「レピュテーションリスク」から共創アカデミーの未来を考える
共創アカデミーの Chief Innovation Officer の大知です。
共創アカデミーでリスクマネジメントを担当していますので、今回は、レピュテーションリスクについて綴ってみます。
1.レピュテーションリスクとは
「レピュテーションリスク」という言葉をご存知でしょうか?
なかなか難しそうな言葉ですね。
「レピュテーション」は直訳すると「評価」ですが、ここでは「社会的な評判」とか「世の中での風評」という意味で使われており、レピュテーションリスクとは、「その会社のネガティブな情報が世間に広まり、信用やブランドが損なわれること」を意味しています。
つまり、その会社の商品・サービスもしくはその会社自体の評判が悪化する危険性ということです。
こういった概念は昔からありましたが、ここにきてレピュテーションリスクがクローズアップされてきています。
その要因のひとつとしてネット環境、SNSの発達が挙げられます。SNS上では、個人が商品・サービスに対する批判などを容易に投稿できます。
また最近では、マスメディア等もSNSで話題となったトピックを取り上げるようになってきています。いったん会社のマイナスイメージが投稿されれば、瞬く間に社会全体へ広がってしまいます。
企業におけるレピュテーションリスクはいっそう重要度を増していると考えられます。
2.レピュテーションリスクの事例
こういったレピュテーションリスクを考える上で参考となる具体的な事例をご紹介します。
古くは20年以上さかのぼります。
インターネットが普及し始めた頃に起こったある電気製品へのクレームなのですが、メーカー側が対応を誤った結果、購入者とメーカー担当者との録音音声がネット上に公開されました。
そこでのやり取りは、気弱な購入者とドスの効いた担当者の恫喝のようにも聞こえ、そのメーカーへの非難が集中します。
最終的には経営幹部まで巻き込んで謝罪会見を開くまでに至った事件です。当時、メーカー側もまさかここまでの事態になるとは想像していなかったと思います。
この事件以降、企業のリスクマネジメント部門は、ネット上の情報を細かくWatchするようになりました。
この事件は、たった1人のユーザーがネットの力で企業を動かし、企業のリスクマネジメントのあり方を根底から変えたという観点から、ネットと企業の関係について今日でも十分参考になる極めて示唆に富んだ事件だと私は考えています。
最近の事例では、某回転寿司チェーン店の迷惑動画が記憶に新しいところです。
一般の消費者が自席での不衛生な悪ふざけをした動画を投稿した結果、そのチェーン店は、注文された商品しかレーンに流さない、レーンとテーブルの間にはアクリル板を追加し商品を取る際のエリアを制限する、自席の調味料はお客様お要望があれば交換する、といった対応に追われました。
たったひとりの利用者の悪ふざけが、これまでの回転寿司のあり方を根底から変えてしまい、企業を窮地に追い込んだ事例です。
一旦このような事態が起こればネットを通じて一瞬のうちに世の中の知るところとなり、その企業に全く責任がないとしても、風評被害は免れないこととなります。
実際、このチェーン店の株価の時価総額がなんと100億円以上も下落してしまいました。
3.レピュテーションリスクへの企業の対応について
これらの事例を見ても、レピュテーションリスクへの対応は企業の喫緊の課題だということは良く分かります。では、改めて企業はどうすればいいのでしょうか?一般的な予防策としては、社内の統制ということになるかと思います。社内ルール整備・監視体制の強化・違反者に対する罰則・従業員研修による意識向上などを通じて、レピュテーションリスクを深刻な形で顕在化させないように努めることがポイントとなります。また、リスクが顕在化した場合に備えて危機管理マニュアル等を整備し対応していくことも必要です。
一方で、我々共創アカデミーは、「場創り」を事業の中心に置く企業です。ここで申し上げている「場」とは、法人向けの研修やワークショップなど、多種多様な参加者が集まる「場」を指しています。その「場」にはいろんな背景や異なる考え方を持った方が多く集まり、ときに、本音で語り合います。そういった「場」においては、レピュテーションリスクの顕在化への対応は重要な課題と考えます。
ここで「場創り」においてレピュテーションリスクが顕在化した状態を少し具体的に考えてみたいと思います。
例えば、異業種交流のような「場」を構築し、ある程度長い期間にわたってそこで少人数のグループ活動のようなものをおこなうとします。当然そこにはいろんな出身母体の多様な人材が集まってくるわけです。
そこでメンバ同士の意見の衝突が起こらないとも限りません。主催した共創アカデミーにはグループ編成をおこなった責任があります。あるメンバがそのやり取りの模様をSNSに投稿して共創アカデミーを誹謗中傷するということも考えられる訳です。
当事者同士の話で済めばいいのですが、世の中の非難が主催会社に向けられるという事態も十分にあり得ます。謝罪会見を開くような事態になる可能性もあります。当事者同士の揉め事で済むようなことが、事業が拡大すればするほどそのリスクが高まる、ということも言えます。
4.レピュテーションリスクの対応での2つのポイント
では、「場創り」を事業の中心とするような企業では、どのようなことに注意してレピュテーションリスクに対応すればいいのでしょうか。
大きく2つあります。
1つは、期待値コントロールです。
利用者に過度の期待を抱かせないことです。先ほどの電気製品の事例でも利用者が製品の機能に対して過度の期待を抱いていたことが発端です。メーカー側が、最初からクレーマーとして対応してしまったために最悪の結果を迎えてしまいました。期待値コントロールとは、言い換えればサービスレベルを明確にするということです。
例えば、企業向けの研修サービスを例にとりましょう。
定量的な効果を出しづらい人材育成の事業であっても、知恵を絞って具体的なゴールイメージを明確にする、という努力を怠らないことだと考えます。
研修1回あたりでどこまで成果を目指すのか、企業の業績の向上につなげていくために、研修だけでなく、その後の行動転換への仕組みなどをどう組み合わせていけば最終成果につながるのか、ということを事前事後のコンサルテーションで合意し、お客様の期待値と、こちらのサービスレベルを明確にしていくことが重要となります。
つまり、お客様とゴールイメージを共有し、そのゴールを共に目指すチームになるということです。
もう1つは、これがより重要で、企業の存在意義やビジョン・ミッションを明確に打ち出すことです。
企業のあり方、つまりその企業は何のために存在するのかを具体的にかつ分かりやすく世の中に発信することです。
これがレピュテーションリスクへの対応とどう繋がってくるのか、疑問に思われるかもしれませんがこういう理屈です。
その企業の存在意義やビジョン・ミッションが具体的だとそれに賛同する仲間ができます。仲間を増やしていくことで社会を味方につけるという効果が期待でき、レピュテーションリスクが顕在化したとしてもそういった仲間が助けてくれる可能性がある、という訳です。
共創アカデミーは、「世の中を元氣にする」というミッションを掲げ、「誰もが命いっぱい生きて活かされ合える社会を創る」というビジョン実現のために、これまで培ってきた場づくりのメソッドを活かしさまざまな価値を提供し続けています。
そこに集う多くの仲間は、持ち寄った知恵や情報を惜しみなく、持ち寄り、分かち合い、遠慮なく持ち帰ることができる「最高の居場所」を創り出しています。
そういった仲間と希望に満ちた未来を創っていくためには、「陽」と「陰」、つまり「創り出す価値」と「リスクマネジメント」の両面を考えていく必要があります。
5.まとめ
繰り返しになりますが、サービスレベルを明確にすることにより「期待値をコントロールする」、具体的で分かりやすい企業の存在意義、ビジョン・ミッションを発信することにより「社会を味方につける」、この2つの視点がSNS時代の新たなリスクマネジメントということが言えると思います。
レピュテーションリスクへの対応というとどうしても社内のルールを強化したり、顕在化した場合の記者会見マニュアルを準備したりと、ちょっとネガティブなイメージが付きまとってしまいがちですが、少し視点を変えて、これからは攻めのリスクマネジメントを考える時代になってきているのではないでしょうか。