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三途の川
三途の川って、こんなに綺麗だったんだ、と僕は思った。
まるで、宝石を閉じ込めたような川だ。
手招きをされているような気がして、僕はふらふらと三途の川へ近づいていった。
手を伸ばし、川の水をすくい上げると、それは本当に宝石だった。
宝石の小さな粒が、ちらちらと輝いていた。
思わず、それを体の中に取り込みたくなって、一粒、口の中に入れた。
舌の上で、とろんと溶ける。
甘いような、ほろ苦いような、不思議な味がした。
もう一粒、口に放り込んだ。
すると、今度は舌の上で溶けることなく、その粒は刃物の切っ先のようにとんがって、ぴりぴりと口の中を切り刻み始めた。
思わず吐き出そうとしたが、なんだか吐き出してはいけないような気がして、口をぎゅっと結んで、耐える。
そのうち、口の中で暴れ回っていた粒は、静かになると、また甘く、ほろ苦くなり、舌の上でとろんと溶けた。
口の中は血だらけなはずなのに、甘く、とろけるような感覚に包まれていた。
僕は夢中で、粒を食い漁った。
食べれば食べるうちに、血管の中の赤血球が減っていくことも知らずに。
我に帰ると、三途の川はなくなっていた。
僕はただ不思議に思った。
全ての宝石を、自分が食べ尽くしてしまったことに、僕は気づかないままだった。
口からこぼれ落ちる血液が、真っ白だったことにも、気づかなかった。
すっかり干上がった三途の川に、僕の白血球と血小板の波紋が広がり続けた。