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自分のセクシャリティを知らずに彼氏をつくった話
※この記事には、性的だったり生々しかったりする描写があります。苦手な方はご注意ください。
※ノンセクシャル:恋愛感情はあるが性的欲求が無いセクシャリティ
20代後半のことだった。
周りがぼちぼち結婚し始めて、私も結婚できるものならしてみたいと思っていた矢先、先輩の友達を紹介してもらった。
彼は同じ職業で、頭が良くて、優しくて、オタクで、背が高くて、ぽちゃっとしていたが愛嬌があり可愛かった。
私は腐女子で、当時BL漫画を描いていたし、R18も描いていたが、彼はそれを知っても全然平気だった。
お互い第一印象が良く、会って3回目でお付き合いしてくださいと言われた。
そしてお願いしますと答えて、その日のうちに手を繋がれた。すごく緊張したが、私は男性とお付き合いしたことがなかったので、こんなものなのだろうと思っていた。
彼には、これが初めてのお付き合いなので「そういうこと」はよく分からないと伝えてあった。
彼との時間はすごく楽しくて、ずっと笑っていたし、彼の家に遊びに行って、2人でゲームして隣人に怒られるんじゃないかというくらい大騒ぎして笑った。
なんやかんや合わないところはあるけど、怒らない人だったので話し合いもできて、この人とならずっと一緒に生きていけると思っていた。なんなら早く同棲したいなと夢を膨らませていた。
彼からも「あなたと結婚しなかったらもう結婚しないと思う」と言われて、そんなこと言わんでも、とちょっと思いながら、「私もかな」とまんざらでもなく答えた。
でも、仲が深まるにつれて、私たちの間に溝ができていった。
私は彼に触りたいと思うことがなかったからだった。
彼は私に触りたがったし、抱きしめられて「ずっとこうしたかった」と言われたこともあった(私は固まっていた)。
キスをした時も、こんなもんかという気持ちだったし、多分彼の思う反応じゃなかったと思う。いわゆるディープなやつをした時なんか、案外味がしないもんなんだな、と思ったし、感想を求められたのでそのまま言ってしまったくらいだった。彼はがっかりしていた。
彼は私を「スキンシップが好きじゃない人」と認識していただろう。私がそういう雰囲気になって困った顔をすると、「俺はやらしい気持ちだけであなたに触りたいわけじゃないんだよ」と言った。私はそれが全く理解できなかった。
優しい彼は無理強いをすることは一切なかった。彼も「初めて」の女の人と付き合うのは初めてだと言っていたから、どうしたものか困っていたのだろう。
私は私で、なんでこんなにできないんだろう?普通はそういう気持ちに自然となるものじゃないの?と悩んでいた。
全然そんな気持ちにならないので、彼ががっついている、という印象さえ抱いていた(今考えると全然そんなことはなかったと思う)。
段々彼の期待に応えられない自分が嫌になってきた。毎週会うのも疲れる。会う度にできないセックスのことばっかり考えて、デートが楽しめなくなっていった。
「本当に俺のこと好きなの?」
彼が泣いた。
友達に、スキンシップを喜ばないし、付き合って3ヶ月4ヶ月経つのに、そういうことを拒まれると話したらしかった。
「彼女、お前のこと好きじゃないよ」
友達にそんなこと話すなとか、目の前の私より友達の言うこと信じるんかとか、思ったけど、それ以上にものすごくショックだった。
何も言えないでいる私に、「ごめん、こんなこと言われても困るよね」と諦めるような声色で彼が言うので、「とにかく、一緒に住みたいと思ってるよ」と慌てて答えた。
「好きだよ」とはっきり言えなかった。
私の「好き」は、世間一般でいう「好き」と離れているのかもしれない、とこの時ようやく思い始めた。
恋愛経験豊富な友達に聞いても、「キスしたいと思わないなら好きじゃないんだよ」と言われた。
そうか、私は彼のこと好きじゃないのか。一緒にいたいと思うけど、友達止まりなのかもしれないな。だからそういうことも出来ないのかな。
混乱して、私は男の人を愛せないのかも、もしかして同性愛者なのかも、と思ったりした。もう何もわからなかった。
それまでバンバン描いていた漫画も急に描けなくなった。恋愛感情がわからなくなってしまったのだ。
今まで私が思っていた恋愛感情が否定されて、何が好きで、どこまでが友情なのか分からなくなって、あの時締め切りに追われて無理矢理出した同人誌は、あんまりにも駄作で、今でも読み直せない。
日に日に会いたくなくなっていって、ごはんもだんだん食べられなくなっていった。
お互いに泣きながら話し合って、一旦距離を置こうと提案した。色々考えて、友達に相談したけどなんにも解決しなかった。やっぱり私は彼のこと、好きじゃないんだと思った。
彼は泣きながら別れたくないと言った。これから俺がどうすべきか考えたから聞いてほしいと言った。私はそれらを全部切り捨てて、一方的に関係を絶った。
本当に申し訳ないことをしたと思っている。でも私はその時もう全てが限界だった。
それから何年かしてから、ノンセクシャルというセクシャリティがあることを知った。
恋愛感情があるけど、性的欲求がないセクシャリティがあることを知った。
それを知って、私に当てはまると感じた時、
「私はあの人のことを、ちゃんと好きだったんだ」
と、思って、涙が溢れた。
ずっと否定されていた私の「好き」が肯定された気がした。
あのまま付き合っていても、うまくいかなかったと思う。ただ、ちゃんと好きだったんだということだけで、救われた気がした。
私は一緒に人生を過ごしていける人と出会いたいと思っている。性的なことはできないけど、ずっと一緒にいたいと思える人。
でも、またこんな風に人を傷つけると思うと、罪の意識が湧き上がって、怖くて、踏み出せなくなってしまう。
あの優しい人を傷つけた私なんかが幸せになれるわけないと思う。でも幸せになりたいと思う。
毎日結婚のことについて考えて、無理だと思って、したいと思って、ずっとぐるぐるしている。