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2話 エル&ミリー 「副業盟主とコメディ女」 辛辣装備の副業盟主は、光の溺愛男に進化する 

本文 第2話 (シナリオ形式)


※// //※
  場面転換。
  ウラノコミッツ通りを歩くエリックとミリア。
  焼き立てのパンの匂い。
  のどかな商店街。
  凹むミリア。

 エリック、ジト目で。


エリック
「…………どうしたんだよ、さっきから黙って」
ミリア
「…………いや…………
 なんて言うか、反省だよねって思って……」

エリック
「反省?」
ミリア
「……お兄さんの言う通りだなーって思ったっていうか」
 

 肩を並べて歩く二人。
 ミリア、しょぼんと眉を下げてため息。

ミリア
「……はぁー……
 いくら鬱陶しかったっていっても、力では確実に勝てない相手に……
 わたしとしては『買い物帰りなんです~』って伝えたかっただけなんだけど、どーも伝わらなかったらしい……」

 
 ミリア、もどかしそうに胸のあたりで指をもむ。
 エリック、呆れ眼で空を仰ぐと。


エリック
「……あれでそのつもりだったのか?
 どう見ても煽ってるようにしか見えなかったけど?」
ミリア
「煽っているつもりはなかった! 
 ……しかし、どーも……」
エリック
「”煽ってる”だろ? 怒らせてるんだから」
ミリア
「…………ぐうの音も出ない~……」


エリック(心)
(へえ、自覚はあるのか)

ミリア
「……だって、こんな経験あんまりなかったんだもん。
 普段めったに声なんかかけられないし、かけられたとしても

 『お姉さんこれいかが?』とか、
 『新しいの出たよ』とか、
 『幸せですか?』とか、そんなんばっかりで。
 
 ……ああいうのって、笑って手でも振っておけば振り切れるし、……それと同じかと思ったんだよね〜」

エリック
「…………呆れた。同じなわけないだろ?
 君の周りは相当のんきな環境だったんだな?」

ミリア
「………………。
 …………言ってることいちいち失礼なんですけど…………(ジト目)」
エリック
「…………君も、相当だと思うけど(顔を反らしてぼそっと)」

ふたり
『………………』

 音:ざっざっざっ(靴音)
 音:人の話し声
 見えるもの:商店の壁に目元を隠したモデルのペア。
 二人、互いにそっぽ向きながら歩く。

 子どもが駆けてくる。
 ミリアにぶつかりそうになる。

ミリア
「……おおっと!
 (半身を反らして)めずらしーな~」


 ミリア、少しよろけて持ち直す。
 エリック、手元の荷物をまじまじと見て。

エリック
「……というか、布って結構重いんだな」
ミリア
「あら、あんまり馴染みなかった?
 この街の人じゃないの?」
エリック
「……いや、この街の人間、だけど」


 エリック、質問を疑問に思い、聞き返そうとする。
 が、


ミリア
「──っていうかあの男、臭かったよね〜……
 なーんか変な匂いしなかった?」
エリック
「……え?」


 急に聞かれてエリック、驚く。
 ミリア、人差し指の甲で鼻を押さえ、ぷいっと前を向く。

エリック
「……ああ、まあ。
 いい匂い……ではなかったかな。
 籠るような、甘いような……
 不快になる匂いがした」
ミリア
「新しい香水とかかな?」

エリック
「……うーん……
 ……どうだろうな、『香水』って感じじゃなかった気がするけど」
ミリア
「流行ってるの?」

エリック
「…………俺に聞くなよ…………
 さすがに、香水の流行りはわからないから」

エリック(心)
(もう少し考えてからモノを言えよ……、まあ、それを言う義理もないけどな(冷めた口調で))


 しかし切り替え、エリック、空を仰ぎ。


エリック
「…………まあ、匂いなんてものは本当に好き好きがあるから……あながち「無い」とは言い切れないよな」
ミリア
「それね。
 人の好みなんて千差万別だもんね~。
 あ、こっちこっち。ここ、左」

エリック「・・・・・・・え?」

 ミリア、指差し案内。
 人ひとり通れるかどうかの路地。
 真っ暗。
 エリック、躊躇う。
 ミリア、お構いなしに植木鉢をまたいで闇の中へ。

 ミリア、ふんふんとご機嫌。
 エリック、困惑して。


エリック
「……こんなに狭い路地を抜けるのか?」
ミリア
「近道なんだ、ここ。
 ソコいつも水たまりあるから気を付けて~」


 通路を行く二人。
 路地を抜けて光が差し込む。

【場所・ウラノコミッツ通り】


ミリア
「……ありがとね? あそこ、わたしの職場」


 ミリア、指さす。
 エリックの視線が行く。

 
 石造りの壁に、木製の扉。
 向かって左側の窓ガラスの奥には、色鮮やかなドレスとワンピース。

 入口付近の観葉植物に『ぴんぴん』とちょっかいを出すミリア。
 半歩後ろで、エリックは、気持ちばかりに張り出したテントに吊るされたプレートを読み上げる。

エリック
「…………。
 『総合服飾工房オール・ドレッサー Vstyビスティー』……」

ミリア
「ただいま〜」


エリック(心)
(…………こんな店があったのか)


 見上げるエリック。
 ミリアがドアを押し開ける。

 ”ぎっ。”っと扉が軋む音。
 わずかに見えるカウンター。
 ミリアの背中越し、開いたドアの隅から光が差し込み、工房の世界が飛び込んでくる。

エリックの視線。
  おびたただしい数の糸。
  あるいは巻かれ、あるいは積まれた色とりどりの布。
  ふわりと鼻に入り込む、新品特有のこんもりとした匂い。
  ガラスケースに入った指輪やタイピン、コサージュやバッグ。

  動く彼女に空気が揺れる。
  扉の隙間から差し込む光の帯舞う毛埃。
  年季の入ったカウンターが艶やか。

  相反する様に、彼女が踏みしめた床が”ギッ”と軋んで音を立てる。


エリック
「………………………………………………………………」

 
 エリック、言葉なく見回す。

 エリックの視線
 ペン立てに刺された大きなハサミ。
 採寸用のスケール。
 何に使うのかはわからないが、印が刻まれている紙。
 とても小さなクッションに無数に刺さる針。
 奥に見える重りのようなもの。 

 ”──まさに工房。”

ミリア
「ようこそ。
 総合服飾工房オール・ドレッサー Vstyビスティーへ」

 にっこり肩越しに出迎えるミリア。


※// //※


【場所 総合服飾工房オール・ドレッサー Vstyビスティー

 

 映像:
  広がる光景、色鮮やかな糸と布の壁。 
  ごたごたと置かれた道具の数々。
  呆けるエリック。
  ミリア、カウンターの中へ。

ミリア
「…………お兄さん、ここにおいていただけると有り難いです〜」

 ミリア、大きな十字が刻まれた台を叩く。

エリック
「……ああ」

 エリック、低めの相槌。
 瞳で探る店内と構造。

 エリックの視界。

  見える範囲で扉は四つ。
  入り口、左手に二つ、右の奥に一つ。
  店内は決して広くない。
  奥に靴や帽子の並んだショーケース。
  カウンターは高め。大人の胸ぐらいの高さ。
  飛び越えようと思えば飛び越えられる。


エリック(心の声)
(カウンターの右奥の扉にある扉は奥につながっているようだが──
 ────左のふたつは?)
(……店のつくりから、あれが勝手口ってことはないと思うけど)


 エリック、拵えの違う扉を横目に、警戒しつつ指定の台へ荷物を。
 
 
エリック
「…………これは?」

ミリア
「これ? ああ、カット台。
 布を切ったりするのに使う台だよ」
エリック
「…………へぇ……」


 エリック、小さく呟き店内を一望。
 

エリック
「…………ここ、君の店なのか?」
ミリア
「まさか! わたしはここの従業員。
 オーナーは……奥にいるんじゃないかな?」


 ミリア、カウンター越しに扉のドアノブを弾き開ける。
 「オーナー!かえったよー!」と大きな声を流し込み。
 遠くから小さくオーナーの返事。

ミリア
「……よしっ」(満足そう)

エリック
「………………他に従業員は?」
ミリア
「バックヤードに何人か。
 針子さんがいるよ。
 みんな職人さんでしゃべるの苦手だから、窓口はわたし」 

 
 ミリア、答えて髪を一つに縛る。
 続けて買ってきたものをしまう。

 糸が棚の一部へ。
 布は広げられたあとくるくると巻かれ、布柱として背景に。


エリック
「………………」

 そんな様子を見下ろす、木目の綺麗なお品書きを見入るエリック。
 ミリア、手を止め顔を向けると。


ミリア
「────ねえ、どうしたの? 
 さっきから口数少ないね?」

エリック
「…………あ。
 …………そうだな」


 エリック、瞳を惑わせ一瞬の間。
 目線を横に、言葉を選びながら。


エリック
「……こういう店には、来たことがなくて。
 ちょっと圧倒された……かな」
ミリア
「ふーん?」


 ミリア、頬杖を付き。

ミリア
「……来たことないんだ?」
エリック
「…………ああ、まあね」
ミリア
「…………ふ────ん……」

 
 ミリア「そうなんだ~」という感じで相槌。
 
 ミリアの目線

  エリックの襟ぐり。
  (白の衿・緩んだネクタイ)
  一般的なベスト。
  (黒・普通・縫い目は綺麗)
  ひざ下ブーツ。

ミリア
「…………。
 ──ま、男の人にはあんまり馴染みがないかもね〜」


 ミリア、手を叩いて伸び。
 軽いトーンで。


ミリア
「男性モノの紳士服やコートなんかはテーラーでの取り扱いになるし。

 ……うち一応、男性モノも揃えてて、タイピンやネクタイ、お兄さんが着てるようなベストや襟シャツの扱いもあるんだけど……、さっぱり出ないしね〜」


 ミリア、「んんーっ」と 気持ちよさそうにうなり首をぐるっと回す。
 続けて、カウンター下からタイピンを取り出し滑らせるようにエリックの眼前へ。

ミリア
「ねね、おにいさん♡
 うちのタイピン、いかがですか? 
 お安くしておきますよ〜?」

エリック
「……結構だ。間に合ってるよ」
ミリア
「……それは残念っ」


 ミリア、くすっと肩をすくめてお道化る。
 エリックに背を向け、片づけの続き。
 何食わぬ顔。糸を拾い上げ、壁に向かってぼっそりと。

ミリア
(……お金持ってなさそうだもんなー
 あれはきっと労働ニュート階級だな~……)

 ミリア、盟主を貧乏認定。




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