技術革新は、まるでキン肉マンみたいに。
テクノロジーはまるで悪者のように登場し、人類と敵対し、戦っているうちに相互理解につながり、やがて共通の敵を倒してゆく。このロジックをキン肉マン理論と勝手に名付けている。ロボティクスの会社の経営者と会話するときも、人工知能の専門家と対談するときも、この話題を持ち出して会話の糸口にしつつ説得力のある話だと我ながら思っていた。そもそもオリンピックといえば、東京オリンピックよりも超人オリンピックのほうが重要だ。軽やかに持論を展開しながら、技術の組み合わせによって生まれそうな新しい超人をAI技術をなぞられてイメージしながら、イノベーションの在り様について再考したい。
あらゆる勝負をさせられてきた人工知能
AIに人格があったら今どんな気分だろう。生み出してくれた人類に対する感謝の気持ちと、ブームになる度にいちいち戦いを挑んでくる人類への諦めが同居しているのではないか。現在のAIの潮流は、2010年代に勃興した第3次人工知能ブームの延長線上にある。深層学習と呼ばれるディープラーニング、そしてビックデータの組み合わせによってAIが第2次ブームから進化。クイズ、囲碁、将棋、ポーカー、麻雀など、片っぱしから人類との戦いを余儀なくされた。極め付きは2021年1月から2月にかけて韓国で放送されたテレビ番組『世紀の対決─AI vs人間(原題:세기의 대결 AI vs 인간)』で、歌真似、ゴルフ、プロファイリング、モンタージュ描き、株式投資、作曲など。単なるゲームではなく、スポーツや芸術、経済活動から創作に至るまで。戦いもいよいよ最終局面となる内容だった。勝敗は以下の通り。
AI vs 人間 (AIが負けたものを×勝ったものを○引き分けを△表記)
・プロ歌手との歌まね対決:×
・プロゴルファーとのゴルフ対決:○
・有名作曲家との作曲対決:×
・犯罪心理学者とのプロファイリング対決:△
・世界的な専門家とのモンタージュ対決:△
・カリスマ投資家との投資対決:×
いまのところ芸術と心理の分野に於いては人類が一方的に審査するしかない。ゆえに、最初からフェアな戦いとは言えない。感情や共感といった人類特有のものから離れて審査できるAIが登場してからが本当の戦いになるだろう。うまいコメントを残す審査員AIが登場したら、多くの人類の聴衆を味方につけるかも知れない。そもそも判断や審判というのは、もっとも公平性の問われる分野だから、データの根拠をもとに冷静な判断が下せる人工知能のほうが向いている。もしかしたらコロナ禍に於ける政策などもAIの方がクリティカルな決断が出来るかも知れない。人間の政治家は利権に塗れすぎている。ゴルフの勝敗については、ロボットアームという名のロボティクスが介入している。これもフェアな勝負とはいえないが、プレッシャーという概念がない人工知能はメンタル面でも優れているに違いない。AIに渡した学習データが、スランプに陥ったゴルファーのコーチング素材であったのも勝因のひとつだろう。人類も人工知能も失敗という名のしくじりから学んでゆく。投資対決は、いったん人類が勝利。学習材料として株式市場の短期的な過去データしか渡していなかったので、これもフェアとはいえない。経済市場のニーズ、国民感情の変化、企業が掲げるポリシー、技術開発やSDGsとの符号など。複雑極まりない株式市場の数字を完全に予測するにはデータが足りないし、認識と曲解の能力もまだ足りない。
次は相互扶助と進化のフェーズ
対決を通じて、人類が得意なこと。苦手なこと。逆に人工知能のほうが有利なこと。まだマシンスペックが足りずに十分に機能できないことが分かってきた。次は双方(ソーホーって読むとウォーズマンの呼吸音みたい)の欠陥を補いあってともに進化を遂げるフェーズ。超人オリンピックで戦ったウォーズマン(コーホー)がジェロニモ(だってオラは人間だから)を救ったように、悪魔超人として登場したバッファローマン(闘牛由来でスペイン出身)がモンゴルマン(中身ラーメンマン)とタッグ(2000万パワーズ)を組んでくれたように、憎っくき人工知能が味方になって新しい敵と戦ってゆくフェーズである。
キン肉マンといえば、そのキャラクターの多くが読者である子どもたちから送られてきたアイデアを形にしたものだ。ロビンマスクやラーメンマン、ウォーズマンやバッファローマンなど。主要なキャラクターはほとんど公募から生まれたものである。週刊連載を楽しみに待っていたあの頃に戻って、人工知能のニュアンスを配合した超人を新しく考えておきたい。まずは、すべての領収書を見渡して経費で落ちるかどうかを教えてくれる経理超人 バランス・ザ・クアトロ。国籍は複式簿記が誕生したイタリア。必殺技は確定申告。マスクは青色と白色のツートンカラーだが、最大65万円の控除が受けられる青色申告をおすすめしている。そのため、マスクも青色の比率の方が大きい。逆上すると、経費で落ちなかった領収書に火をつけて投げつけてくる。交際費は滅多に領収書で落とさない冷静な一面もある。
いろんな局面で合法かどうかを教えてくれる法律超人 ローマン。名前の響きからローマ出身かと思いきや、ハンムラビ法典のバビローニア出身。必殺技は法典が記された石棒でぶったたくこと。どうせ「目には目を、歯に歯を」の一辺倒かと思いきや意外にも各国の法律を学習しており、国ごとに合法非合法を判定できる。治外法権の概念も把握している。ローリングストーンズが『ブリッジズ・トゥ・バビロン』というアルバムを作ったことを誇りにしているが、あまり売れてないことを指摘すると牙を剥くので注意が必要。
ドクター・ボンベ亡き後、超人の医者不足が懸念されていた。深層学習ロボ超人 ドクター・カルテの登場によって一気に問題が解決した。ドクター・カルテは名前の通り、膨大なカルテをディープラーニングすることによって生まれた超人である。出身はカルテ語源の地、ドイツ。必殺技は秒速診断。内蔵のプリンター機能で処方箋まで秒で出力してくれる。医学はだいたい学習し終えたので、カレクックとラーメンマンからスパイスと漢方を学んでいるらしい。このドクター・カルテが持つ重篤患者の情報を背後から付け狙っているのが、アメリカ出身の保険超人 アフラックと日本出身の葬儀超人 セレモニアだ。長くなってきたので詳細は省くが、冒頭のキービジュアルにここで紹介した超人のビジュアルは全て網羅してある。コミックスのトビラに登場したけど本編に出てこない超人のニュアンスで(群衆超人 モブマン)も作ってある。
想像の矛先も、まるでキン肉マンみたいに。
ミシンメーカーから独立したあと。ここ10年の僕は、AR三兄弟を通じて、おもしろ可笑しくテクノロジーの可能性を伝えてきた。キン肉マンだって最初のほうはギャグ中心だったけど、やがて正義とは何か。悪魔とは何か。完璧であることとは。金や銀、ダイヤモンドの硬度とは。王位継承、血脈とは。カテゴリーのルーツとは。さまざまなテーマを掘り下げて読者を増やしてきた。僕もそろそろギャグだけではなく、社会問題などをモティーフにすることを考えている。
このコロナ禍で感じた日本という国の弱点はふたつ、専門家の評価が低く重要な決定を下すポストに就けていないこと。もうひとつは、教育の段階で分野をカテゴライズし過ぎてしまっていること。文系理系の選択を生徒に早い段階でさせてしまうこと自体がかなり窮屈。悪魔超人としてかつて登場したスニゲーターなんて、自分がアリゲーターなのかクロコダイルなのかスニーカーなのか。きっとまだ区別できていない。名ばかりのプログラミング教育になってはいけない。AIに任せられることを切り分けてゆく。教科を越えた問題解決能力と情報処理能力、そして採点方法の確立が求められている。続きはまたnoteで、ふたつの意味でフォローをよろしく。