東京地判平16・3・10

基本情報


裁判年月日 平成16年 3月10日
裁判所名 東京地裁
裁判区分 判決
事件番号 平12(ワ)20378号・平13(ワ)1739号
事件名 損害賠償請求本訴、損害賠償等請求反訴事件

出典

判タ 1211号129頁
新日本法規提供

プロジェクトマネージメント義務の定義


ベンダーは、自らが有する高度の専門的知識と経験に基づき、、納入期限までに本件電算システムを完成させるように、提示した開発手順や開発手法、作業工程等に従って開発作業を進めるとともに、常に進捗状況を管理し、開発作業を阻害する要因の発見に努め、これに適切に対処すべき義務を負う。
そして、注文者である原告国保のシステム開発へのかかわりについても、適切に管理し、システム開発について専門的知識を有しない原告国保によって開発作業を阻害する行為がされることのないよう原告国保に働きかける義務を負う。

求められる作為


①     提示した開発手順や開発手法、作業工程等に従って開発作業を進める
②     進捗状況を管理する
③     阻害する要因を発見し対処する
④     注文者が開発作業を阻害する行為をすることのないように働きかける
⑤     注文者による意思決定が必要な事項や解決すべき懸案事項等について、具体的に課題及び期限を示す
⑥     決定等が行われない場合に生ずる支障を説明して注文者が解決できるよう導く
⑦     複数の選択肢の利害得失等を示し、決定ないし解決することができるように導く。
⑧     注文者の要求が委託料や納入期限、他の機能の内容等に影響を及ぼすものであった場合等に要求の撤回や追加の委託料の負担、納入期限の延期等を求める。

本件におけるプロジェクト管理義務違反


〇  提案書において設計・開発段階ごとにレビューを行う旨掲げておきながら実施していない。(①)
〇 設計段階でプロトタイプを作成する旨掲げておきながら、被保険者資格管理業務と組合員管理業務を除くその余の業務についてはプロトタイプをほとんど作成していない。(①)
〇 基本設計書校正版を納品する旨説明しておきながら納品していない。(①)
〇 被告の懸案事項を自ら定めた目標期限までに解決していない。(③)
〇 原告国保が追加の委託料や納入期限の延期等を必要とする要求をしたのであれば、撤回や納入期限の延期等に関する協議を求めるなどし、開発作業に支障が生じないようにすべきであったがしていない。(⑧)
〇 規模の拡大の程度を把握していなかったとするなら、適切な進捗管理を欠いたといわざるを得ない。(②)

 (参考) ユーザーの協力義務との関係


顧客が自ら要求する機能が追加機能かどうか分からないのは当然というべきであり、過剰な要求をしないように協力するということは、不能を強いるものというほかはない。

ユーザーである原告国保が被告に対し、基本設計作業中に構築するシステムに関する様々な要求をするのは当然のことであり、しかも、専門的知識のない原告国保において、当該要求が追加の委託料や納入期限の延期等を必要とするものであるかどうか、作業工程に支障をもたらすものであるかどうかなどを、的確に判断することは困難であったということができるから、原告国保において、追加の委託料や納入期限の延期等をもたらす要求を自制すべきであったなどということもできない。

被告は、開発作業に着手してから最初の納入期限の経過後までの間、開発規模が拡大していることを認識しつつ、追加の委託料の負担を求めたことはなく、負担の可能性を示唆した形跡すら認められないことにかんがみれば、本件電算システム開発については、契約等の委託料をもって賄うとするのが、双方の意思であったというべきである。

被告が行った追加の委託料の負担や処理の削減の申入れは、その内容が倍額を超える費用負担か処理数を半分以下に削減するかの選択を迫るという唐突かつ過激な内容であって、従前の経緯に反する不相当な内容のものであったといわざるを得ない。

若干の考察


プロジェクト管理義務は”義務”であるとしていることから、その違反は債務不履行であるとしていると考えられる。本来的給付義務であるか付随的義務であるかは判然としない。

参考条文

(債務不履行による損害賠償)
民法第415条
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

2. 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一 債務の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

(請負)
民法632条
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

(注文者による契約の解除)
民法第641条
請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。民法641条



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