郵便局のまちの保健室、コツコツ発展中!
2年前にもインタビューをさせていただいた、雲南市三刀屋町の三刀屋郵便局で行われた「まちの保健室」。地域おせっかい会議で発案した局長の板倉さんは、その後も続けて開催したいと思うものの、開催方法の模索が続き、活動の継続には至っていませんでした。しかし2021年9月から「まちの保健室」はほぼ毎月開催されています。活動の再開と継続にはどんなきっかけがあったのでしょうか?前回のインタビューからの変化とあわせて、お話を伺いました。
前回のレポートはこちら↓
——まずはじめに、2021年9月から数えるともう8回も開催されてると聞きびっくりしました(注:2022年6月末時点。またコロナの影響で2回中止)。
まずは改めて、まちの保健室では毎月どんなことをされているのか教えてください。
三刀屋郵便局の入り口横の会場に、その月のテーマにちなんだ4つのブースを設けて、一度に4つの暮らしに役立つ情報を持ち帰ってもらえる場にしています。テーマは季節やその月にある記念日などにちなみ、介護の日があれば転倒予防のロコモチェックをしたり、体力測定などのブースを出展してもらったりしています。
最近では利用者の方にも「郵便局でよくなにかやってるね」と言ってもらうようになりました。まちの保健室の会場は、郵便局の用事をして帰る時にちょうど真正面に見えるんです。だから気軽に入れるし、入らなくても「郵便局でなんかやってるわ」というイメージが定着しつつあるんだと思います。
それと実は、このブースを出してくれる方との繋がりも面白いんです。ほぼ毎回出展してもらっている明治牛乳さんは、最初たまたま違う用事で局に来られた際に話し込んだことがきっかけです。どうやら骨密度計を持っておられるということが分かり、まちの保健室のことをお話ししたら、快く協力いただけることになりました。いつも無償で骨密度計を持ってブースを設けてくださってます。骨密度って、特に女性の関心が高いのですが、血圧などに比べて図る機会が少ないから結構人気なんです。「測れますよ」と声をかけると、だいたいの皆さんが会場に入ってくださいます。
あと食生活改善推進員さん(以降、食改さん)にも季節ごとに出展いただいていますが、それもたまたま中野郵便局の局長さんとの話から紹介してもらったのがきっかけです。食改さんも食生活改善の活動の場を増やしたいというニーズと、まちの保健室のテーマが重なるねと話し合い、季節に応じた減塩レシピなどの食事に関する啓発ブースに協力いただいています。
そして今度は食改さんと明治牛乳さん同士が知り合いになったことで、他の地域のイベントでも連携されたと聞いています。まちの保健室でできた繋がりが別の場所にも広がり、また新しい繋がりを生んでいるんだなあと感じています。
——再開してから毎月継続しているだけでなく、三刀屋郵便局を起点に他の地域にも発展しているのですね。さて、前回インタビューで伺った際から、その後一年以上期間をあけた再開には、どんなきっかけがあったのでしょう?
2020年2月の初回時は、こちらも力を入れてドカンと開催し、60人ものご来場をいただきました。けどそれってある意味イベントみたいな感じになったんですよね。
それはそれで盛り上がって本当によかったなと思うのですが、本来やりたいのはそうだっけ?と。改めて考えると、イベント的にやって参加者を集めることより、続けていくことで地域の皆さんに「あそこに行けばまちの保健室やってるよ」ということを認知してもらうことを大切にしたいなと。なので最初の開催以降も、水面下ではどうやって開催するのがいいかずっと考えていました。
そんな中、雲南市とコミュニティナースカンパニー株式会社と日本郵政の連携協定が結ばれたことをきっかけに、「郵便局の健康ステーション化」というテーマでモデルをつくるというお題をいただきました。私の中では「今まちの保健室で使っている部屋を通じて、地域に開かれた郵便局にする!」という方向で決まっていました。そこでその頃から、地域おせっかい会議の事務局であり、訪問看護ステーションコミケア※1のスタッフである木村さんや古津さんと打ち合わせながら「三刀屋おせっかい会議」の仲間を増やしていったんです。
木村さんとはその頃、「とにかくコツコツ、コツコツ行こう」を合言葉に毎月打ち合わせをしていましたね。そうやって話すうちに、コミケアさんの理念に「地域の皆様のセルフケア能力が向上している状態」という言葉があることを知ったんです。私も郵便局に来てくださった方に、何か一つでも暮らしや健康に役立つ情報を持ち帰ってもらいたいと思っていました。そうやってお互いの実現したいことを分かったうえで、その共通する部分を、まちの保健室という形でならコツコツやれそうだとね共通理解できたことも大きいと思います。
——お互いの実現したい理念を理解したうえで協力し合える仲間の存在は大きいですね。ちなみに板倉さんご自身にも何か変化はありましたか?
実は私が「健康ステーション」や「まちの保健室」という言葉から気付かされたことがあって…。これまでは「健康」と聞くと、どうしても身体面や医療に関することというイメージがあったんです。けれど2020年11月に郵便局で開催した「個性展」をきっかけに、あの企画で作家さんの心の健康にも関われたのかと思うと、「健康」って別に身体や医療に限らないんだなと思うようになったんです。
だからまちの保健室では、雲南市と連携協定を結んでいるIT系情報発信の会社※2の梅澤さんに来てもらい、スマホやデジタルに関するお悩み相談のブースを設けたり、地元の行政書士の松尾さんにも、消費者問題をクイズ形式で知れるブースを出してもらったりしています。スマホひとつとっても、困っている方にとっては大きな悩み。それが解決すると心が晴れるだろうし、消費者トラブルも事前知識があれば、普段は恐る恐る出ている電話も安心して出れるかもしれない。様子を見ていると、両方ともしっかりお話を聞いて帰られる人が多い印象です。
だからこのまちの保健室は、健康をまるごとサポートする場になって来てるのかなと思っています。
——前回のお話の最後に「目指すのは『暮らしの保健室』」とおっしゃっていましたが、まさにその通りになっていますね。
さて最後に、実は今回、三刀屋おせっかい会議事務局の木村さんから板倉さんに質問を言付かっています。「板倉さんはいつも打ち合わせや声かけを楽しそうにしてくださりとても嬉しく思っています。お忙しい中なのに、そうやって楽しそうに(おせっかい)してくださるのはどうしてですか?」
それを聞いて、今、ちょっと涙が出そうです。(笑)
逆なんです、嬉しいのは。
例えばまちの保健室って、私は中に入っても健康や暮らしに関する情報提供って何もできないんです。自分にできることは最終的な現場づくりじゃなくて、事前に人を繋ぐこと、それと当日の呼び込みです。それでお役に立ったり、楽しんでもらえてる姿を見ると、やっぱりやってよかった!という気持ちになります。だから楽しんでる理由は、そういう言葉を聞くのが一番嬉しいからかなあ。
それと、一緒に動く木村さんからも元気をもらっています。いつ会ってもあの明るさに励まされて、一緒に頑張ろうという気持ちになります。それに古津さんの前向きさ。以前三刀屋地区の交流施設「ほほ笑み」でもまちの保健室をした時、なかなか参加者が集まらなかったら「じゃあ私チラシ持って歩いて来ます」って、どこまでもどこまでも歩いてゆかれるんです。そのひたむきな姿に、自分も動こう!と思わせてもらってるんです。
——板倉さんのやりがいには、まちの保健室の利用者さんに喜んでもらえることに加えて、思いを共有している仲間のために動く喜びもあるのですね。
そうですね、そういう価値観を共有できているかは大きいです。再開した後もあまりイベントぽくならずコツコツと定着できてるのは、協力してくれるメンバーが同じ思いで一緒にやってくれたからだと思っています。
この先も大掛かりなことにチャレンジするというより、続けて根付かせていくチャレンジをしていきたいと思います。続けていくことが一番大変だと思うけど、協力してくださる仲間が少しずつ増えているので、やっていけるかな、と思っています。
板倉さんのお話からは、大きいことよりもコツコツ続けばいい、途切れても再開すればいい。そして仲間たちと一歩一歩、理想としていた健康づくりに取り組める喜びに溢れていました。
「いつも全てのブースを体験して、血圧もロコモチェックもばっちり。自分が一番恩恵を受けているかも」
そう言って笑う板倉さんは、2年前よりもさらに晴れやかに、健康おせっかいを楽しんでいるようでした。
ライター 平井ゆか