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20年ぶりの東武バス日光の旅
11月某日、東武特急とSL大樹の旅を楽しんだ後、鬼怒川温泉に宿泊した私は20年ぶりの日光で乗りバスをしようと思い立ちました。
三角屋根の山小屋みたいな駅舎と、バスロータリーを囲むように建つ古びた土産屋の町並みは、20年前と変わらない雰囲気で安心感さえ覚えました。
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殆ど変わらない街並みの中で、駅前のロータリーに路面電車の保存車両が鎮座しているのが目につきました。1968年まで日光駅と馬返の間を結んでいた日光軌道線の電車で、廃線後は岡山県で活躍していたところ、廃車に伴い日光の地に里帰りし紆余曲折の末に駅前に鎮座しているとのことです。
日光・鬼怒川への往復乗車券と日光エリアのバス・東武鉄道線が乗り放題になったフリーパス(まるごと日光フリーパス)を購入していたので、折角なので奥日光を目指すことにしました。
中禅寺湖・湯元温泉へ向かう路線は、大型路線バスがヘアピンカーブの連続するいろは坂区間を走行するという点で見どころの豊富な路線として有名です。
中禅寺湖では遊覧船への乗り継ぎを考えていたので、10:35発の中禅寺温泉止まりではなく、5分後に発車する湯元温泉まで行く便に乗ることにしました。10:35発で中禅寺温泉に向かっても遊覧船にはタッチの差で乗り継げないのですが、湯元温泉行のバスに乗り、遊覧船の次の乗り場である菖蒲浜まで先回りすれば乗り継げることが分かっていたので、そうすることにしたのです。
乗ろうとしている便はJR日光駅始発ということで、JR駅まで歩いてそこから乗車することにしました。バスは東武日光駅を経由するのでそこから乗ってもよかったのですが、折角なので好みの座席に座りたいという思いがありました。
数百メートル離れたJR日光駅に向かう間には東武バスの待機場がありました。
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ここで私は様変わりした東武バス日光の姿を目にして、20年という歳月を実感しました。ここで待機している車両の殆どはワンステップ車あるいはノンステップ車で占められています。
かつて東武バスの日光地区といえば、貸切バスや高速バスから転用されたハイデッカー車を路線バスとして使用するのが通例でしたが、バリアフリーへの対応や混雑時のスムーズな乗降という観点から数を減らしています。
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JR日光駅に着くと、ちょうどJR日光線の列車が到着したところで多くの外国人観光客でにぎわっていました。外国人観光客にとって、東京方面から日光に行くには、私鉄の東武特急ではなく、ジャパンレールパスの使えるJR日光線経由で日光に向かうというのが定番のようです。
バス停には多くの人が並んでいましたが、殆どが10:32に先発する中禅寺温泉行きのバスに、残った数人は10:37に発車する世界遺産めぐりバスに乗り込んでいきました。なるほど、東照宮エリア・中禅寺温泉・中禅寺温泉以遠の湯元温泉方面のバスを数分差で順序良く連続発車させることで遠近分離を図り、混雑を避けているのかと感心してしまいました。
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私の乗る湯元温泉行のバスは、最新型のノンステップ車両があてがわれていました。車体こそ路線バスと同一ですが、ハイデッカー車と同じ塗装を纏っており、内装も2人掛けのハイバックシートがならぶワンロマ仕様となっています。
JR日光駅から乗車した乗客は、私の他にはいませんでした。東武日光駅で数人の乗客を乗せた後、バスは神橋、(東照宮)西参道と進んでいきましたが、5分前に中禅寺温泉止まりが先行しているので乗車は殆どありませんでした。
大谷川を左手に、御用邸のあった田母沢や、古河電工の工場を見ながらバスは山に向けて快走していきます。かつて、路面電車の終点であった馬返を過ぎると「ここより、いろは坂を走行します。カーブが続きますのでご注意ください」というアナウンスが流れました。
急なヘアピンカーブの連続するいろは坂を、華麗なハンドル捌きでスイスイ走っていく運転士さんのスキルには思わず舌をまいてしまいました。県外からやってきた観光バスなどは、スムーズに通過できずに何度か切り返すこともあるらしいという話を聞いていましたが、さすが東武バス日光の運転士さんは毎日ここを通っているだけあって手馴れたものです。
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流石に登り坂では速度が出ないようで、何台もの乗用車やバイクに追い抜かれながら、右へ左へとヘアピンカーブをこなしながら山を登っていきました。
「まもなく明知平」というアナウンスが流れしばらくすると、ぱっと視界が開けました。ここ明知平は、ロープウェイの駅と展望台が併設されちょっとしたドライブインのようになっています。
明知平の停留所からは20人近い乗客が乗ってきて、ガラガラだった車内に人の姿が溢れました。明知平を発車するとすぐに長いトンネルに入り、それを抜けると中禅寺温泉の街中に入り、すぐに中禅寺温泉バスターミナルに到着します。
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ここでは殆どの乗客が降りていきました。5分前に中禅寺温泉止まりの便が先行していることから、明知平から乗ってきた乗客は湯元温泉方面に向かい乗客ばかりだと思っていたのですが、違ったようです。おそらく明知平ロープウェイの到着と重なったのかと思います。
5分停車の後、定刻の11:30になると、13km先の終点湯元温泉へ向けて力強く走り出していきました。中禅寺湖のすぐ北岸の道路を走行するので、左手に湖を眺めることが出来、なかなか風情のある車窓です。
11月下旬に訪れたのですが、湖畔や山中の木々は落葉し、遠くに臨む山々の山頂は雪化粧をしており、標高の高い奥日光の一足早い冬の訪れを感じました。
湖畔の道路を5分ほど走り、菖蒲ヶ浜遊覧船発着所の停留所に到着しました。ここからは遊覧船に乗り換え、中禅寺温泉まで戻る腹積もりです。
バス停のそばにあるレストハウスに併設されたチケット売り場に向かうと、なんと「悪天候のため欠航」との看板が掛かっていました。
天候は快晴で風も穏やかなので、素人目には運休するような天気には思えなかったのですが、安全のことを考えると素人目には分からないシビアな基準があるのでしょう。
毎時2本のダイヤにおいて、4分程度の待ち合わせで中禅寺温泉方面に戻るバスが来るのは不幸中の幸いでした。ひとまず中禅寺温泉に戻って作戦を練り直すことにしました。
中禅寺湖の船着き場で確認したところ、午後からは運行が再開されるとのことでした。紅葉も散って寒々とした風景の中禅寺湖を船上から楽しみました。
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冬季はオフシーズンということで、今年の営業は11月末で終了ということでしたので「駆け込み乗車」ということになりました。