ベースに対する音楽理論の適用について

1. 初めに

色々な音楽理論の本や動画を見てなんとなくわかった気でいたが、得た知識を実践でどのように役に立てればよいかがわからず、ここ一年くらいは理論を捨ててベースの耳コピをして遊んでいた。遊んでいる内に何故か各知識の結びつきや実践での使い方がわかってきたのでその整理および忘備録的に記す(全部自分の言葉で書くので正しくなかったり不親切な部分は多々あると思う)。

まず、ベースに対して音楽理論を適用することを考えたときに、その用途によって扱う知識領域は変わってくる。現状、以下の3つの用途があると考えている。

①使える音、コード、および指盤上の位置関係を把握すること
→ベースの耳コピをしていると、手探りなのでコードを見つけるのに時間がかかったりする。また、ベースが聞こえなかったり、物足りなかったりすることが多々あり、こういう時はそのコード上で自らフレーズを作ることを考えるが、時間がかかる上、スケール外の音を使ってしまっている可能性もある。基本的にベースはコードのルートを軸にコード構成音を使って曲を支えるのが役割だと思っているため、その曲においてどのコードが使えるか、また、それぞれのコード構成音の指盤上の位置関係を把握することが重要と考える。

②コード進行を作る/把握すること
→ダイアトニックコードのディグリー毎に役割(トニック/サブドミナント/ドミナント)が決まっているので、コード進行においてはこの関係を意識すれば作曲などが捗りそうくらいの理解の段階。コード進行の理論はかなり奥が深そうで未習得であるが、作曲しないけど追々は勉強してもいいかも。

③アドリブを弾くこと
→コードはあまり意識せず自由にベースソロを弾くような場合を想定。その曲のキーにおけるスケールを利用するが、広域に動き回る場合は指盤の位置を覚えるのが大変なのでペンタトニックスケール(5音構成で単純、半音間隔がないので扱いやすい)が有用。このペンタトニックスケールをよくわからないまま覚えていた時期もあったが、この記事を書いてるうちに考察する気持ちになったので次の記事にでも書く。

本記事では①にフォーカスして音楽理論の適用を考える。耳コピ+フレーズ作成の助けになる上、楽譜をそのまま演奏するにしても理解しながら弾けると楽しそうである。

2. 使える音、コード、およびベース指盤上の位置関係を把握する

2-1. 使える音を把握する

まず、曲のキーが分かればそのスケールの構成音が使える音である(※キーは楽譜がなくても今の時代アプリ等で簡単にわかる)。ここではAメジャーと平行調であるF#マイナーを例に挙げる(一般的にはわかりやすいようにCメジャーと平行調のAマイナーで説明されるが、理解を深めるためあえて別のキーとする)。

Aメジャースケールの構成音はA,B,C#,D,E,F#,G#である。メジャースケールにおける音の間隔は(全、全、半、全、全、全、半)なので、この知識を使って逐一調べてもいいが、ベースの特性上(1フレットが必ず半音間隔)、ルート音が変わっても相対的な位置関係は同じになるので形で覚えることが推奨される。全ての領域を覚えるのは大変なので図1赤枠の形がよく紹介される。
マイナースケールにおける音の間隔は(全、半、全、全、半、全、全)であるが、F#マイナーはAメジャーの平行調なので構成音が同じになる。メジャースケール同様に図2赤枠の形で覚えることが推奨される。

図1. Aメジャースケール
図2. F#マイナースケール

2-2. 使えるコードを把握する

基本的には、スケールの構成音をルートとするダイアトニックコード(7種)が使えるコードとなる。(ノンダイアトニックコードは1章②のコード進行の理論にかかわってくる、ここでは考えない)。ダイアトニックコード(4和音)は、そのルート音にスケールの3、5、7番目を重ねたものと単純であるが、これらの度数は始動するルートによって異なることが重要で、ベース指盤上の位置関係も当然変わってくる。

ダイアトニックコードにはよく知られるメジャーセブンス(M7)、マイナーセブンス(m7)に加え、セブンス(7)、マイナーセブンスフラットファイブ(m7-5)が登場する。ルートF#を例に以下に示す(図3~図6)。

図3. F#M7
図4. F#m7
図5. F#7(M7の7度を半音下げたもの)

図6. F#m7-5 (m7の5度を半音下げたもの)

これらのバックグラウンドの指盤は2-1.で紹介したF#マイナースケールであり、これと合致しているのは図4のF#m7である。したがってF#マイナースケールのF#をルートとするダイアトニックコードはF#m7とわかる。これをすべてのルート音に対して調べてもいいが、大変なのでこれも法則を利用する。メジャースケールとマイナースケールのダイアトニックコードを以下に示す。例えばF♯マイナースケールの構成音はF#,G#,A,B,C#,D,Eであったが、これらをルートとするダイアトニックコードはそれぞれⅠ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ,Ⅴ,Ⅵ,Ⅶ(ディグリー表記)で表される。

図7. メジャースケールのダイアトニックコード
図8. マイナースケールのダイアトニックコード

これらを見ると、同じディグリーにおけるコード種はキーによらず同一であることがわかる。メジャースケールのダイアトニックコードにおいてはⅡ,Ⅲ,Ⅵ,Ⅶがマイナーセブンス(m7)であり、Ⅶはフラットファイブ(-5)がつく。Ⅴがセブンス(7)であり、それ以外はメジャーセブンスとわかる。
マイナースケールのダイアトニックコードにおいてはⅠ,Ⅱ,Ⅳ,Ⅴがマイナーセブンス(m7)であり、Ⅱはフラットファイブ(-5)がつく。Ⅶがセブンス(7)であり、それ以外はメジャーセブンスとわかる。(※1. マイナーダイアトニックコードのⅤに関しては最後に追記)

以上を理解すれば、スケール構成音をルートとしたそれぞれのダイアトニックコードのコード種を把握できる。

2-3. ベース指盤上における位置関係を把握する

最後にこれらのコード種をベース指盤に適用させることを考える。F#マイナースケールを例にとる。
まず、ダイアトニックコードのルート音の位置を確認する。これらのルート音はF#マイナースケールの構成音であるので、2-1で示した簡易スケール(赤枠)だけで満足はするが、低音で支える役割上、(フレージングで高音を利用するのは効果的であるが)ルートは3,4弦かつ12フレット以内を利用したい(さらに言えば同音であれば低音への展開余地が大きい3弦を利用したいが、前後の流れに依る)。赤枠のスケールに対し、ベースの異弦同音関係(図9中に→で図示)を利用することにより、実践的なダイアトニックコードのルートの位置関係を把握できる。

図9. 実践的なF#マイナーのダイアトニックコードのルート音

次に、ダイアトニックコードのルートに対して、残りの構成音(3,5,7度)がどの位置関係にあるかをベース指盤上に適用する。3弦7フレットのE(ディグリー:Ⅶ)を例にとると、図8よりこのダイアトニックコードはE7であるため、セブンスの位置関係が使えることがわかる。また、これに加え5度のオクターブ下(最低音が変わるため第二転回形と呼ばれる)やブルーノート(ブルージーな雰囲気を出せるためよく使われる)を加えることでフレーズのバリエーションを増やすことができる(図10)。

図10. E7の位置関係と転回形およびブルーノート

3弦4フレットのC#(ディグリー:Ⅴ)を例にとると、図8よりこのダイアトニックコードはC#m7であるため、マイナーセブンスの位置関係が使えることがわかる。また、5度のオクターブ下(第二転回形)および短7度のオクターブ下(第三転回形)も使える。マイナーコードの場合、状況に応じて短3度・短7度は異弦同音を使うとよい。(図11)

図11. C#m7の位置関係と転回形およびブルーノート

3弦5フレットのD(ディグリー:Ⅵ)を例にとると、図8よりこのダイアトニックコードはDM7であるため、メジャーセブンスの位置関係が使えることがわかる。先ほど同様5度のオクターブ下(第二転回形)に加え長7度のオクターブ下(第三転回形)も使える(図12)。

図12.DM7の位置関係と転回形およびブルーノート

マイナーセブンス、メジャーセブンスにおいてはいずれも3度とルートの一弦上に7度のオクターブ下、5度のオクターブ下がそれぞれあることがわかる。経験上、この位置関係を弾くことはかなり多い。

さらに、オクターブ上へのフレット移動やクロマティックアプローチ(経過音として半音展開を使う)、奏法(ハンマリング、プリング、スラップ、グリッサンドなど)、リズムによってもバリエーションを生むことが出来るので自分のレベル帯だとこの音数で十分かと思っている(※2. さらに音数を使いたい場合を最後に追記)。

3. まとめ

音楽理論のうち、主にスケールおよびダイアトニックコードのベースへの適用法を考え、記載した。これにより、音楽理論を理解し、その法則性を利用することで暗記の負荷を減らしつつ、スケール構成音および、ダイアトニックコード構成音のベース指盤上の位置関係を把握できる。そして、耳コピや演奏の手助けになると信じている(今のところ実感なし!w)。

※1. 追記(マイナーダイアトニックコードのⅤに関して)
図7,図8にもあるようにⅤはコード理論においてドミナントの役割を示す。ドミナントというのは「緊張」を表し、Ⅰのトニック「安定」に移動しやすい性質を持つ。これはⅤ→Ⅰが強進行(完全4度上または完全5度下への進行)であることに由来する。ある音を楽器で鳴らした時、第二倍音として1オクターブ上の音、第三倍音として1オクターブと完全4度上の音が聴こえることから、完全4度上への進行は最も自然に感じるようであり、強進行と呼ばれる。また、このⅤがトライトーン(3全音間隔、不協和音)を有するコードである場合、更にⅠへの進行を強めることが出来る。Ⅴ7(セブンス)がこれに該当し、このⅤ7→Ⅰへの進行のことをドミナントモーションと言う。これをベース指盤上で確認してみる。まずトライトーンの位置関係は3全音の関係であるので、異弦同音関係と組み合わせると以下赤囲いの位置関係になる(図13)。セブンスにはこの位置関係があることがわかる(図5を再掲)。

図13. トライトーンの位置関係
図5. F#7(M7の7度を半音下げたもの)

ここでメジャースケールのダイアトニックコード(図7を再掲)を確認してみるとⅤはセブンスコードであることから、最も強い進行であるドミナントモーションを使用できることがわかる。

図7. メジャースケールのダイアトニックコード

一方、マイナースケールのダイアトニックコード(図8を再掲)を確認してみるとⅤはマイナーセブンスコードであることから、ドミナントモーションとならず、Ⅴ→Ⅰの進行が少々弱くなってしまう。

図8. マイナースケールのダイアトニックコード

これをトライトーンを含む形とするには、例えばF#マイナースケールを例にとると、Ⅴm7であるC#m7がC#7に、すなわちEがFになればよい(図14)。EをFに変えたスケールを図15に示す。これをハーモニックマイナースケールという。これらのことから、マイナースケールにおけるⅤのみハーモニックマイナースケールから借用して、セブンスとする場面も多い。

図14. C#m7→C#7
図15. F#ハーモニックマイナースケール

また、DとFの関係を見ると同一弦で3フレット(全音+半音、増2度)離れていることがわかる。このことから独特な響きを生むスケールとなり、いい感じのソロでよく用いられる。しかし、クセがある分扱いも難しいため、DをD#として増音程を解消したのがメロディックマイナースケールである(図16)。

図16. F#メロディックマイナースケール

※2. 追記(さらに音数を使いたい場合)
もっとレベルが上がるとコード構成音だけでは飽き足らず、他のスケール構成音も使いたくなるかもしれない。この場合にチャーチモード(いわゆるイドフリミエロ)を使うと認識している(あまり自信がない)。F#エオリアンとG#ロクリアンを一例に示す。このように各ルート音始動におけるキー構成音との位置関係が全てわかるようになるので、チャーチモードの形を覚えればフレーズの幅は大幅に広がるが、コードトーンでないものも含むため扱いは難しそう。ベースソロを弾くときに役立つのかなと所感。

図17. チャーチモードの一例

リファレンス

・図1~図6、図9~17の元図
ギターを学ぶ【放課後トミータイム】 – ギター初心者の放課後 (masatomy.com)
・図7、図8
【ダイアトニックコード一覧表】メジャー・マイナー(ナチュラル・ハーモニック・メロディック)別の早見表│er-theory (er-music.jp)


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