったものが、もう一つありまして」
高橋はバッグの中から何かを取り出した。
「『ピスⅡ』というもので・・」


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