ヨーロッパ企画 イエティ#15「逆張ヶ浜に夕陽が落ちる」 京都公演 ネタバレあり感想
前置き
私は『ヨーロッパ企画 イエティ#15 逆張ヶ浜に夕陽が落ちる』、京都公演3日目・13時30分開演の回を観劇するために、居住地の広島から京都へと向かった。
自宅から広島駅に行くためには、バスでJRの駅まで行かなければならない。
しかし、私はいつもの習慣でついうっかり、JRの駅で下車するのを忘れてしまった。
気付いた時には時既に遅し。
通勤時に下車している、「広島バスセンター」というバスセンターまでバスを乗り過ごしてしまった。
慌てふためいた私は、下車後すぐにタクシーをつかまえ、広島駅新幹線口まで移動した。
しかし後々冷静に考えると、バスセンターから市電(路面電車)で移動し、乗車予定だった一つ後の新幹線に乗っても、13時30分の開演には十分間に合ったのである。
万年金欠の地方住み遠征オタクにとって、このタクシー代は金銭的にかなりの痛手。
「パニクって間違った選択をしてしまったな……」。
そう反省しながら、私は京都へと向かった。
……いきなり劇とは全然関係ない身の上話からnoteを始めてしまったが、なんという偶然か、この午前中のアクシデントが、今回見た作品のテーマとちょっとリンクしていたのである。
公演概要
作・演出:大歳倫弘
出演:石田剛太 酒井善史 角田貴志 藤谷理子(以上ヨーロッパ企画メンバー)
村角ダイチ 北川啓太 呉城久美(以上客演)
◆ 京都公演
期間:2024/2/9(金)~12(月・祝)
会場:THEATRE E9 KYOTO
◆ 東京公演
期間:2024/2/15(木)~18(日)
会場:新宿シアタートップス
イエティ鑑賞遍歴
イエティは、2017年に上演された『コテンパン・ラリー2』と、コロナ禍直前の2020年に上演された『スーパードンキーヤングDX』を鑑賞。
特に後者は自分の中でかなり印象に残っており、4年ぶりとなる今回の公演も非常に楽しみにしていた。
舞台美術
舞台後方に、船のデッキやハンドレール、各場面の通路として利用される小上がりが存在していた。
また前方上手には、バーや船のカウンターなどとして利用される、長方形の脚の高いデスクが設置されていた。
シンプルイズベストな舞台美術ながら、バー、船、浜辺、島内の施設など、いろいろなシチュエーションに対応していた。
本公演やプロデュース公演では、プロジェクターや大掛かりなセットなど、予算のかかった舞台美術にお目にかかることが多く、毎度感嘆させられる。
その一方で、今回のようないい意味でシンプルで汎用性の高いセットは、これぞまさに“演劇”という感じで、非常に好印象だった。
キャスト陣への一言感想
※このあたりから、本格的にネタバレ要素あり
※役名を覚えきれていないため、基本的に役者名で記載
石田さん
「バリバリ働くエリート会社員ながら、ちょっと抜けているところもある」という役どころが、とてもピッタリだった。
一番笑いを生み出していたのも、石田さんの役だったと思う。
酒井さん
やはり「胡散臭さを感じる理系」の役が、とても似合う。
元カノ役の理子ちゃんに、浜辺で愛を叫ぶシーンが大変気持ち悪くて(褒め言葉)、舞台上の理子ちゃんと同じような怪訝な顔を私もしてしまった。
一方死後の幽霊として登場する終盤での、理子ちゃんに向けるやさしい眼差しにはグッと来た。
角田さん
しばらく出番がなかったため、どんな役で出演されるのかワクワクしていた。
『切り裂かないけど攫いはするジャック』で初めて感じたのだが、角田さんは意外と「不気味な悪役」がハマるんだなと、最近思うようになった。
(それまでは柔和な印象が強かった。)
理子ちゃん
今回も理子ちゃんは舞台に出ずっぱり。
圧倒的セリフ量。
もうヨーロッパ企画のエースだよ……。
村角さん
ヨロ企とは関わりの深い役者さんであるが、舞台でお姿を拝見するのは、なにげに初めてだった。
序盤~中盤はちゃんと好青年に見えて、終盤に子持ち既婚者であることが判明した後は「理子ちゃんと浮気しようとした、だらしない男」にちゃんと見えるのがすごいなと思った。
北川さん
こちらもお初の役者さん。
学生のアホなノリをリアルに表現しつつ、かと言って「馬鹿な大学生」になり過ぎていない、バランス感覚がちょうどいいなと感じた。
呉城さん
『スーパードンキーヤングDX』での二面性のある演技がかなり印象に残っており、今回久々にお目にかかれるのを楽しみにしていた。
今回の公演でも、一番印象に残ったのは呉城さんのお芝居だった。
「ラリっているヤバい女」の底知れぬヤバさを表現するのが、まあうまいうまい。
ネジの外れた女は、ともすればヒステリックな方向に演技プランが行きがちだと思う。
しかしそうではなく、「しゃべり方は割と温厚なのに、明らかにヤバい人」という難しい人柄を見事に表現されており、とても感動した。
あらすじとその感想
めちゃくちゃ端折ってあらすじを言うと、「人生において、普通とは逆の選択肢を選んできた(と思い込んでいる)理子ちゃんを、死んだ元カレの酒井さんが幽霊になって肯定する」というお話。うん、端折り過ぎだね。
理子ちゃんが酒井さんと一緒に宜野湾に行く”順張りの選択肢”を蹴って、村角さん、石田さんと長崎の離島に行く"逆張りの選択肢"を選んだシーンから、物語は大きく動き出す。
逆張りの選択を選んでいく過程や、もし順張りの選択をしたら……という仮定のシチュエーションが、ヨーロッパ企画らしくコメディ多めで描写され、序盤から中盤にかけては笑いながら楽しく鑑賞していた。
しかし、中盤を過ぎたあたりから、「順張りの選択肢を選んだ、理子ちゃんの妄想の中の酒井さん」が、「釣りで海に転落死し、理子ちゃんのいる島に流され、幽霊として理子ちゃんの前に現れている酒井さん」であることが判明する。
「もし一緒に宜野湾に行っていたら、酒井さんは死ななかったのかもしれない」と後悔する理子ちゃんに、幽霊の酒井さんは「一緒に行っていたら、もっと最悪な結末(=二人とも死ぬ)が待っていたかもしれないよ」と返す。
そして酒井さんは、「君は、自分の選択を悪く思い過ぎる」「選んだ選択肢が最善だったと信じるのが幸せなんだよ」というニュアンスの言葉を理子ちゃんに言い、理子ちゃんを励ますのである。
(ここのセリフを正確に思い出せないのが悔しい!!戯曲本欲しい!!!)
この上記二つのセリフに、私は特にグッときたのである。
ここで、冒頭の前置きに話が戻る。
ちょうど午前中、タイムリーに「選択をミスった……」という経験をしたこともあり、酒井さんから理子ちゃんへの刺さりに刺さりまくったのである。
確かに私は、焦りでタクシー代という予定外の出費をしてしまった。
しかしタクシーに乗ったおかげで、新幹線に乗車するまで余裕を持って過ごすことができたし、一本後の新幹線に変更しなかったことで、開演前にゆっくりお手洗に行けたり、フライヤーにじっくり目を通すことができた。
「間違えたと思った選択」は、「見方を変えれば時間的、精神的余裕をお金で購入した、良い選択」だったとも言えるであろう。
観劇直前の例は規模感の小さいものであったが、もっとシリアスな状況で「意地を張らずに、あの選択をしておけば良かった」と後悔した瞬間は、過去に何度だってある。
それは特別私だけが経験したわけでなく、誰にだってそんな後悔をしたことは、一度や二度くらいあるであろう。
酒井さんが理子ちゃんに掛けた言葉は、理子ちゃんにだけでなく、私を含めた観客の過去の後悔をやさしく包み込んでくれるような、大歳さんから観客への励ましでもあったのではないかと感じた。
またそのメッセージは、中盤までのコメディ強めの展開の上で発せられた言葉であったからこそ、いい意味でギャップが生まれ、説教臭く感じなかったのではないかと思う。
たくさん笑って、最後は胸がじんときて、本当に素敵なお芝居を見させてもらった。
本当に京都まで見に行って良かった。
カーテンコール
暗転後、キャスト陣が全員出てきてカーテンコール。
一度お辞儀したのみで上手の石田さんが話し出し、「次回のイエティは4年は空かないと思う」という大歳さんからのメッセージを代わりに伝えて、サクッとあいさつが終了した。
私は観客がずっと拍手をし続けて、キャストが何回も出てくる演劇特有のアレが正直好きではないので、このカテコのサクッと感が大変良かった。
本公演のカテコも、一回お辞儀で即客演紹介、即グッズ告知のスタイルに戻してくれ……。
カフェパランへ
私がヨーロッパ企画の舞台を見始めたのは、東京の大学に進学した2016年以降。
2020年に地元の広島にUターンして以降は、本公演は広島、プロデュース公演は大阪で鑑賞していた。
そのため、なにげにお膝元の京都でヨロ企の公演を見るのは、これが初めてだった。
というわけで観劇後、『ドロステのはてで僕ら』の聖地『カフェパラン』へと向かった。
25周年のコラボグラスをレジに持っていくと、店員のお姉さんが「もしかして、イエティを観に行かれるんですか?」と話しかけてくださった。
昼公演を既に鑑賞したことを伝えると、その店員さんは「18時からの公演を観に行くんです〜」とのこと。
そして帰り際、ご好意で25周年コラボカフェのステッカーをくださった。
今回はスイーツを注文したが、次回は名物のハンバーガーも食べてみたいと思う。
また日曜日が定休日で、今回は行くことができなかった「喫茶チロル」にも、次回はぜひ行ってみたい。
余談:その他京都観光
以下、ヨーロッパ企画はほぼ関係ない。
カフェパランを後にすると、大好きな漫画『いなり、こんこん、恋いろは。』のアニメ放映10周年を祝うため、伏見稲荷大社を聖地巡礼した。
最後に
「また京都でヨーロッパ企画のお芝居を見たい」と、強く思った半日だった。
『鴨川ホルモー、ワンスモア』の京都公演がなく、大阪公演なのが解せない……。