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力を奪わない。時間がかかっても、気づきを普遍化する――当事者が「思い」を「伝える」ということ:映画上映会を開きました


当事者が思いを「伝える」ってどういうこと? 何を大切にしたらいいの?

家事や育児など日々の生活に追われて、思いを言語化できないときは――。


ドキュメンタリー映画「インディペンデントリビング」の上映会&監督たちとのお話し会を4月、オンラインで開きました。子育てメディア「コマロン」と、「コマロン」に記事を書いている砂子啓子さんi-くさのねプロジェクト)が主催です。

お話し会では、参加者が映画の感想を自由に語り合いました。また、制作陣や出演者から制作過程や自立運動にかける思いをお聞きしたほか、数多くの映像作品を発表してきた鎌仲ひとみプロデューサーに、日々の気づきを言語化するプロセスも伺いました。(原稿の最後でご紹介しています)
 
映画の舞台は、大阪にある複数の自立生活センター。障害者自らが運営し、家族の元や施設を出て、一人暮らしすることを望む障害者をサポートする場所です。利用者たちは、さまざまな障害や病気などの影響で、自分の思いをうまく言葉にできなかったり、実家や施設にいた影響などから「自己決定すること」が得意でなかったりする方々もいます。

自立して生きるため、壁にぶつかりながらもチャレンジする利用者と、彼らの自己決定を尊重して寄り添うスタッフ。彼らに密着したドキュメンタリーです。
 
お話し会には、田中悠輝監督、鎌仲ひとみプロデューサー、そして映画に出演していた自立生活夢宙センター代表の平下耕三さん、一緒に働く事務局長の内村恵美さんもゲストとして参加していただきました。

田中監督、平下さん、内村さん、鎌仲プロデューサー(左から)


3年にわたった撮影期間。田中監督にとっては初の監督作品でしたが、取材相手と丁寧に信頼関係を築いてきたことが伝わってきました。撮影する側も緊張が走るようなセンシティブな場面もカメラに収め、映画の重要なシーンの一つとなっています。

「結構みんな恥ずかしがり屋なんですよ。でも、自立生活運動のための映画だと最初に言っているので、みんなで協力しました」(平下さん)
 
映画で大事なキーワードとなるのが「自立」
 
劇中、一人の女性の自立生活を支援するスタッフとして、恵美さんが登場します。自身も難病による障害を持っています。恵美さん自身、自立生活するまでに「介助ヘルパーに対して、自分から指示を出すのに5年くらいかかった。自分で自分を感じられるようになった」と振り返る場面が出てきます。
 
「子育てでも、どうしても先回りしてしまい、子どもの意思を尊重できていないことが多々ある。どうやって主体性を獲得していったのでしょうか」
 
恵美さんに対し、子育て中の参加者からは今の悩みを交えた質問が出ました。
 
洗濯するタイミング、ご飯何食べるか…。母親と住んでいる時はそこまで細かく考えませんでした。先に自立生活を送っている先輩からアドバイスをもらったり、主体性を大事にしてくれるヘルパーさんが『どうしたいか』と声をかけくれたり。それを1、2、3年…と繰り返す中で、『こうしたい』という自分がだんだん見えてきて、自信を持って人に伝えることができるようになりました
 
自己決定を尊重してくれる周りの存在や、自分自身で自分に問いかける積み重ねが恵美さんの自立につながったようです。
 

「俺は基本的に、居場所ができれば人生豊かになると思っている。障害あるなし関係ない」
 
こう語ってくれたのは平下さん。全国に自立運動を広げようと、JIL(全国自立生活センター協議会)の代表も務めています。

「一番大切なのは仲間。仲間を増やすために自立支援をしている。居場所を追求し、みんなが共感してくれているから夢宙も20年間続けることができた」。
 
鎌仲さんも、「仲間を大事にする。『なんでもいいよ』って言ってあげる。力を奪わない。失敗することもあるけど、それはそれでいいじゃないという感じ」と平下さんたちの居場所づくりの魅力を語ります。
映画では、平下さんが支援した障害者が支援者側にまわり、新たに居場所を作っていく――という連鎖も映し出しています。
 
 
さて、子育て中の記者が立ち上げた小さなメディア「コマロン」。暮らしの当事者が、日常生活で気づいたことや、地域で活動する人たちの思いなどを伝えようと誕生しました。でも、家事・育児など日々の生活に追われ、なかなかすぐに言語化できない、文章にできないことも多々あります。どうやって感じたことを言葉にして発信すればいいのでしょうか。ゲストの皆さんに聞いてみました。


 鎌仲さんは、恵美さんの劇中の言葉「自分で自分を感じること」がまず大事だといいます。

「自分自身が何を感じているか、自分でふたをしている人が多い。目の前でやることが多すぎて。でも、何かを伝えたいなら、自分だけの感覚を自分で感じないとできない。

自分がどうしたいの?どんな風に暮らしたいの?自分が自分になっていくことで、そこから気づきが生まれるんですよね
 
映画作りの原点のついても明かしてくれました。

「私がものすごくプライベートで気づいたことを、もっと多くの人と共有する。気づきを普遍化する。それが私のミッションなんだと、ある時ひらめいた」


日々の気づきを言語化するプロセスも教えてくれました。
 
「脳の中で心の部屋をつくって、それをためておく。伝えたいと思う人を何人か想定して、その人に伝えるならどうすればいいかを考える。なるべく分かりやすく、平易な言葉で伝えたい。けれど、畑仕事や皿洗いなどでふっと入ってくる言葉は自分の言葉。大切にしたい」
 
平下さんも「実感することは本当に大事。私も自立生活の良さを実感したからこそ、この運動の魅力を発信したいと思った。時間がかかるけど、良さを伝えていくしかないんじゃないかな」と共感していました。
 
 
日々の湧き上がる思いを、どうやったら言葉にして伝えられるのか――。
ヒントをたくさんもらうことができました。
まずは自分を自分で感じる。その積み重ねなのだと思います。
 
せわしなく過ぎゆく日々ですが、ちょっとした気づきやひらめきを大事に生活していきたい。そんな風に前向きになれて、そっと背中を押してもらえたような映画&お話し会でした。


映画上映会は、今後も続いていきます。6月18日には、NPO法人 自立生活センターぶるーむ・自立生活センター・エコー主催の映画「インディペンデント・リビング」の上映会が開かれます。詳細はこちらから。ぜひご参加下さい。

【書き手】大平明日香。地元埼玉で保育園に通う男児を育ててます。毎日新聞記者。長野、東京本社社会部、長崎、埼玉で勤務し、現在は東京本社デジタル編集本部に所属。息子のおかげで、妖怪にくわしくなりました。目下の悩みは、増え続けるカプセルトイとバスボール、ファーストフードのおもちゃの置き場。