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東京地判令4・6・17

基本事項

裁判年月日 令和 4年 6月17日
裁判所名 東京地裁
裁判区分 判決
事件番号 平29(ワ)39859号・平30(ワ)9239号 事件名 損害賠償請求本訴事件、報酬等請求反訴事件
ウェストロージャパン

プロジェクト・マネジメント義務の定義

(適切な開発手法を採用し)、かつ、適時適切な修正、調整を通じてシステム完成に向けたプロジェクト・マネジメントを適切に行う。

求められる作為

①     パッケージベースアプローチ開発におけるカスタム開発比率等の問題に自ら注意を向けること
②     ユーザーに対してカスタム開発比率を抑える為に、業務をパッケージソフトウェアに合わせたり、業務を簡素化することを促すこと
③     追加提案にあたっては、これがユーザーの目的から外れることなく、且つタイムリーに行う必要がある。
④     開発に必要となる技術を有するメンバーを十分な人数、参画させること。

 

本件におけるプロジェクト・マネジメント義務違反

パッケージソフトウェアを積極的に活用し、業務の簡素化などをしない限り、システムに本稼働の見込みはなく、稼働後も早期停止することが容易に推認できたにも関わらず、テスト工程で障害が多発するまでそのような危険性があることに気付かず、又はその危険性を軽視し、むしろユーザー要求に応ずるままにカスタム開発の比率を高めていったことにより、いたずらに本件システムを肥大化させたこと。

本件システムが完成したといえるためには、ユーザーと合意した仕様に従ってこれを開発する必要があったが、ベンダーによる追加提案は、その追加費用及び追加開発期間についてはもとより、業務革新ポイントの多くが達成できない結果となるなどの点においてもユーザーの同意を得ていないし、時機を逸していた。

べンダー側は、パッケージソフトウェアの標準部品を活用するためにより専門的知見を有するエキスパートを投入する必要があると述べるが、そのこと自体、それまでの本件システムの開発要員では、SFの標準 部品の十分な活用が困難であるとの認識をうかがわせる。
 

 ベンダー側のプロジェクトマネジメント・義務について

ユーザーの側にも、仕様の確定が遅れたとか、仕様変更要求を適時に被告に伝えなかった等の問題があったことは事実であるが、ユーザーが要望した仕様変更を考慮しないとしても本件システムは稼働する合理的な見込みがなかったものと解される上、原告による仕様の確定が適時適切に行われていたからといって、それだけで本件システムの 肥大化による本件制約等の顕在化を防ぐことができたとは考え難いことなどからすれば、ユーザーにプロジェクト ・マネジメント義務違反があったとまでいうことはできない。

若干の考察

本判決においては、ベンダーに、システムに本稼働の見込みはなく、稼働後も早期停止することが容易に推認できたにも関わらず、テスト工程で障害が多発するまでそのような危険性があることに気付かず、又はその危険性を軽視し、むしろユーザー要求に応ずるままにカスタム開発の比率を高めていったことにより、いたずらに本件システムを肥大化させたという過失があったことを認めており、プロジェクトマネージメント義務違反を不法行為というコンテキストで整理している。
また、ユーザーが受け入れることのできない追加提案をベンダーが行ったことについても、追加提案自体がそもそも債務の内容でないことから考えると、やはり不法行為として位置付けているように思われる。

他方、本件は準委任契約に基づいて実施されたプロジェクトであり、ベンダーは、プロジェクトの健全な推進はユーザーの責任である、つまりユーザー側のプロジェクトマネジメント義務違反を主張したが、判決ではベンダー側の専門家責任を重視しており、準委任契約においても専門家が負うべきプロジェクトマネジメント義務違反が、ユーザーのそれに勝るという判断がなされている。

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