コーチングでコーチがやっているダイナミックで地味なこと
一般的なコーチングに対するイメージ
あなたはコーチングのセッションにおいて、クライアントとコーチがどのようなやり取りをしていると思いますか。
その答えは、あなたがコーチングをどのようなものと考えているのか、そして、コーチングに対して何を期待しているのかという事と密接に関係していると思います。
一般的なコーチングに対するイメージは、クライアントが目標を設定するのをコーチがサポートしたり、クライアントが自らの目標や課題についてコーチと対話することによってモヤモヤしていたものが言語化され整理されてスッキリしたり、あるいは目標に向かって行動するためのアドバイスや心理的な後押しをコーチからもらったりするというものではないでしょうか。
また、コーチングセッションの中での会話については、コーチの方がクライアントよりたくさん話をしていたり、場合によっては、コーチがかなりきつい言葉の調子で延々とクライアントに行動変容を促していたりするような印象がある人もいるかもしれません。
苫米地式コーチングのコーチは話をしない?
ところが、苫米地式コーチングのコーチングセッションでは、コーチはクライアントが話している内容に対してアドバイスすることはありませんし、その良し悪しをコーチが判断することもありません。
それどころかコーチはほとんど話をしません。
クライアントからしてみると、「コーチは何か言うことはないのか?」と訝しむような感じです。もちろんコーチはクライアントの話を聞いているのですが、クライアントが話す内容よりもマインドの動きを中心にみています。
だから、クライアントが自分のこれからやるべきことや、目標達成のためにどうすればいいのかという事についてコーチから具体的なアドバイスを聞きたいと思っても、ほぼ間違いなく徒労に終わってしまうでしょう。
では、コーチとはクライアントにとって一体何をしてくれる存在なのでしょうか。
コーチは何をアシストしているのか?
コーチングとは、クライアントが現状の外側にゴールを設定して、クライアント自身が「私はそのゴールを達成できる!」と思って歩んでいくのをアシストすることです。そのアシストする人のことをコーチと言います。
そして、「アシストする」とは、端的に言えば、クライアントのブリーフシステムが変わるように働きかけることなのです。ブリーフシステムが変わりさえすれば、現状の外側のゴールが見つけられるようになるからです。
なぜ、ブリーフシステムが書き換われば、現状の外側のゴールを見つけられるのでしょうか。それを理解するために、まず、現状について考えてみましょう。
あなたが今いる現状とはどんな所でしょうか。身近なことから考えてみるために、あなたの身の回りにある”もの”をどんどん思いつくままリストアップしてみてください。
例えば、人に関連するところでは、親、兄弟、親戚、友人、上司、取引先の担当者、先生、行きつけのお店の店主や従業員、毎日の散歩で出会う人と犬、かかりつけ医などが挙げられるでしょう。
物では、携帯電話、冷蔵庫、電子レンジ、事務机、通勤かばん、本、筆記具、水筒、財布、自転車、乗用車、家、ベッド、服、くつ、傘、帽子、新聞、テレビ、災害避難用具、花壇、校舎、オフィスビル、駅、スタジアム、美術館など。
普段から比較的よく聞く抽象的な概念では、自由、正義、精神、民主主義、資本主義、経済、法律、金融、政治、教育、衛生、安定、安心、敬意、愛情、友情、ルール、文化、平和など色々思いつくでしょう。
時間をかければもっとたくさん挙げられると思いますが、それでもこの世にあるすべての事物から考えるとほんのわずかだと思います。
では、あなたが今挙げたものは何かというと、あなたが自分にとって関わりのある、または何らかの重要性を感じたものが思い浮かんだのだと思います。
そして、いま思い浮かんだもので出来上がっている世界があなたの現状です。なぜなら人は、脳にあって情報フィルターの役割をしているRAS(Reticular Activating System、網様体賦活系)の働きにより、自分にとって重要なものしか認識出来ないからです。認識に上がらなければ、それはあなたにとっては存在しないのと同じ意味です。だから、あなたが今見ている世界は、あなたにとって重要なもので出来ている世界と言えます。そして重要なものが変われば、当然、認識する世界も変わり、それが新しい現状になるということです。
また、あなたにとっての重要度は個々の事物や概念によって程度の差があるので、あなたのマインドにはその差を生じさせるような、この世に存在する全てのものを重要なものから順番に並び替える関数があると言っても良いかも知れません。最も重要度の高いものは常に意識しているものでしょうし、比較的重要度が低いものは、たまに必要な時だけ認識しているものと言えます。そして、まったく重要でなければ、それはあなたにとっては存在しないものです。
自分にとっての重要度を表す言葉には、「重要だ」「かわいい」「関心がある」「気になる」などポジティブなものもあれば、避けることが重要なものとして「恐ろしい」「危険だ」など様々な表現があり得ます。また、重要度というより「関連性が高い」と言い換えた方がしっくりくる場合があるかも知れません。
いずれにせよ、マインドの中でその重要度や関係性の高低を決めているものをブリーフシステムと言います。
だから、ブリーフシステムが変われば、あなたにとって重要なものが変化するので、その結果、見える世界が一変するのです。その一変した後の世界のことを現状の外側というのです。
どうすればブリーフシステムは書き換わる?
さて、ここまでで現状についての理解が深まり、現状の外側のゴールを探すには、ブリーフシステムが書き換われば良いという所まで話が進みました。
ところで、あなたにとっての重要度が変わったということはブリーフシステムが変化したと言えるわけですが、物事に対する重要度が変わること自体は、普段から頻繁に経験しています。
例えば、SNS界隈で、果物の〇〇がダイエットに効くらしいと盛り上がっていれば、〇〇があまり好きでなかった人も、急に積極的に摂取したくなったりします。きっと〇〇の重要度が急に上がったのでしょう。
また、「いまマラソンがブームです!」と聞けば、これまでランニングにさえ興味のなかった人でも、あちこちで格好いいウェアを着てランニングしている人が目に付くようになり、自分もマラソンに参加してみたくなったりします。この場合も、マラソンに対する重要度が上がったと言えるでしょう。
このように案外簡単にブリーフシステムは書き変わってしまうものなのです。何か自分に得なことがあると思うと、その情報に安易に乗っかってしまうことがあるのです。
ところが、ここで大きな問題があって、今の二つの例で重要度が変わりブリーフシステムが変化したきっかけは、他人からの情報でした。あなた自身を起点にして、書き換わったわけではありません。
あなたのブリーフシステムを変えたその情報は正しいものだったのでしょうか。あなたは本当に自分がやりたくて、そのダイエットを始めたのでしょうか。正しいかどうかも検証せずに、ただ雰囲気にのまれて始めただけではないのでしょうか。そこがとても重要なポイントです。
趣味なら、元々、誰の役に立っていなくても好きでやるものなのだから、それで良いのかも知れません。でも、職業や社会貢献の場合は社会の役に立って初めてやる意味があるわけですから、自分できちんと検証した上で、その情報を受け入れるかどうかを判断すべきでしょう。
このように、特に他人や自分の人生を左右するようなことの場合には、ブリーフシステムが書き換わる気かっけは、自分でなければなりません。自分から自発的に「変わろう!」と思うことなしに、他人からの忠告やその場の雰囲気に乗ってしまったのでは危ないと思います。
ところが一方で、他人の言葉によって簡単に書き変わってしまうブリーフシステムですが、自分で書き換えようとすると、これが案外難しいのです。そもそもブリーフシステムは、自分がこれまでに身に付けた、あらゆるものに対する信念の束みたいなものですから、特に自分の人生を左右するような重大問題に対峙している時には、そう簡単に変えられないのです。周りの人から色々アドバイスをもらったとしても、即座に「はい、わかりました」と言って、簡単に「変わろう」などと思うはずもないのです。
同じように、コーチングセッションの中でコーチがクライアントに何かアドバイスしたところで、クライアントのブリーフシステムは書き換わりません。ブリーフシステムが書き換わるのは、クライアント自身の言葉によってなのです。それを内省言語というのですが、ハッと気付いて、自分の内側から出てくるような言葉のことです。
コーチングを受けに来られるクライアントは、変わりたいけれど、どう変われば良いのかわからない、もしくは何が自分の心の中で引っ掛かっているのかが分からないという状態です。コーチングセッションの間、そんなクライアントに対してコーチは色々な形で働きかけますが、クライアントは自分自身を見つめて、変化に対して障害になっているものの存在に気づき、もしかしたら、これまでは避けて通ってきたことや、乗り越える勇気がなかったことを、えぃ、やっ!で自分自身で打破していくしかないと奮起する気持ちが湧き起こった時にはじめて、ブリーフシステムが書き換わると言えるのかも知れません。
結局のところ、クライアントがゴールに向かって進んでいくのは、コーチの力ではなく、ほぼ全てクライアント自身の力なのです。もちろん、コーチにはそのためのマインドの状態をクライアントの中に作っていくという大事な仕事があるわけです。