ヨーロッパ企画25周年ツアー「切り裂かないけど攫いはするジャック」広島公演感想
去る10月17日火曜日に、ヨーロッパ企画25周年ツアー「切り裂かないけど攫いはするジャック」広島公演を観劇した。
ヨーロッパ企画関連のお芝居を見るのは、『たぶんこれ銀河鉄道の夜』愛知公演以来半年ぶり。
前回の本公演『あんなに優しかったゴーレム』は、配信でしか見ることができなかったので、『九十九龍城』以来の本公演観劇となった。
スタッフ・キャスト
作・演出=上田誠
音楽=青木慶則
出演
オルソップ警部: 永野宗典
ブルワー: 諏訪雅
マノック:石田剛太
ジョセフ: 角田貴志
リッチモンド卿:酒井善史
ピーター: 内田倭史
ガイ: 金丸慎太郎
チャーリー: 岡嶋秀昭
ジョアンナ:早織
クインティ夫人: 藤谷理子
メアリー: 藤松祥子
チャールズ・ホティントン:土佐和成
ハンフリー氏:中川晴樹
開演前の影ナレ
今回も、劇の登場人物による開演前の影ナレは健在。
ブルワー(諏訪さん)とマノック(石田さん)の掛け合いによる影ナレだった。
「おしゃべりジャック」「前のめりジャック」は周りの人の迷惑になる
ケータイは19世紀には存在していないので、上演中は使用禁止
と、今回も作品の世界観に沿って注意事項が述べられていく。
その後も、「物販を4,500円以上購入すると、ノベルティーで不織布バッグがもらえます」「計算むずい!」などと、どんどん掛け合いが続いていく。
そして、「長ジャック」というおやじギャグで影ナレが締まり、会場が失笑に包まれた(褒め言葉)。
特に印象に残った登場人物
今回の公演は特に、「ハマり役だな〜」と思う登場人物が多かったように思える。
25周年ツアーということで、上田さんの当て書きの集大成を見たような気がした。
特に印象的だった登場人物は、下記の4人。
オルソップ警部(永野さん)
巻き込まれ系主人公と永野さんの相性が、あまりにも良かった。
永野さんもいろいろな役を経験していると思うが、やはり気弱さが垣間見える役柄が出色だなと改めて感じた。
リッチモンド卿(酒井さん)
酒井さんも、高貴でうさん臭い役がよく似合う!
私の好きな酒井善史どストライクの登場人物だった。
また、他の登場人物からいろいろと言われた後に、帽子で泣き顔を隠すという仕草には、これぞ「ギャップ萌え」というかわいさを感じてキュンとした。
ジョセフ(角田さん)
諏訪さんが大柄だから隠れがちだけれども、角田さんも体格が良くて、ベンチプレスを100kg挙げられるという特技が生かされた登場人物だった。
にしても、成人男性をいとも簡単に軽々持ち上げていてすごいな……。
クインティ夫人(理子ちゃん)
初主演作『来てけつかるべき新世界』のように、ペラペラしゃべりまくる役が理子ちゃんには似合うなあと思った。
『来てけつかるべき新世界』とは異なる、鼻につく感じのしゃべり方も大変お上手だった。
ストーリーや演出
恐らく上演開始1分程度でスクリーンが降りてきて、キービジュアルや役者陣の紹介映像が流れた。
爆速のスピード感に驚かされた。
めちゃくちゃ笑った
2016年以降、ヨロ企の本公演とプロデュース公演は配信を含めほぼ全てチェックしているが、個人的に今回が一番笑った気がする。
※頭の中がごちゃごちゃしてきたので、以下登場人物を役名ではなく、役者名で記述していく。
まず、理子ちゃんに促され、金丸さんが永野さんを攫おうと追っかけ回すシーン。
「人攫いの再現をここまで必死にせんでも……」というおかしみで、拍手笑いが止まらなかった。
そして、角田さんが内田さんを攫うシーン。
あまりのタイミングの唐突さに爆笑。
あとこんなにあっさり、角田さんが人攫いだったと判明していいの……?ww
劇的さゼロの展開に意表を突かれ、笑いが止まらなかった。
その後、金丸さんや永野さんが、角田さんの行動に気付いて驚いたり、実際に攫われてしまったりするシーンでも、拍手笑いがエンドレスに続いた。
演劇でこんなに拍手笑いをしたのは、史上初めてかもしれない……。
考えさせられた点
人々が推理合戦をして、トンデモ理論がいかにも真実かのように意思形成される場面が多く、いろいろと考えさせられた。
トンデモ宗教だったり、偏った思想の集団だったりは、こうやって生まれるのか?など……。
また、登場人物たちが、角田さんの人攫いに全く気付かなかった点についても、考察のしがいがあった。
彼らは角田さんの行為を見て見ぬふりしていたのか、それとも推理に熱中するあまり周りが見えなくなり、身近に起きていた重大な事件に全く気付かなかったのか……。
ラストのどんでん返し
劇の終盤、ジャックは人を攫っていた角田さんではなく、実は中川さんだったと判明する。
その後巨大な機関車が登場して、住民たちをさらおうとし……、と一気に話のスケール感が大きくなる。
正直私は、この展開が意外だった。
というのも、この手のどんでん返しは『出てこようとしているトロンプルイユ』や『九十九龍城』など、ヨーロッパ企画の本公演で複数回用いられている手法だからである。
ここまで、新機軸であるミステリを軸としてお話が進んでいたので、てっきりミステリものとして物語を描き切るのかと想像していたし、個人的には描き切ってほしかった。
また、中川さんがジャックだったという裏切りそのものにはびっくりしたものの、「観客の予想を裏切ってびっくりさせる」以上の意味をそこに見出せず、個人的には若干ながらもモヤっとした。
『九十九龍城』の「登場人物はゲームのモブ」という設定は、ストーリーとしてもちゃんと意味があるどんでん返しだったので、むしろ爽快感を覚えたのだが……。
とはいえ基本的には大変面白かったということは、声を大にして言いたい。
カーテンコール
1回目のカテコで、グッズを紹介。
客演の紹介はなし。
2回目、3回目のカテコがあり、3回目のカテコで上田さんが登場した。
自分の記憶では、『九十九龍城』の時はグッズ紹介がなかったと記憶しているので、グッズ紹介が復活したのと、上田さんからもコメントを一言聴けたのがうれしかった。
来年の本公演も、恐らく広島公演はあるとのこと!
また広島でヨロ企の舞台が見られることを心待ちにしながら、今は毎週火曜夜の『時をかけるな、恋人たち』の放送を楽しみに生きていきたい。