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小さなリンクの挑戦/J-Ice North Division2019-2020最終戦 日本製鉄室蘭対DYNAX(後編)

2020.2.16(日)日本製鉄室蘭8-4DYNAX
(3-2、2-1、3-1)

室蘭市・中島スポーツセンターで行われたアイスホッケー北海道社会人B級リーグ戦、J-Ice North Division 2019-2020の最終戦。
熱戦の結果は、前編をご覧ください。

日本製鉄室蘭アイスホッケー部・室蘭スティーラーズのホーム最終戦となったこの試合は、小さな箱の限界までたのしい!を詰め込んだ、特別な一日でもありました。
後編はそのイベントを掘り下げます。

最終日スペシャルイベントの数々

12月8日以来、約2ヶ月ぶりのホームゲーム。
室蘭スティーラーズは、この最終戦を盛り上げるべく、怒涛のお楽しみ企画を打ち出しました。

まずこのポスターの出来がすごい。まるで縁日のよう!ちょっと行ってみようかな?と好奇心をくすぐられます。

・ハイタッチキッズ
小学生以下のお子様が対象。選手入場時にハイタッチ!

・ファーストゴールチャレンジ
誰がファーストゴールを決めるか、FW/DF一名ずつを選んで投票。当選者には抽選でサイン入りチームTシャツをプレゼント!

・飲食店の出店
やきとりと蒸しパン。ホーム開幕戦に出店した美味しいお店が再登場!

・記念フェイスオフ
社会人野球・日本製鉄室蘭シャークスの比嘉監督が記念フェイスオフ!
※当日は比嘉監督所用のため、小屋畑キャプテンが代理を務めました。

・フィギュア演技披露
地元のジュニア選手によるフィギュアスケート演舞!

・DJによる音楽演出
西胆振で活躍する3名のDJがスペシャルプレイで試合を盛り上げます!

・氷上交流会
試合後、選手が写真撮影やサインに応じます!
「バレンタインチョコ待ってます」との念押しあり←

更にこの後の追加で
・仮設観客席の設置(100席程度)
・レプリカジャージ販売(一着6,500円)
も発表されました。

ここまで書き出してみて……
あの…社会人アイスホッケーだよね?アジアリーグじゃないよね?

社会人野球に浸かってきたJABA脳は、理解が追いつかないと申しております。

そういえば、昨年弘前市へ社会人野球の大会を観に行ったとき、隣のグラウンドで東北社会人サッカーリーグ1部の公式戦(ブランデュー弘前FC対日本製鉄釜石)を開催していたんですよね。
レプリカユニの販売と激ウマなスタグルがあり、ものすごい訛りのスタジアムMCがいて、地元のゆるキャラがサッカー大会をして…そうか、これが近いんだ。

でも社会人アイスホッケーだよ?
他会場の試合でこんなのは見たことがない。

優勝は既に決しています。こんなたくさんの催しを打って、コケたらどうするの?

その心配は杞憂に終わりました。
2月16日は釧路でアジアリーグ・ひがし北海道クレインズ対王子イーグルスの大一番があり、室蘭市内ではだんパラスキー場で冬の一大市民イベント「むろらん冬まつり」が開催されていたため、集客には直前まで気を揉んでいたようです。
この日中島スポーツセンターに詰めかけた観客数は、最終的に、過去最高の580名を記録します。

350名でいっぱいのハコに

室蘭スティーラーズのホームである室蘭市中島スポーツセンターは、新日本製鐵(現・日本製鉄)が1972年に建てたプール兼スケートリンクを市が引き継いだもの。
元々社員の福利厚生用に建てられたものなので、観客を集めることを前提としていません。

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描いたん

リンクサイドにバルコニーがあり、普段はここから立ち見で観戦するスタイルです。

それが、2月16日はこうなった。

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バルコニーはおろか、リンクサイドにまで人がぎっしり。
このリングサイドには、観客がゆったり座って観戦できる、仮設席が設けられました。(更にご家族様専用席と来賓席も!)

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網張りなので視界に難はありますが、立通しが辛い方や小さいお子様連れの方にとって、座って観られる席はありがたいもの。
更にお尻が冷えないよう座布団の用意まで!これは、社会人野球・日本製鉄室蘭シャークスが本拠地とする日本製鉄室蘭球場の備品。断熱性とクッション性にたいへん優れています。

それでも収まりきらない観客はこんなところへ。

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もはやオフィシャルエリアと観客席の区別がつきません。(ここはリンクの出入口兼ペナルティです)
普段なら、そんなところに入るなんて!と眉を顰めたかもしれません。でもこのお嬢さんたち、DJのプレイに合わせて終始楽しそうに踊っていたので、こちらも朗らかになってしまいました。すぐ後ろにスピーカーが有るの、分かりますでしょうか?

3名の専属DJ

普段、J-Ice Northの試合では、時計が止まると洋楽が流れます。
今回のホーム最終戦では、西胆振で活躍するDJ3名による“スティーラーズオリジナル“のプレイがありました。

DJ Nakai

DJ Hatass

DJ Momoka

古くて小さいこのリンクは、カクテル光線など出せません。映像を流すこともできません。
ではどうするか?音がある!

これがすごくかっこよかったんですよ…!

私がぽんこつ過ぎて全然伝えられない。すみません。

寒いリンクで回し続けるのはきっと大変だったと思います。
最終戦を熱く盛り上げてくれた御三方に、ラブ、リスペクト、ラブ。

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また、写真には収められなかったのですが、第1ピリオドと第2ピリオドの間には、地元のフィギュアスケート選手が可憐な演技を披露してくれました。
普段の試合では触れることのない音楽と演舞。とても新鮮でした!

ファーストゴールチャレンジ

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本日の大穴 ○#17(村上キャプテン)△#4(山道選手)
山道選手はみごとDFファーストゴールを決めました!

開幕戦に続き今回も登場・ファーストゴールチャレンジ。
入口で抽選番号の付いた投票券(FW/DF1枚ずつ)を受け取り、最初にゴールを決めてくれそうな選手に投じます。的中させると素敵なプレゼントが。
本気で当てにいくより、ご贔屓に入れてしまうのが人情ってもの。

ちょっと男子!投票所の前でたむろしないで!

…すごく狭いリンクなので、ここの前でアップしてたんですよDYNAXさんが。かえって申し訳ない。

帰ってきたアリーナめし

この、ファーストゴール投票所の向かいには飲食店コーナーがあり、開幕戦にも来てくれた3つのお店が結集しました。

◆室蘭やきとり 伊勢広
室蘭を代表するB級グルメ・室蘭やきとりと、そのタレに漬け込んだ味自慢のザンギ。やきとりは外で炭を起こして焼き上げる本格派。

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こちらは以前実店舗でいただいたおでんとやきとり。中島町の繁華街にあり、リンクからすぐなので、ぜひ寄ってみてくださいね。

◆天然酵母の蒸しパン屋 まるぱん
火曜~金曜だけ開く、大沢町の蒸しパン屋さん。
この日用意されたラインナップは「コーヒーとチョコチップの蒸しパン」「きんぴらごぼうの蒸しパン」「鶏照り焼きの蒸しパン」。
目の前で蒸し上げる様子に、アップ中のDYNAXさんも興味津々でした。笑

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◆おやつ屋 oyaMADE(オヤマデ)
店舗を持たないおやつ工房兼オーダーケーキ屋さん。まるぱんさんに委託して出店されることが多いそうです。
手間暇かけてこしらえたおやつは、甘さ控えめで美味♡

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マフィン(写真なし)と、春を呼ぶアイシングクッキーをいただきました。かわいい♡

どのお店も大盛況でした。ごちそうさまです!

室蘭シャークスコラボ・記念フェイスオフ

ホーム最終戦の記念フェイスオフは、社会人野球・日本製鉄室蘭シャークスの小屋畑尚哉キャプテンが務めました。(開幕戦は日本製鉄室蘭サッカー部監督が務めています。)

この日はフェイスオフのみならず、室蘭シャークスの選手達が揃って応援に来ていました。
野球部のオフシーズンは自主トレがあったり慶事が集中したりするので、全員で他の運動部を応援する機会はほとんどありません。彼らの目に、この密度と熱気はどう映ったでしょうか?

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最後は両チームで記念撮影!

そして、室蘭シャークスにつられてアイスホッケー部を観に来たよ!という方もちらほら。マーケティング的にも大成功ですよ!

ハイタッチキッズ&氷上交流会

ごめんなさい写真はありません

小学生以下のお子さんを対象とした入場時ハイタッチ、そして、試合後の氷上交流会(誰でも参加可能)がありました。
社会人チームで、試合後に一般向け氷上交流会を開くというのは度肝を抜かれました。激励会・報告会、感謝イベントがあるにしても、それは完全に社内向けで、部外者には縁がないものと思っていたからです。

今回のハイタッチキッズは、事前申込みをなくして当日受付制にしたところ、50名を超えるお子さんが集まったそう。
入場者数が580名ですから、その約1割。親御さんを含めると相当な集客力があったことが窺えます。

思えば、室蘭スティーラーズは日頃から小学校のスケート授業を担当しています。
スケートを教えてくれたお兄ちゃんが、試合では異次元のかっこよさを魅せてくれて、更にハイタッチや記念撮影ができるとしたら、どれだけわくわくすることでしょう。

氷上交流会も、多くの子どもたちが選手を囲んでいました。
教え子達が慕って応援に来てくれる、選手にとっても喜び一入。

これは最終戦の前日に行われた、児童館を利用する子ども達とのスケート交流学習会の様子。

氷上交流会では一般ファンもリンクに降りて、バレンタインチョコのお渡しや記念撮影を楽しんでいました。
…気がつけば、私、記念撮影をひとつもしていない。
ツーショットが苦手ならピン撮影を頼めばよいと気付いたときには後の祭りでした。笑

こんな不審なやつにも「応援ありがとうございます!」と声を掛けてくれた選手の皆様。こちらこそ、ありがとうございました。

DYNAXとシャークスも一緒に交流してよかったんですよ…?来年しましょう??(あやしい目つき)

室蘭スティーラーズが目指すもの

小さなリンクがお祭りに沸いた一日。
その企画は、ほとんどが室蘭スティーラーズ・渡谷総括マネージャーの発案によるものでした。
フィギュア選手・クラブDJへの出演打合せ、飲食店の出店依頼、仮設観客席の組み立て手配、それらを一手に引き受ける身は、どれだけ大変だったことでしょうか。
そして、当日は試合運営を司る室蘭アイスホッケー連盟の方以外にも、イベントを支える大勢のスタッフの姿が。

本当にお疲れさまでした。
素敵な企画をありがとうございます。

それにしても、室蘭スティーラーズは、企業チームながら、なぜここまで突き抜けたファンサービスをするのでしょうか?

シーズン開幕時のポスター。そこには「室蘭を熱くする!!」というスローガンが大きく記されています。(このスローガン自体は前々から使われています。)

強いチームを作り、全力プレーを魅せる。応援を通じて人々が一つになる。
すばらしいことですが、その関係はプレーする人・応援する人以上にはなかなか発展しません。

地元の飲食店や、クラブや、他競技と手を結ぶことで、あるいは積極的なファンサービスで、この小さなリンクの熱量を何倍にも高め、来場者が多彩に楽しめる空間を提供する。
大勢の観客の応援は、選手を力強く後押しするでしょう。そのプレーがまた人を惹き寄せ、たのしい!また来たい!を作り出す。
また、アイスホッケーで来場した人とゲストの接点ができれば、人の輪はリンクの外へも広がっていく。(実際、私は伊勢広さんの本店が気になって呑みに行きました。)
室蘭スティーラーズは、そうした循環を目指しているように感じます。

「頑張るからみんな応援してね!」ではなく、
「一緒に室蘭盛り上げようぜ!!!」ということ。

渡谷マネージャーのInstagramに、それを表す端的な言葉がありました。

#地域密着度ではなく愛着されるチームに

愛着とは日々の暮らし、苦楽の中で、ささやかな幸せが積み重なったもの。
試合に興奮した、選手がかっこよかった、DJにしびれた、やきとりが美味しかった。あのリンク楽しかったな。そんな喜びを日常に。
それはいつか「だからスティーラーズが好き」「アイスホッケーが好き」「この街が好き」に育つかもしれません。

たのしい!には対価を払いたい

今回の最終戦は本当に楽しくて、この日のために尽力された方々の奮闘に胸を打たれて、私はますます室蘭スティーラーズが好きになりました。
ただ、楽しいほどに心の隅で気になることがひとつ。

こんな楽しいことをタダで享受していいの?
入場無料という金銭面においても、ヨソモノが何の労もなくおいしいところだけをいただく、精神面においても。

今回、スペシャルイベントが組まれたのはJ-Ice North Divisionホーム開幕戦と最終戦の2試合でした。
満員御礼の手応えを得て、来季はこれをホーム開催全試合に広げる計画が始動したと、渡谷マネージャーは綴っています。

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渡谷マネージャーのInstagramより。ご本人様の許可を得たので転載します。

私は、室蘭のホームゲームなら、木戸銭を出すのは何ら惜しくないと考えます。むしろ払いたい。
現にJ-Ice North会場(室蘭、沼ノ端、白鳥王子、帯広、釧路、月寒)のうち釧路は入場料600円を徴収していますから、不可能ではありません。

また、現在は社内向けにのみ組織されている後援会。
これを外にも広げられたらいいのになと思います。大好きなチームだから、たのしいを受け取るだけではなく、支えたいのです。

「あの小さなリンクで、本当にそんなことできるの?」を実現させた室蘭スティーラーズ。
次のシーズンを迎えるとき何が待っているか、今から楽しみです。

そしてチームは3月に行われる全国大会、全日本アイスホッケー選手権大会BJ-Iceプレーオフに臨みます。どちらの大会でも選手が十全の力を発揮できるよう、心から願ってやみません。

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