1話 エル&ミリー 「副業盟主とコメディ女」 辛辣装備の副業盟主は、光の溺愛男に進化する
あらすじ
「盟主・モデル・スパイ」。
自らを煌びやかな外面で固め、嘘に塗れた日々を送るエルヴィス(エリック)はある日、街で絡まれていた女・ミリアに靴を投げられる。
とんでもない跳ね返り女と出会ったエリックの元に、後日舞い込んだのは一つの依頼。毛皮の不自然な値動きを調査することになった彼は、一枚岩の服飾ギルドに調査を入れるため、立場を偽り縫製工房勤務のミリアを情報源に。
依頼を遂行する過程で、ミリアの想定外の切り返しや言葉態度に心が惹かれていく。彼が自身の立場を忘れ、笑い溢れる日々に「君の隣にいる自分が好きだ」と気づいた頃には…魔の手が近づいていた。
黒幕を叩き、偽りを捨てた彼は、ミリアに会いに行く。
ターゲット
20~40代ぐらいの女性。
コメディが好き、じっくり変わっていく人間関係が好き女性。
どっちかと言えば、悪役令嬢や不遇系ヒロインに飽きてきた女性。
パワフルな女の子やコメディに元気が欲しいな~と思っている人。
登場人物
エリック・マーティン
(本名エルヴィス・ディン・オリオン)
(モデル名 リック・ドイル)
26歳
職業:盟主・スパイ・モデル
役回り:男主人公
盟主でスパイでモデルの、「副業やりまくり男」。性格は自信家・辛辣・冷静・横柄・煽る・猜疑心が強い。何でも自分でやりたい派。独善的で、生れ落ちてしまった立場にうんざりしながら国は護る。立場にすり寄ってくる人間が気持ち悪くて仕方ない反面、自分を見てほしい願望をこじらせている。本命童貞。
ミリア・リリ・マキシマム
24歳
職業:着付師・カウンセラー・魔法使い
役回り:女主人公(コメディ担当)
投げた靴がきっかけで、エリックのターゲットとなってしまった「口の減らねー女」。平常時はゆるいが、基本的に負けず嫌い。「ああ言えばこう言う」「反応斜め上」「口から生まれたコメディ女」。ウエストエッジで着付師をしているが、本当は異国の魔法使い。今の生活を護るため、非魔法使いを装っている。
3話以降登場
胡散臭い中間管理職・スネーク・ケラー
37歳
職業:総合ギルドの長
役回り:ストーリーテラー・引っ掻き回し
ノースブルク諸侯同盟・オリオン領・ウエストエッジの商工会ギルド長。エリック(エルヴィス)の部下に当たるが、その性格は「胡散臭い」。「火のないところに煙を立てて、油を撒き風を送り大炎上させたあげく、見物人を決め込むタイプ」。エリックの部下だがエリックには嫌われている。
私服がダサい王子
リチャード・フォン・フィリッツ(26)
筋肉好きすぎる皇女
キャロライン・フォンティーヌ・リクリシア(26)
恋愛大好きスピーカーモデル
ココ・オリビア(20)
気だるげな職人
コルト・クロック(18)
女好きのおっさんキラー
ヘンドリック・フォン・ランベルト(24)
キャッチコピー
「改革貴族ファンタジーをコメディで包み、不穏ソースをたらしました」
「婚前なれそめコメラブディ」
「貴族ファンタジーの中にコメディ要素を突っ込みました」
本文 1話(シナリオ形式)
ナレーション:
何事にも、表があれば裏がある。
本業があれば副業がある。
これは、自らを「盟主・スパイ・モデル」という、光と闇の外面で固めた男の 喜 劇 である。
※
【ノースブルク諸侯同盟国・ウエストエッジ・晴・昼】
【セマイコミッツ通り・飲食店の軒先・椅子で新聞を読むエリック】
エリック・モノローグ
(「人は使命を与えられ、女神より生を受けました」)
(その教えを疑うつもりはないが、うんざりだ。
嘘に塗れ、自身の利益のために他人を騙すような連中のために、生涯を捧げるのが自分の使命なのか?
貴族として産まれ落ちた以上、この命は国のものか?
・・・馬鹿馬鹿しい、俺を見るものなど、誰一人として居ないのに)
//モノローグ終了//
飛び込んでくる女の声。
女
「ならない!」
ため息を吐くエリック。
ちらりと目くばせ。
煩そうな男女にうんざり。
女の声
「そこをお退きください!」
不機嫌にもう一度息。
ナンパだと確認してげんなり。
女の声
「お出口はあちらです!」
エリック(心の声)
(……ああ、収まりそうにない)
溜息をついてゆっくりと立ち上がり、通りの方へ。
靴音: こつ こつ こつ
scene1 必殺パンプスストライク
【ノースブルク諸侯同盟国・ウエストエッジ】
【セマイコミッツ通り・道の端】
良く晴れた初夏の午後。
赤い屋根に白い壁の商店街。
行きかう雑踏。
ミリアがナンパに絡まれている。
ナンパ
「いいだろ? その荷物もってあげるってっ!」
ミリア
「い、いやあ。大丈夫です~、ありがと~」
ミリア、引きつり笑う。
追い詰められて壁際。
ペタンコの靴がコツンとぶつかる。
ナンパ
「ひまだろ? いいとこ知ってるからさぁ」
ミリア(心の声)
(暇じゃないって)
(なんか臭いし)
(あああああああああああ止まるんじゃなかったああああああああ)
ミリア(心の声)
(さあどうしよこれ、困った)
(壁ドン息くさ逃げ場なし
おまけにしつこさマジでやばい
困った詰んでるマジで無…………あ)
ミリア、絶体絶命。
ナンパの背後に通行人発見。
ミリア(心の声)
(あの人たち助けてくれるかもしれない!)
目線で「助けて」攻撃。
しかし、
通行人
「…………」
通行人、目が合う。
目を反らす。
去っていく。
ミリア、ぽかーん……
ミリア(心の声)
(…………せ、世間って冷たい…………)
(確かにわたし美人ってわけじゃないですよ!でもここはちょっと助けてくれても!あるわけ無いよね知ってます!)(一人コント)
ナンパ
「おい(圧)」
「なあ」
ナンパ
「聞いてんの?(圧)」
ミリア
「……!」
目くばせ。
状況把握。
壁際に追いやられている。
ナンパの腕は思いっきり壁をドン。
顔が近い・腕が太い、なんか匂う。
ミリア、逃げる隙を伺う。しかし無い。
ミリア、密かに口をつぐむ。
ミリア
「………………」
モノローグ
”選ぶしかないのかもしれない。
こいつに食われるか、それとも──
──────抗うか”
ミリア、
──すぅ──! はあああああ!
キッ!と睨み上げ。
ミリア
「要らない要らない、そういうの迷惑。
わたし、これ、買い物帰り!
見ればわかるでしょ?」
ミリア、見せつけるように右腕の紙袋を上げ、左手の麻袋もあげる。
ミリア
「重いの、これ。結構な重さなの。
こんな状態で『あら嬉しい♡ じゃあ、焼き菓子でも食べちゃおうかなあ♡』ってなると思う?
なるわけないじゃん!
ならない! ならないよ!」
ミリア、母親のよう。
ナンパ、いら立つ。
ミリア、荷物を足元に置くと、自分の胸を押さえる。
ミリア
「まずさあ、誘う相手が間違ってると思わない?
わたしみたいな荷物抱えた女じゃなくて、他の暇そうにしてるヒトとかに声かけない?
ほら、あそことか! あそことか!
たくさんいるじゃん!」
ミリア、ナンパ男の背後をぴしぴしと指しまくる。
指された女性、困惑している。
ミリア
「普通、荷物もってせかせか歩いてたら『あ、忙しそうだ』とか思わない? 『声かけても無理っぽいな』とか思うじゃん? 思うよね? まあアナタが新手の宗教とかの客引きとかならわかるけど、そうじゃないんでしょ? 新興宗教の人なの?」
ナンパ
「……い、いや」
ミリア
「じゃあ声かける相手間違ってるよ!
ずれてるズレてる、的外れもいいところ!
空のかなたに弓を放っても、ただカラぶるだけなの・狙ってるところがちがうの!もっと観察しなよ、荷物抱えて帰る女がお茶するわけないじゃん。
……いやまあ?
中には居るかもしれないけど?
でも、わたしはしない・早く荷物置いて楽になりたい!
観察力が!
不足していると!
思います!」
(早口一気で)
ナンパ
「────っ……!」
ナンパ、気に食わない。
悔しさと苛立ちの混ざる顔。
ナンパ
「(女のくせに言い返しやがって……!)」
ナンパの回想
ミリアの歩く姿。
大人しそうで柔らかそうで、声掛けられてにこりとほほ笑む。
行けると確信するナンパ。
回想終了
現実に戻る。
怒っているミリア。
細身の体。
服の上からでもわかる、ふくよかな胸。
尻と顔。
ナンパ(心の声)
(ハ!他はどうでもいいわ。
このアマ、服剥いてごめんなさいって言わせてやらぁ)
「……この女……いい度胸してるじゃねえか……!」
すごむナンパ。
睨むミリア。
ミリア
「──もちょっと観察力とか想像力とかつけてきてからの方がいいと思う!
そしてわたしは行かない!
しつこいです!
どうぞ他へお回りください!
そこをお退きくださいませ!
お出口はあちらです!」
ナンパ
「オ・レ・ガ!
誘ってんのに来ねえのか!」
ミリア
「はあ!?知らんし!
行かないって言ってるで────っ!?」
”ガッ!”
腕を掴まれるミリア
ミリアに走る緊張。
ミリア(心の声)
(──やばいッ……!?)
焦った顔。
後ろから別の男の声。
エリック
「……ちょっと。いい加減にしてくれないか」
二人
『────!?』
ミリアとナンパ、振り向く。
エリック登場。
黒く短めの髪・シンプルな襟付きのシャツ・細身のベスト。
黒のパンツに、ひざ下丈のブーツ。
限りなく黒に近い青い瞳。
苛立っている様子。
エリック、近寄る。
ミリア、引きまくりで驚く。
ミリア(心の声)
(…………う──────わ────……(退く)
彫刻が歩いてるぅ────……!?)
(……こっ、こんな小説みたいな展開ある……?)
ミリア、動揺。
くるんと目くばせ。口を押える。
ミリア(心の声)
(こんな展開ある?(二度目)
(うわぁ、マジで? こんなお約束展開ある?)
(あ! これ変な事言わない方がいいやつ……! だまっとこ……っ!)
ミリア、とりあえず緊張の顔。
ナンパ、エリックに絡む。
ナンパ
「誰だお前」
エリック
「──ハッ!(あざ笑い)
……俺がどこの誰だろうと、関係ないだろ。
そんなことより……
今、君たちがここでしているのは迷惑行為だ。
周りを見てわからない?」
エリック、小ばかにしてナンパを一瞥して。
エリック
「……ここは道も狭いし、露店も多く並んでいる。
君たちが少し取っ組み合いでもすれば、商店に迷惑がかかるんだよ」
ナンパ
「…………ハ?(威嚇) 正義の味方でも気取ってんのか、あ?」
エリック
「……(鼻で笑う)別に、そういうわけじゃないけど。
彼女を盗りにきたわけではないから……、その手を離してくれないか?」
エリック、目くばせ。ミリアの手を離すよう促す。
悔しそうに離すナンパ。
ミリア(心の声)
(こ、こんな恋愛小説展開あるのか本当に!?)
ミリア、あまりにもあまりにもな展開にびっくり。
エリック、ミリアに顔を向けて。
エリック
「……(冷めた口調で)俺としては、アンタだけじゃなく、君も。
二人まとめてお引き取り願いたいところなんだけど?」
ミリア
「……ちょ、わたしも!?(指さしながら)」
「(助けてくれるんじゃなかったの~~!?)」
エリック
「…………君も同罪だろ。
さっきから火に油ばかり注いで(呆れため息)」
ミリア
「……同罪って……!(食って掛かる)
ちょっとひどくない?
わたしは嫌だって言ってるのにこいつがしつこいから!」
エリック
「嫌なら相手にしなければ良かったんじゃないか?
それをいちいち答えるからこうなるんだ。
さっきから見ていたけど、君、
最初は愛想を振りまいていたよな?
男がその気になるのも、当然だと思うけど?」
ミリア
「わ・た・し・は!
────…………苦笑いしてたんですぅ!!(詰め寄り言い返す)」
エリック
「…………あぁあぁ、はいはい(棒読み視線反らし)」
エリック(心の声)
(「ああ言えばこう言う」な、この女……!)
エリック、うざそうに項垂れ短い溜息。
背を伸ばしてミリアとナンパに、
エリック
「……どちらにしても迷惑だ。
……君が困ってるみたいだから助けようかとも思ったけど……、その威勢なら問題なさそうだな?」
エリック、意地悪く嗤う。
ミリア、ポカーン。
エリック、やれやれと言わんばかりにナンパを見ると。
エリック
「──じゃあ、騒ぎは立てないでくれよ?
彼女が欲しいのなら、きちんと身なりも整えて、同意を得た上でディナーにでも誘って口説いたらいい」
ミリア
「────はっ……!? ねえ、ちょっと……!」
ナンパ
「へっ?」
エリック、ナンパに。
エリック
「………………悪かったな? 狩りの邪魔をして。
とにかくこっちは、暴れなければそれでいいから。
……彼女を説得するのは骨が折れそうだけど、応援しておくよ」
ミリア
「ちょ、ま……!?(焦り目で追いかける)」
エリック
「────ああ、繰り返すけど。
『あくまでも、同意を得たうえで』、な。
それさえ得たなら、あとは好きにやってくれ」
エリック、ナンパの肩をポン。
「面倒だった」と言わんばかりに手をひらひら。
脇を抜けるエリック。
ナンパ(心の声)
(あ、いいんだ?)
ミリア
「…………ちょっ…………っと!(大声)」
”────声と共。
細い指が引き抜いたはミリアの“足元”。
ぺたんこの靴。”
ミリア
「……中途ぉ!」
”素早く掴まれた靴が 勢いよく弧を描き、”
ミリア
「半端にぃっ!」
”指先を離れて────── 一直線。”
ミリア
「────たぁあぁぁぁぁすけんなああああああっ!」
────ッ タァァァァァンッ!
渾身の抗議を込めた靴が、遠のく癖毛の背中を打った!!
scene2 ああ言えばこう言う!
【ノースブルク諸侯同盟国・ウエストエッジ】
【セマイコミッツ通り・道の真ん中】
エリックの背中を打つ靴。
立ち止まるエリック。
視線で探す。
靴を発見。
エリック
「……………………は…………?(低い声)」
エリック、ゆっくりと振り向く。
全力投球フォームのミリアと目があう。
ばちっ!と火花が散る。
ミリア
「助けるなら最後まで助けろっ!
わたしの意思! どうなる!
どうみても! 無理じゃん!
そういうの! 良くないと思う!
一番良くない!」
エリック
「……………………ちょっと。(怒)」
エリック、振り返りツカツカツカ。
(何のつもりだ)トーンで睨み据え、
エリック
「随分と乱暴な引き止め方をするんだな? こんなこと、初めてなんだけど?(注意するように)」
※
エリックの脳内
理想→「助けてくださいまし……」とひ弱に縋って目に涙。
現実→「うらあああああああああ!!」靴投げスッパーン!
※
エリック
「……(いらっ)靴を投げるなんて、何を考えてるんだ?(腕組み)」
ミリア
「中途半端良くないと思う!」
エリック
「あのな……!(うなじを掻いて理解不能という感じで)助けを求めるのなら、それ相応の頼み方があるだろ。もっと可愛らしくできないのか?」
ミリア
「可愛らしいとかよくわかんない!(すぱぁん!)」
ミリア
「今そんなモード出ない! 可愛らしくなんてできない!
……っていうかこんなふうに困ってるのに、そうやって見捨てるのってどうかと思う!」
エリック
「困ってるように見えないからそうなるんだろ?」
ミリア
「困ってるじゃんどう見ても!」
エリック
「喧嘩を売ってるじゃないか!」(ヒートアップ)
ナンパ
「……おい、女!」
二人、ナンパをフルシカトで対戦続行。
ミリア
「喧嘩なんて売ってない、売られた方だし!
だいたい、こんな汚いカッコして声かけるとか舐めてるとしか思えないでしょ!?」
エリック
「ならどうして無視をしない?
君が最初から相手にしなければ、彼だって」
ミリア
「……だぁからぁ、無視するの苦手なの!」
エリック
「────へえ。
それは知らなかった。(わざと驚いた様子で)
初耳だよ。お嬢さん?(おちょくるように)」
ミリア
「うわあムカつく! なんだそれ!(手をわきわき)」
ナンパ
「おい、お前!」
ミリア
「そりゃそうでしょうね、言ってないもん!
っていうか、今初めてお会いしました!
”どうも初めまして!”・”助けてください!”」
エリック
「……は? 今それを言うのか?
そんなヤケクソ気味に言われても助けようという気持ちが起こらないんだけど?」
ミリア
「それを出すのが人情!」
エリック
「いや、前提が無理だろ。それに、君もさっき言ってたじゃないか『的外れだ』って。頼み方にもあるんじゃないのか?
的 っ て や つ が (嫌味で協調)」
ミリア「……ああ言えばこう言う~!!」
エリック「…………──ハ! どっちが?(鼻で笑う)」
完全にナンパを忘れた二人。
尊大&嫌味全快・エリックのターン。
エリックは体裁も気遣いも忘れている。
エリック
「(フ! とひと笑い)
……まあ? そうだなぁ。
(顎引き詰め寄り嫌味っぽく)君が可愛らしく『助けてください』って頼んできたら……、助けてあげてもいいけど。
でも、どうかな?
君は口が減らないみたいだし、実際 初対面の俺ともここまで話している。
そいつとの会話にも困らないだろう?(くすくす)」
ミリア
「困る困らないんじゃないんだなぁ〜〜〜っ!
嫌なの、むりなの! 生理的に無理!
わたしにも選ぶ権利というものがある!」
エリック
「・・・・・・だから(イラァ)。
『 最 初 か ら
相 手 に し な け れ ば
良 か っ たん』」
ミリア
「(割り込み!)だぁ・かぁ・らぁ! 無視はできないじゃん! 柔らかく断ってるうちに下がってほしかったのにこんなことになって、っていうかこいつ!」
────びしいいいいいっ!
ミリア
「な ん か 臭 い し まじで無理!」
ナンパ
「──……さっきから好き勝手言いやがってぇぇぇぇ!」
ナンパ、限界突破。
ミリアの瞳の中、腕を振り上げる映像。
ミリア「────わッ……!?」
ミリア(────殴られる!)
ミリア、頭を護り目を閉じる。
硬直。
数秒の間。
待っても来ない痛みに、眉を顰めて顔を上げる。
視界いっぱい、エリックの背中が飛び込んでくる。
ナンパを腕を押さえているエリック。
エリック
「────……………言ったはずだ。
『同意のうえで』ってな……?
…………どうして彼女の方に手が出た?
言ってみろ」
ナンパ
「……こっ、……てめっ、この……っ!」
エリック
「──……ノースブルク諸侯同盟国 オリオン領 条例 第18条5項。
”力弱きものに暴力を振るってはならない”……
…………お前のような屑がいるから、いつまで経っても溝が埋まらないんだ」
腕から”みしっ”と音。
ナンパ、焦り声を上げる。
ナンパ
「……な、なんだ、おまえ……!?」
エリック
「………俺のことはどうでもいい。
……街から出ていけ。
貴様のようなクズは、この街に必要ない」
ナンパ、カチン。
腕を振り払い殴ろうとする。
ナンパ
「……っうっるせぇんだよっ、なんだお前さっきからっ、シャシャリ出てきて人をコケにしやがってっ、馬鹿にしてんじゃねえよっ! このッ!!
若造がああああああ!」
響く怒号。
脇を抜けるエリック。
ナンパの腕を捻り上げ背後を取る。
ナンパ
「……いでだだだだっ!」
エリック
「────まだ続けるか?」
────どすっ!
エリック、壁に押し付ける。
ナンパの余裕のない目が背中越しに睨むが、冷たい眼差しで。
エリック
「────それとも……
この腕……、このまま圧し折ってみせようか」
引きつるナンパに、耳元で。
エリック
「────……覚えておくんだな?
この街で暴れた奴が、どんな末路を辿るのか」
兵士が駆け寄ってくる。
画面が流れて、暗転。
scene3 なにやってんだ俺は
//※//場面転換
【ノースブルク諸侯同盟国・ウエストエッジ】
【セマイコミッツ通り・道の真ん中】
遠巻きの雑踏・兵士に連れていかれるナンパを背に、うんざりとうなじを掻くエリック。
エリック
「………………、はあ……」
エリック(心の声)
(いつもはこうじゃない。どうしてこうなった?ああもう……穏便に済ませられなかったのか?)
エリック、不機嫌そうに胸元をぱたぱた煽る。
エリック(心の声)
(彼女が”ああ”だったからじゃないか?)
ミリア
「…………は、はぁ~~~~~~…………っ」
でっかい安堵の溜息。
エリック、顔を向ける。
ミリア、驚嘆の顔でこちらを見る。
ミリア
「おにーさん、迫力すっごいね、息飲んじゃった」
エリック
「…………」
エリック、黙る。
目線・ミリアの容姿へ。
胸まで伸びたダークブラウンの髪。
はちみつ色の瞳も柔らかく。
纏うその服「町娘仕様」。
サイズは「一般の成人女性」。
特別小さくも、大きくもない。
細身ですらりとした体型。
首元のネックレス紐。チャームは服の中。
エリック(心の声)。
(……”大人しそう”で”物腰柔らかそうな女性”だが……)
ミリア「?」
エリックの脳内。
「うるああああああああ!」と靴をぶん投げるミリアの図。
エリック
「………………」
(心の声)
( 全然 大人しくない)
ミリア、へらっと笑って「やー、びっくりしたあ」。
エリック(心の声)
(…………『びっくりしたぁ、』じゃないんだけど?)(苛っ
エリック、教師のように眉をひそめて。
エリック
「…………”凄いね”じゃないだろ? 君があんな風に煽らなければ、」
ミリア
「──そう。それは、そうだと実感した」
エリック
「…………」
エリック、出鼻をくじかれる。
ミリア、考えを整理するように、ぽつぽつと。
ミリア
「あれは良くない。よくないぞ自分……。
……も少しうまい切り抜け方を覚えようと思う〜(ぽつぽつ唸りつつ)」
エリック
「………………本当に、わかってるのか?(念押し)」
ミリア
「わかってますとも、よろしくなかった(即答)」
エリック
「………………」
エリック、戸惑い唸る。
エリック(心の声)
(……なんだこいつ。随分と変わった女だ。上手く言えないが毛色が違う)(こんなにアッサリ自分の非を認めるのか?庶民だからか?なんだ、この女……)
ミリア
「────でも! まあとりあえず!」
パンッ!(手を叩く音)
ミリア
「…………助かった~! ありがとう!」
笑顔のミリア。
胸元に両手を当て、この国の感謝の念を送る。
エリック、拍子抜け。
目を丸めて首を振る。
エリック
「……ああ、いや」
エリック、戸惑い目を反らす。
上手くいかない、という顔でうなじを掻きつつ。
エリック(心の声)
(肩透かしだ……!)
( ……今だって、てっきり、言い返してくるかと思ったがそうでもない。『当たり前だし! 早く助けなさいよ!』と言うかとも思ったが、それも違った)
(動きが読めない……)
エリック戸惑う。
ミリア、ハッと顔を上げしゃがみ込むと。
ミリア
「あああああ、荷物が……!もー、人のもん落としたなら拾ってってよ、もぉ~~~!!」
散らばった道具を拾い出す。
分厚く巻かれた布。
芯に巻かれた色とりどりの糸。
細かく散らばったボタン。
鉄製の平たく丸い入れ物。
ミリア、破れた紙袋はしまいこみ、麻袋に詰め込む。
ころんと糸が転がる。
糸、石畳の上をころころ。エリックの靴を打つ。
エリック、拾い上げて。
エリック
「…………なあ、これ、君のだろ?」
ミリア
「…………あ! うん、それ『糊』!
ありがと〜!」
ミリア
「あぁよかった、これも高いんだよね~、なくしたらショックだった~」
エリック(心)
(……さっきあんな思いをしたのに、随分肝の据わった女だな……)
エリック、ミリアのコロコロ変わる様子を黙って見て、座り転がった手を伸ばす。
エリック
「(ボタン・布、針……これは、フリル? いや、リボンか?
…………ということは、縫製店勤め……なのか?
──てっきり食堂とか魚屋の娘かと思ったんだけど。
……たしかに、指先が少……ん?)」
エリック、ミリアの指さきを注視。
プルプル。ぷるぷる。小刻みに微振動。
エリック(心)
(…………へえ…………?)
エリック、ニヤリ。
すぅーっと引く顎・細める目。
右の手で隠す口元。
張り付く笑顔に小首をかしげて。
エリック
「………………君。
……あれだけ威勢良く返していたのに、やっぱり怖かったんだ?」
ミリア
「…………ゥ、」
ミリア、ぴくん、カチっ、ギギギギギッ
ミリア
「…………イ、やッ。こわく、なイよ?」
エリック(心)
(………………ふうん?)
エリック
「…………手。
震えてるようだけど、それは?」
ミリア
「────こッ。
これは────、
そのっ、
………………『キノセイ』、じゃないっ?」
エリック
「────へえ?
『キノセイ』なんだ?
そうかあ。(わざとらしく)
君は、俺の目も『木の精』にやられてしまったと言いたいのか?」
ミリア
「そぉそぉそぉそぉ!
それそれそれ!
キノセイさんもさー、やってくれるよねー?
ヒッ、
人の体を、こうして、さっ?」
エリック
(………………へえ?)
ミリア
「──ま、まあ? 若干嫌な感じで今も心臓どきどきしてるけど、怖かったわけじゃないし!」
エリック「……」
ミリア
「死ぬかもって思ったけど生きてるし! 怖くないし!」
エリック「…………」
ミリア
「さあさ、かえりましょ! いけるいける! だいじょぶだいじょぶ、いける行ける。いける。────行けますっ!」
エリック「…………………………………………………………」
ミリア
「────よしっ! 行くっ!
────セイッ ヤッ!
……ってああああああああっ!?」
エリック
「………………ほら、行くぞ」
エリック、素早くミリアの荷物を攫いあげ肩へ。慌てて立ち上がるミリアに歩きながら、
エリック
「……ほら。これ、どこに運んだらいいんだよ?
君の家? それとも職場?」
ミリア
「ちょま……!」
ミリア、手をのばしちょろちょろ。
エリック、構わず歩く。
ミリア
「いや、いやまって! いいってそんな!
いいから!
そこまでしてもらうの申し訳ない!」
エリック
「…………はいはい。
……ほら、場所。こっちでいいのか?
早く教えてくれないと、時間がもったいないんだけど?
────ああ……、それとも、」
エリック、ぴたりと止まり、ミリアに悪い笑み。
色気のある悪い顔で顔を寄せ、
エリック
「…………いっそ、少し休もうか……?
君の震えが止まるまで」
ミリア
「────! …………結構ですっ!」
空に響くミリアの怒った声と、エリックの小さな笑い。
※ 第一話 9400文字
第2話
第3話
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