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3話 エル&ミリー 「副業盟主とコメディ女」 辛辣装備の副業盟主は、光の溺愛男に進化する

3話 シナリオ形式


 総合服飾工房・ビスティーの中。
 エリック、その辺をしげしげと観察。

 ミリア、糸をしまいながらエリックを貧乏認定。


ミリアの頭の中。

(わたし、着付師のミリア!
 さっきあったお兄さん、たぶんお金ない人だと思う。
 え?「いきなり失礼な奴だな」って?

 だって、わたし着付師だし。
 ここ、「別名:女神のクローゼット」だし。
 みたら大体わかるじゃん?

 おしゃれのメッカの「ウエストエッジ」で、
 「縫製工房に入ったことないひと」なんて居ると思う?

 ここはね、どんな家庭でも一回か二回ぐらいは工房に入ったことあるの! お子様の時にお使い頼まれたりするの! だから、「入ったことない」なんて……ないない、ありえない。


 え? 「男だったら入らないだろ?」って?

 
 確かにそう!
 でも、縫製工房は紳士服もあるし。
 女性と男性で違いはあるけど、似たよーなもんだし。

 じゃあ、「この街住まいで、縫製工房に入ったことない人」っていうと……? どんな人だと思う?

 わたしが知ってる限りだと、
 「よっぽどの貧乏人か、王族クラスの皆様」がそれにあたると思う。

  王族や侯爵レベルの方々は、お店に来られるのではなく、お屋敷に伺うからね。それなら仕方ない……とは思うけど……
 
 
 ……うーーーん……
 このおにいさんが、王族ぅ……? 貴族ぅ?
 それっぽさがまるでないんだよね~、ボンボン感がないというか。
 装いふつーだし。
 上から膝までその辺で買えるし。
 
 そもそも爵位持ちがこんなとこ一人で歩いてるわけない。


 ……だけど、靴だけ高いやつ。


 あれはイイヤツ。 
 アイレットもついてるし、どう見ても本革。
 あれ一足でウン十万はくだらない……んだけど……
 貧乏人にも見えないし、ロイヤル金持ちにも見えない……)

 
 
 ミリア、ううん、むむむと考えエリックを盗み見。
 コサージュに夢中の彼。
 視線を戻してもう一度。


ミリア
(ん~…………じゃあ、あれか?

 「頑張って働いて、靴だけ良いやつ買いました」系かな?
 がんばっちゃった感じの!
 あー! それなら納得〜! 
 カッコつけっぽいしー!
 まだ全然若そうだもんね、22歳ぐらい?
 あるある、そういう時期あるあるぅ。
 きっとお給料貯めて買った系だ、あのブ〜ツ〜!)

 
 ミリア、ひとりで突っ走ってご機嫌。


ミリア 
(ふふふっ……あとはそうだなあ〜。
 もしかしたら、どこかのお家に仕える使用人なのかもしれないな? 容姿はいいみたいだし、お屋敷のあるじさんが気に入りそうな感じだもんね。

 あ、あれだ わーかった!
『あまりにみすぼらしい格好はさせられない』って、家主さんが服を支給してくれてるーとか!
 あぁー! それありかもー!
 きっとそれー! わたしあったま)

エリック「…………なあ」
ミリア「────はいっ!」
 びっくううううううん!

 恐る恐る振り向く。
 普通の顔のエリック。


 ミリア・心の声
(やっば、声に出してなかったよね……!?)


 ミリア、胸を押さえてどっきんこ。
 エリック、右手拳をカウンターの上に乗せ、ゆっくりと顔を上げると。

エリック
「ここは、営業してどれぐらい?」

ミリア
「え? えーとー。
 オーナーの親からだって言ってたから〜〜〜
 軽く50年ぐらいじゃない?」


エリック
「…………へえ。
 じゃあ、割と老舗のほうなのかな。
 君は、ここで雇われているだけ?」
ミリア
「まあ、そーだね?
 なんで?」

エリック
「いや、別に。他意は無いよ。
 ……ただ、店内が予想より昔の装いだったから」
ミリア
「あははは! 
 正直に言っていいよ? 『古い店だ』って。
 まあ、そこが気に入ってるんだけどねー。」

 
 言葉を選んだエリックを笑い飛ばすミリア。
 カウンターに腕を突き、紹介するように胸を張ると。


ミリア
「こー見えても、トイレや中は綺麗だよ?
 アンティーク工房みたいでいい味出してるでしょ。 
 オーナーの親の頃は純粋に縫製工房ドレスショップだったんだって。それをオーナーが改装したの。
 
 おかげで他のショップより少し手狭なんだけど、「それが」良くない?
 メニューもイマドキ珍しい木彫りだし。
 シャルメも、見て? 
 これ14年も前のなんだよ〜」
エリック「…………『シャルメ』?」


 ミリア、言いながらカウンター上の「何かに布をかぶせた物」から布を引き抜く。姿を現す、「井戸の手押しポンプと同じ、深く濃い重厚な緑色の本体」。

 頭部にセットされた巻き糸が、細い縫い針の先を通り、煌めいている。

 『等間隔とうかんかく 魔動まどう 縫製機ほうせいき シャルメ』(魔道ミシン)のお目見え。


 ミリア、古い本体に手をかざす。
 ぽわんと光る宝珠。
 針の先がもう一度光る。


 ごくり。
 エリック、息を呑むと。

エリック
「……ちょっと待ってくれ。
 14年どころじゃないだろ、それ……!

 初期型魔具まぐ「シャルメ」。
 縫製業界を変えた発明品の第一機……!

 …………出たのは18年以上前のはずだ。
 どうしてこんなところに?」


 エリック、珍しいものを見るように興奮。
 声を弾ませて。


エリック
「……従来の《足踏み式 等間隔とうかんかく 縫製機ほうせいき》に、魔力を定着させて自動化したもの……! 
 この型は初めて見た……! 
 凄いな、こんなところにあるなんて……!」

ミリア
「へえ、詳しいんだねえ〜〜。
 それ、3年前にもらったんだよっ」


エリック「……さ、3年前?」
ミリア「さんねんまえ」


 ミリア、ぽけらっと。
 エリック、「は?」。

 エリック、まともに戸惑いながら。

エリック
「………………出たのは18年も前だぞ?
 それが……3年って」
ミリア
「だって たっっっっっっっかいんだもん!(きっぱりはっきり!)」


 ミリア、腕を組んで高椅子に座る。
 心底不満げ、愚痴っぽく頬を膨らませると。

ミリア
「新製品なんてウン十万メイルもするじゃん!
 そんなの庶民が買えるわけないでしょ?」

ミリア
「そもそもですよ!
 魔具自体、貴族の方や王室、あと専属の商人が抱え込んで、一般人には新製品の情報さえ回ってこないしー。

 魔具専門店に「新台入荷!」って言われて見に行っても、大体3年以上前の型落ち品。それでも十数万メイルはするしさ。

 ……無理むり無理ムリ。
 店の経費で落とすって言っても、高すぎて手が出ないよ、あんなの」

エリック
「……で、これは?」
ミリア
「ふふふ。
 うちのお客様のアッパークラスの貴族さまがね?
 『倉庫から出てきたの〜』ってくれたの。
 …………初めて使った時は感動したよね〜、これは便利だ! って。
 今まで手縫いだったから本当に!」


エリック「…………そうか」
 

 エリック、伏せ気味に目を反らして愕然。
 ショックを受けた表情。
 しかしそれを瞬時に変えて、シャルメを見る。


エリック・心の声
(……現実はどうあれ、あんなもの、今はもう見ることができない代物だ……!) 

 エリック、古めかしいシャルメに瞳をきらめかせ、そっと手を伸ばしながら。

エリック
「……なあ。もう少し、見てもいいか?
 魔具には興味があるんだ」
ミリア
「…………うん、いいけど……、(妙に甘えたような声で)」

 
 ぴくん。

 エリック、ミリアの、伺うような・甘えるような声色に目を上げる。

 くすくす。
 にっこり笑っているミリアに目が留まる。
 ミリア、思わせぶりな上目遣いで。



ミリア「…………その前にぃ……」


 ミリア、カウンター越しに前のめり。
 組んだ腕が胸を押し上げ、胸が強調される。


 エリック、自然と目が胸に行く。
 ミリアの口元が悪戯に誘っている・・・・・


 エリック、無意識に心が躍る。
 ミリア、胸元のコルセットを締めているリボン紐を引き抜く。


 誘う指先 抜ける紐
 ふふふっ くすくす
 しゅるん しゅるん


ミリア
 「……ねえ、脱いで?」

 
 甘えた声。
 緩み外れたコルセット。
 ぱさりと音立て落ちる。

 

エリック(────へえ……?)


 エリック、意味を汲んで妖艶に笑う。
 すべてを理解した表情。
 襟ぐりをぐっと引き、色気のある悪い笑顔で。

エリック
「────フフ。
 ……嬉しいよ。ちょっと驚いたけど」



 カツンと靴の音。
 カウンターの中から出てくるミリア。
 
 ミリア、片手でストールを引き抜く。
 ふんわりと舞う布が、まるで誘い舞っているよう。

 エリック、口の端に笑み。


 ※地の文モノローグ
  ”別に、いいだろう。
   出会いが先ほどでも、なんでも。

   国内問題がどうであれ
   魅力ある自分に 
   女は皆 こうしてくるのだから”


 カツンと響くエリックの足音。
 ミリア、姿勢よく、目を離さず、一歩、一歩前へ。


 向かい合う二人。


 狭い店内。
 二人きり。
 ちらりと目に付く、お誂え向きの客用ソファー。

 窓の外。
 行き交う人々ガラス越し。
 白昼堂々。
 これもまた一興。

エリック
「(くすくす悪い笑顔で)
 ……いいよ? 相手をしてあげても。
 ────君のその期待には……応えないとな?」


ミリア「ん゛っ?」(思いっきり眉ひそめ)
エリック「え?」(カチンと固まる)



 ミリア、ネクタイを引きっぱなしで固まるエリックに、ふるふると首をふり。


ミリア
「違う違う、ボタン取れてる。ベスト。」


エリック「…………は?」
ミリア「ボタン。とれてる。一番上」

エリック「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

ミリア「ぼたん。」




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