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でんぱ組.inc THE ENDING『宇宙を救うのはきっと、でんぱ組.inc!』に見る“引き算”の演出

今までそこそこの本数、アイドルのライブを見てきた。
そのうちライブ中に嗚咽するほど泣いたことが、2025年1月4日までに2回あった。
どちらもでんぱ組.incのライブだ。

1度目は、夢眠ねむのでんぱ組卒業公演。
数年前にも、noteでも言及したことがある。

卒業公演でのダブルアンコール。
観客の「ねむきゅん!」コールに応え、「アイドル人生最後の曲」を歌い終えたねむきゅんが、もう一度舞台に戻ってきた。

しかし彼女の衣装は、それまで着用していたセーラー風衣装ではなく、Tシャツに法被。
そして手にはマイクではなく、サイリウムが収まっていた。

“アイドル”ではなく“オタク”になった彼女の前に現れたのは、6人体制になった新生でんぱ組.inc。
初期から歌い継がれてきた「Future Diver」を6人のでんぱ組が歌い、ねむきゅんはステージ下手で彼女たちを“オタク”として応援していた。

これが、私が泣いた一つ目のライブ。

時は流れ2025年。
でんぱ組.incは、“エンディング”を迎えることになった。

エンディングライブの初日。
アンコール4曲目で披露されたのは、『オレンジリウム』。

曲中に、関係者席にいたでんぱOGたちが映し出される。
その中には、アルティメットセーラーを着た最上もがの姿もあった。

他のOGたちが私服で着席している中、彼女だけなぜ在籍当時の衣装を?
OG登場のサプライズ演出による驚きと興奮に脳がほぼ支配されながらも、上記の疑問が若干脳裏をかすめていた。

種明かしは、ラスサビで行われた。
アルティメットセーラーを着たもがちゃんが、関係者席からステージ上へと移動。
オレンジリウムのラスサビを一節歌い、でんぱ組へのメッセージを贈るもがちゃん。
でんぱ組を“卒業”ではなく“脱退”したもがちゃんの“卒業式”が、8年の時を経て開催された。

これが二つ目の泣いたライブ。

では、先ほど行われたエンディングライブ2日目は?

結論から言うと、もちろん泣いた。
ラストの『サクラあっぱれーしょん』で大号泣した。
しかしこれまでの2公演とは、涙に至るまでの過程が少し異なるように思うのである。

これまでは、「新体制のでんぱ組.incをねむきゅんが“オタク”として見守る」、「8年の時を経て、“脱退”したもがちゃんの卒業式を行う」など、“神演出”とも言うべき仕掛けによって、私は泣かされていた。

しかし、『サクラあっぱれーしょん』は違う。
メンバーが名前を言うだけの至ってシンプルな自己紹介を行った後、そのまま曲が始まり、言ってしまえば普段通りのパフォーマンスが行われたのである。
なのに泣いた。

※『サクラあっぱれーしょん』にも、アウトロが長尺になり、メンバー全員がトロッコに乗り込んで、観客に紙吹雪を投げ込むという特殊演出はあった。
しかし私は、『サクラあっぱれーしょん』のイントロ時点で泣き始めたので、アウトロの特殊演出は“催涙”という点では無関係と言える。

歌詞の内容的に、「この曲で本当にラストなのかもしれない」と薄々察したことにより、涙がこぼれ出たという理由も、正直なところ多少はある。

しかし結局のところ、“アッパーで前向きな縦ノリソングなはずなのに、なんだか泣ける”という『サクラあっぱれーしょん』の持つ魔性の魅力と、メンバー7人の完成された歌のダンスのパフォーマンスに、私は単純に大きく心を動かされたのである。
そして、涙が止まらなくなった。

MCほぼなし、初日に見られたOGの出演もなし。
現役メンバー7人の歌とダンスのみによって、構成されたエンディングライブ。
解散ライブにありがちな“お涙頂戴”要素も限りなく削ぎ落とし、3時間弱の公演で7人の全力パフォーマンスただそれだけを最大限届けることに注力した。

「“でんぱ組メンバー”から“でんぱ組オタク”になったねむきゅん」、「最上もが卒業式」を、観客の心を動かすための“足し算”の演出と定義するのなら、エンディングライブ2日目は“引き算”の演出が光ったライブと言えるのではないだろうか。


『サクラあっぱれーしょん』の長いアウトロが終わり、メンバー7人はトロッコから消えた。
そして、エンディングライブのエンドロールが流れ始めた。

そのエンドロールが終わると、観客全員が長い長い拍手を続けた。
しかし、ダブルアンコールを求める叫びはほとんど聞こえてこなかった。

恐らく私を含め、「ダブルアンコールを求めてはいけない」と、本能的に感じた観客が多かったのではないか。
『サクラあっぱれーしょん』という、門出を祝う曲で美しいエンディングを迎えたこの公演に、これから追加で何かを“足して”はいけない。
少なくとも私は、そう強く思わせられたのである。

中学生の時、でんぱ組.incという存在に出会わなければ、私はアイドルとは無縁の生活を送っていただろう。
ありがとう、でんぱ組.inc。
私の人生を充実したものにしてくれて、本当にありがとう。

私は、一切の無駄がないこの美しい“エンディング”を、一生忘れない。

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