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うすあか色の海
男の子が、海に向かって石を投げた。
いらいらを石に乗せるような形で海へ力いっぱい投げた。
だが、その石は水飛沫を上げることなく、爆音がするわけでもなく、ただ海の上に佇んでいた。
波に浸かる数センチ前で止まっている。
男の子は、それを不思議そうにまじまじとみていたが、また石を海へ投げ入れた。
だが、それも波に触れそうで触れないところに浮かんでいるだけだ。
いくつもいくつも、男の子は石を投げる。
気がつけば夕方になっていた。
やっと我に帰った男の子が見ると、投げた石の全てが空中に浮かび、海の上に新たな大地ができたようだった。
男の子はその石の上にそっと足を乗せた。
石はびくともせず、一歩一歩足を踏み出して、いらいらでできた石の大地を踏みしめていく。
気づけば、沖の方へ出ていた。
しゃがみこんで下を見ると、海の中が、水中眼鏡をしたわけでもないのに、よく見えた。
海の中にはただタコがいた。
よく見ると、どこもかしこもタコだった。
まるで、海の中がタコで埋め尽くされたようだ、と男の子は思った。
すっかり、いらいらはおさまっていた。
うすあか色の海の真ん中で、石の大地を蹴ると、男の子は海へ飛び込んだ。
海へ入ると、そこにはタコなど一匹もおらず、足元にちらほら石が転がっているだけだった。