コウノトリのかかしの修繕を通して出来た、住民さんとの新しい繋がり
国の特別天然記念物であるコウノトリが営巣して暮らす、雲南市大東町春殖地区。その春殖地区の地域自主組織で副会長を務める岩田さんは、ある日知り合いが発案者として参加する地域おせっかい会議に、応援を頼まれて出席することに。はじめて参加する地域おせっかい会議では、発案されたお題を自然と自分ごとのように考えて、ハラハラどきどきしながらも、その場の明るい雰囲気に触れて帰ります。
そして後日「どうでしたか?」と挨拶に来た地域おせっかい会議事務局メンバーに、岩田さんは切り出します。「自分も子育て世代がもっと来てくれる交流センターになるにはどうしたらいいかアイデアが欲しいわ」と。
そこで今回は、春殖交流センターの玄関にあった、地域で愛されるコウノトリかかしの修繕を依頼され、修繕を通じて新しいつながり作りに挑戦した岩田さんと、修繕に参加された澤和さんにお話を聞きました。
——玄関口でさっそくコウノトリかかしにお出迎えしてもらいました。このかかしはどんな経緯で置かれたのでしょうか?
岩田:最初のコウノトリかかしは「山田のカカシコンテスト」というイベントで出展するのに、デイサービスの運転手も務める地域の方が手先が器用で骨組みを鉄筋で作ってくださり、その上にデイサービスを利用される皆さんで布を貼って作りました。
しかし雨風も吹き込む場所にあるので、白い生地も汚れが目立つようになってきて、修繕をしたいなと思っていたところだったんです。けど自分だけではできないし、誰かいい縫い子さんはいないかと探していました。
——また岩田さんはかねてから地域の子育て世代の女性との繋がりを持ちたいと思っておられたと聞きましたが、その背景にはどのような思いがあったのですか?
岩田:おかげさまで春殖交流センターは新築してもらいましたが、日頃から気兼ねなく人が来てくれる場所にしたいという願いがありました。それにはまず、地域に暮らす女性が動けば周りも動くのではと思ったんです。
現代は就業形態も変わってきて、仕事や家庭の考え方も変わり、個人の時間を削りたくないという思いもあるかと思います。スポーツ少年団の送り迎えもお母さん方が頑張っておられる姿を多く見ます。しかしそういう忙しい年代の方にも、地域で楽しくやってもらおうと思っても、声かけ役を誰に頼めば良いか分からないのが現状でした。こればっかりは自分がお母さん方に声かけて回るわけには行かないと思ったからね。
——そんな思いを背景にして、コウノトリかかしの修繕プロジェクトは進んで行ったのですね。
岩田:はい。とにかくあの頃、11月14日の春殖ふれあい祭りに間に合うといいのにと思って、10月に交流センターに来られた人には「コウノトリかかしを修繕したい」と話していたね。そんなときに地域おせっかい会議の事務局さんとお話しして、修繕の日程を調整しましょうということになりました。
道具は交流センターで準備するので、人集めのアイデアは地域おせっかい会議でも協力してもらえませんか?と打ち合わせをして、修繕を11月6日土曜日に行えました。その日はちょうど地域の方がしている、子どもの読書会の日だったので、その関係の方含めて15〜6人が入れ替わり立ち替わりで来られました。そんな中、設計図も何もなしで、まずコウノトリかかしを骨組みの状態にしてね。材料も、白い部分はシーツ、黒い部分は交流センターにあった幻燈の暗幕が使えるんじゃないかなどと工夫しました。実は材料は話が本格的に進む前から用意していたんです。
朝9時から始めて14時くらいまで作業したコウノトリかかし、はやはやで作ったにしてはなかなかの出来栄えじゃないかな。個人的には発泡スチロールで前日につくったくちばしがポイントです。
——修繕に参加された澤和さんにもお伺いします。今回参加してみようと思われたきっかけはなんだったのでしょう?
澤和:最初は地域おせっかい会議の事務局の方に声をかけてもらったのがきっかけです。春殖地区は子どもが通っている小学校区でもあり、交流センターも子どものスポーツ少年団の活動で利用していました。以前のコウノトリかかしとも一緒に写真を撮るくらい馴染みがあったので、何かお手伝いできることがあれば、という気軽な気持ちで行きました。
——実際に参加してみていかがでしたか?
澤和:子どもも一緒に参加できると聞いたので、小学校関係の知り合いもいるかなと思っていましたが、参加してみると初対面の人ばかりでびっくりしました。けどよく話を聞くと、同じ小学校の学年違いの保護者さんも多くおられたり、自分の住んでいる地区の方もおられたりしました。学年は違っても「うちも同じ小学校だよ〜」という話のできる方との出会いが嬉しかったです。
当日の作業は行ったらすぐに「ではこの布をこの骨組みに縫い付けていきます」で始まっていき、最初は「どこをどうやって?」と戸惑いましたが、言われた通りに縫っていくと、その出来上がりに感動しました。だって寸法も合わせずに「ここは余ってるから切ろう」など、その場で話し合いながら作ったんです。材料も余ったシーツとか、特別なものじゃないことや、地域の名人の方の指示や工夫などもとても勉強になりました。
——澤和さんにとっても、新しい繋がりができるきっかけとなったんですね。それと今回、思いがけない再会もあったと聞きました。
澤和:はい、実は子どもが小さい頃に病児保育をよく利用していたのですが、その際お世話になった看護師さんが参加者の中におられたんです。
仕事柄たくさんの子どもを見てこられたと思いますが、(嬉しいことに)会ってすぐ「〇〇ちゃんのお母さんでしょう!」と声をかけて下さいました。子どもが大きくなるとなかなか会う機会もなくなってしまいましたが、病児保育でお世話になっていた子も一緒に参加していたので、元気に大きくなったことが報告できて、とても嬉しくなりました。
こういう機会に参加すると、いつもと違う繋がりが広がったり、また繋ぎ直されたりするんだなあとわかり、行って良かったなあと思います。
——澤和さんのお話を聞くと、当日たくさんの笑顔と繋がりが生まれたことがうかがえますね。修繕後のコウノトリかかしも、なんだか誇らしげにしているように思えます。岩田さんは今回の修繕を通じて嬉しかったことはなんですか?
岩田:地域の初めて会う人が来てくれたことです。例えば子どもの読書会から参加された方とその旦那さんなど。「地域にこんな人もいるんだ」と知っていれば、今後何かあった時「あの人に声をかけるのはどう?」と提案できますから。地域活動を見かけて知らん顔するのではなく、興味を持って関わってもらえそうな若い人の存在を知れたことが嬉しかったです。一人とさえ知り合えば、その周りにいる人とも繋がれたようなものだからね。
——まさに「声かけ役」の候補となるような方にお直しを通じて出会えたのですね。今後の展望などはおありですか?
岩田:展望はないです。(笑) 今回も思いつきみたいなところがあるので。けど個人的には、とにかく「新しい人、次の人」を巻き込むということに関心があります。高齢者サロンも子育てサークルも、次の人が入る流れがないと小さくなっていく。さらにコロナ禍で、元々あった繋がりの機会も縮小されてしまっています。防災にも関わると思うので、参加したくなるような魅力をうまく伝えたり、小さい規模でも人が集まる祭りをやりたいな。
——最後に、岩田さんにとって、地域おせっかい会議とはどんな存在ですか?
岩田:正直言って、いまだに全貌はつかめていません。(笑) いろんな人が関わっているけど、みなさん普段のお仕事もあるだろうにと、不思議に思って見ています。
けど地域おせっかい会議は土台を作る活動なんだと思います。大きなイベントを突発的にやるのではなく、小さくても継続的にいろんな人が関われる土台なんだと思っています。
「地域おせっかい会議のことは未だによく分かってない部分もある」そうお話しされた岩田さん。けれど参加してみることで「新しい人と出会いつながる場として関われることは分かった」と言われていたことが印象的でした。
「地域おせっかい会議とは何か」を分かりきるより先に、参加してみることで始まることがあるかもしれない。今回のお話からは地域おせっかい会議にそんな可能性を感じました。
ライター 平井ゆか