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エッセイ

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2022年3月の記事一覧

🎧ライター志望のマイノリティに知ってほしい8つのこと

 今日も一日お疲れ様です。ライターのマサキチトセです。  マイノリティという立場から物を書く仕事、最近どんどん増えていますよね。私も2015年くらいからお金をもらって文章を書く仕事を時々しています。  私の場合は、自分がバイセクシュアル気味であるとか、ノンバイナリー気味であるとか、そういう背景もあって、性的マイノリティに関する社会問題についての執筆や講演依頼を頂くことが多いです。  皆さんの中には、在日コリアンであるとか、貧困女性であるとか、いろんな立場があると思います。そし

スカっとしない方のフェミニズム

 1年前か、それとも2年くらい前か。ツイッターで見つけたのか、Facebook で見つけたのだったか。  看護師が主人公の短い漫画だったと思う。  とある老人が入院していて、その妻が毎日看病に訪れている描写から始まる。夫は身の回りの世話を全て彼女にさせていて、そのくせ彼女への態度は非常に悪い。横暴な物言いで、あれをやれ、これをやれと指示しては、時々癇癪を起こすような男だった。もしかしたら彼女もまた同じ病院に入院していたのだったかもしれない。もうあまりそういった細かい記憶は無い

初めてキスしたあいつが死んだ

 私が初めてキスをした男は、火を使って絵を描くアーティストだった。  十代も終わりに差し掛かった頃、好きなミュージシャンの公式ホームページにあった掲示板で仲良くなった。実際に会ってみると、薄く化粧をしていて、今ならそれがそいつのジェンダー表現なのだろうと思うのだけれど、当時は「ビジュアル系の人だ……」としか思わなかった。  男性にしては長めの髪で、不思議な造りの服を着ていた。あとで聞いたら、服は自分で作っているらしい。私の周りにはアートを作る人も服を作る人もいなかったから、都

死者の愛し方を教えてくれ

 昼職で隣県に行った帰り、あまりにも天気が良かったので少し回り道をすることにした。2019年の春のことだった。普段は曲がらない交差点を右に曲がり、山沿いに車を走らせる。しばらく進んでふとナビを見ると、少し先に公園があるらしい。あまり大きくはないが、街の中にあるような小さなものでもない。ダッシュボードの時計を見ると、まだ午後三時半だ。駐車場に入り、エンジンを停め、車を降りた。  持ち物はタバコケースだけにした。スマホを持っていたらどうせ LINE や Twitter を見てしま

日米ゴミ分別事情と、新しく買ったタンブラー

 ゴミを出さない生活をしたい。初めてそう思ったのは日本で一人暮らしを始めた時だった。日本ではゴミの分別がとても細かく決められていて、参ったな、やってられないや、と思ったのだった。  アメリカでルームシェアをしていた時は——まあ州にもよるのかもしれないけれど、少なくとも2011年くらいまでのカリフォルニアとイリノイの両州においては——ゴミの分別という概念すら存在しなかった。だいたいどこの通りにもゴミのコンテナがあって、一応リサイクル用のものもあったりするけれど、基本的にはどん

私たちは、大騒ぎすることを自分たちに許さなければならない

 祖母が死んだ。  その日はバレエの日だった。バレエの日というのは、週に一回、知り合いのバレエ教室の先生がやっている大人向けのストレッチ教室に通う日だ。10時に起きて、11時までにスタジオに行く。のそのそとベッドから這い出た10時半ごろ、母親から電話がかかってきた。 「ばあちゃんが起きないんだけど」  まだ寝巻きだった私は急いでコートを引っ掛け、同じマンションの母の家に走った。エレベーターを待っているのももどかしく、階段を駆け降りた。  ドアを開け祖母の部屋に行くと、眠っ

空腹でもないのに

 先日あるモデルの女の子がインタビューで「体型を維持するコツは」と聞かれ、「お腹が空いてない時は食べないことです」と答えていた。目から鱗だった。そんなこと、考えたこともなかった。  私はその日買ってきたものを全て食べるし、誰かと食事に行けば必ず食べ物を何か注文する。どんなにお腹が空いていなくても、生ハムサラダとフライドポテトくらいは食べられる。コンビニで買ったチーズ鱈も、ビーフジャーキーも、翌日に持ち越したことなどない。  もうお腹いっぱいだな、と思うことはあるけれど、だか

神社でクィアがレボリューション

 私は、アメリカのどこかの大学のキャンパスを歩いていた。  複雑な細工が無数に施された古い木造の建物がいくつも並んでいる。黒い鉄の門や格子。くすみきった窓々が、夕方のかろうじて沈んでいない陽の光に赤く染まっている。私は数学の教員に会う用事があり、急いでいた。  教員のオフィスがあるのは、キャンパスの東端だった。人文学の建物からは、歩いて20分はかかる。そのあいだにある自然科学の建物、社会科学の建物、図書館にカフェテリアが付いた建物には全て中央にアーチ型の通路があったので、学

コール・ミー・バイ・ウァッダファック

 僕、と言うと、なんだか自分がサブカル男子になったような気持ちになって、少し恥ずかしい。三六歳にもなって、まだ世の中の若者側にいるような気でいる、って周りから思われそうで。  私、と言えば、すっかり染み付いた口調も相まって、オネエだからそう自分を呼ぶんだろうと、他人から分かったような顔で納得されてしまいそうでやっぱり嫌だなと思う。  俺、だなんて言えない。それは小学生の頃からずっと避けてきた言葉だ。物心ついた時から、男性になることに漠然とした恐怖や忌避感があった。女の子になり