初日、初回

色んなシーンで様々な事案の通訳をして来た。

簡単な日常業務の進捗、会議、役所との折衝、労使交渉、そして訴訟など。

その中で今でも最も鮮明に覚えているのが2002年5月12日の通訳だ。20年以上も前のことをこうして日付まで覚えているのはその日が入社日だったから。

まだ会社の様子がよく解らなかった私は送迎バスに乗り遅れ、在庫削減プロジェクトのキックオフミーティングに呼ばれた。

社長始め、各部門長が顔を揃えた会議室に入った瞬間、これが会社の重要課題であることを察した。それなのに、そこで飛び交う言葉は製品名なのか?或いは取引先名なのかさえ解らず私は狼狽え、社長が削減目標2億バーツ!とバシッと決めた後固まった。庶民の私は百万以上の桁数とは無縁だったのだ。

会議室を出た後で200Mバーツと言っても良かったと気付いたが、すっかり自信を失った私には何の意味も持たなかった。

デスクに戻る前に社長室のドアを叩き、通訳の出来の悪さを素直に詫びた。すると思ってもみなかった言葉が返って来た。「期待しているからね、頑張ってよ!」

もし、嫌味の一つでも言われていたら私はタイ語と距離を置いていたかも知れない。当時は薄給だったが、通訳をした後、議事録を作成し、更にタイ語に翻訳するところまで一人でやった。

今こうしてタイ語で仕事をしているのは、当時の社長の激励と会社の高い要求事項のお蔭だろう。

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