謎の広告を調査せよ! CMAからの挑戦状 ~英国デリバリー業界の裏側に迫る~
というわけで、今回は息抜き記事です。
登場人物紹介
広告晴彦の疑問:あらすじと謎の発見
探偵力の更なるレベルアップのため、探偵の聖地・ロンドンにやってきた晴彦と次郎。ベーカー・ストリート駅を目指して地下鉄に乗りこんだ二人は、修行の一環として、車内の広告について様々に推理を巡らせていた。
次郎:「晴彦さん、何見てるんすか?」
晴彦:「なあ、次郎。この広告、どこか妙だとは思わないか?」
次郎:「んん……? いったい、どこが妙なんすか?」
晴彦:「ああ、すまん。この広告の不自然さに気がつくには、予備知識が必要だったな。順番に説明していくぞ」
広告晴彦の説明:広告の背景と概要
晴彦:「これは、フードデリバリーサービス ”Just Eat” の電車内広告だ (https://www.just-eat.co.uk/) 」
次郎:「どんなサービスなのか、詳しく教えてほしいっす!」
晴彦:「Just Eat は、ヨーロッパで幅広く展開するサービスだ 。Jestroのサイトによれば、イギリス国内での2019年時点「アプリケーションの認知度」で、Uber EatとDeliverooを抜いて一位だ。(https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2020/eef0a91531afb777.html 2024年3月13日閲覧)
データが古いことを差し引いても、業界大手の一角と言えるだろうな」
次郎:「日本でいう『出前館』みたいな感じっすか」
晴彦:「その通りだな」
補佐次郎の洞察:広告に凝らされた様々な工夫
晴彦:「さて次郎、何か気づくことはあるか?」
次郎:「うーん、全体的にオレンジっすね。明るい雰囲気だと思うっす」
晴彦:「そうだな。橙色はフレンドリーな雰囲気を伝えたいときに使う色だと言われている。特に、橙×白だと楽しげ・親しげな感じがよく出るな」
次郎:「カクレクマノミの色っすもんね!」
晴彦:「……そうだな」
次郎:「他には、コピーが気になるっす。『Did Somebody Say』ってどういう意味っすか?」
晴彦:「Just Eatの公式HPを見た感じ、『Did Somebody Say Just Eat』でワンフレーズ、つまり『誰か Just Eatって言った?』だな」
次郎:「めちゃフレンドリーっすね。『呼んだ?』みたいな感じっすか」
晴彦:「訳の正確さはともかくとして、ニュアンスは間違ってないんじゃないか? 普段使いするアプリの広告は親しみやすさが大切だからな。いいところに目をつけたな」
次郎:「へへ。でも、晴彦さんが言ってた『妙なこと』ってこれじゃないっすよね?」
晴彦:「ああ。違うぞ」
広告晴彦の洞察:彼はどこに疑問を覚えたか
次郎:「うーん、やっぱり分かんないっす……」
晴彦:「じゃあ、この広告に載っている食べ物を順番に挙げてみろ」
次郎:「え? いいっすけど、それに何の意味が……?」
晴彦:「いいから、やってみろ次郎」
次郎:「ええと、バナナ、ブロッコリー、Coke、牛乳、ケチャップ、アボガド、生肉……」
晴彦:「さて、次郎がデリバリーを頼むとしたら、何を頼む?」
次郎:「ええ⁈ そりゃピザとか、寿司とかっすよ……。あっ!」
晴彦:「そうだな。フードデリバリーと言えば調理済み食品を連想するのが普通なのに、この広告では生鮮食品のみを扱っているんだ」
次郎:「そこが、晴彦さんが気になってたところなんすね!」
広告晴彦の推理:歌に隠された真実・この広告の真意
次郎:「なんで、こんな事になってるんすか?」
晴彦:「ヒントは、Just Eatの公式Youtubeにあるぞ。(https://www.youtube.com/watch?v=mJqG8YIPRh0&t=23s)で歌手のクリスティーナ・アギレラとのコラボキャンペーンで歌われた歌だ。歌詞を一部抜粋するぞ」
次郎:「うーん?」
晴彦:「ざっくり訳してみるとこうなる。
さて、この歌詞から読み取れる情報は、三つだな。
Just Eatのアプリはスーパーマーケットからバナナを届けてくれる
Just Eatは従来「ファストフード」を扱っていたが、そこから「オペラからラップ」へ切り替えるような転換が行われている
Just Eatはレストランから取り寄せができるだけでなく、スーパーマーケットからバナナを取り寄せるのにも使える」
次郎:「ふむふむ」
晴彦:「歌詞独特の言い回しが読解を難しくしているが、2の「転換」は3の「スーパーマーケットからの取り寄せ」を指すと思われる。”fast food” と "restaurants" の二文に含まれる "not only" は並列関係にあり、最後の "can go bananas at the grocery store" に掛かっているからだ」
次郎:「なるほど。それで?」
晴彦:「察しが悪いな。この広告は、Just Eat が飲食店からの宅配だけでなく、スーパーマーケットからのデリバリーも取り扱っていることをアピールしているんだ」
次郎:「んん~⁈ 分かりにくいっすね!」
晴彦:「よく見ろ。Sainsbury’s(イギリス大手スーパー)のロゴは小さく書いてあるぞ」
次郎:「あ、ホントだ!」
晴彦:「それから、ヨーロッパ圏の広告は日本の広告に比べて文字情報が少なく、イメージで訴求する傾向があるとも言われている。多様な文化的背景に配慮しているという説だ。それも手伝って、背景を知らないと分かりにくいのかもしれないな」
次郎:「へえ、そうなんすね~」
ワイダニット:英国フードデリバリーの裏事情
次郎:「じゃあ、そもそもJust EatはどうしてSainsbury’sと提携してるんすか?」
晴彦:「これも推定になるが、日本よりも早くからオンラインフードデリバリーが普及していた欧米圏では、フードデリバリーの認知度が高く、同時に競争も激しい。
英国では、Just Eatの他にDeliveroo・Quiq upなど多様なサービスが存在している。『レストランだけ』『ファストフードだけ』といった既成イメージを破壊して、差別化を図っていく必要があるのだろう」
次郎:「たしかに、レストランのデリバリーばっかりしていると健康に悪いですもんね。健康志向の高まりにも対応しているってことか」
晴彦:「冴えているな。それも正解だろう」
次郎:「……あれ? 待ってください、晴彦さん。スーパーの食品を配送してくれるデリバリーって、ネットスーパーとほとんど変わらないような……」
晴彦:「その通り。実際、Sainsbury’sもネットスーパーのサービスは展開しているし、生鮮食品だけでなく、調理済み食品も扱っている」
(https://food-to-order.sainsburys.co.uk/category/allfood )
次郎:「ひぇえ! モロ被りじゃないっすか」
晴彦:「次郎の指摘は的を射ているよ。
似た事例として、アメリカの大手デリバリー DoorDashも大手スーパーWalmartとパートナーを組み、取り扱い品目を料理、食材、アルコール、花、ペット商品などに拡大した。
しかし、2022年に提携を解消しているんだ。
DoorDashの力を借りなくとも、Walmartが配送プラットフォームを運用できるようになったことが原因だと考えられている。
(※DoorDashとWalmartは2022年に提携解消 詳しくはこちらなどご参照ください https://www.supermarketnews.com/online-retail/walmart-doordash-partnership-coming-close )
フードデリバリーと大手ネットスーパーの競争関係だな」
次郎:「なるほど。となると、ブランドの認知度の闘いになりそうっすね!」
晴彦:「鋭いな、次郎。知られていないブランドは、そもそも選択肢に上ってこない。サービス内容の競争もあるだろうが、認知度やイメージが勝負を分けることもあるだろう」
次郎:「広告の出番ってわけですね!」
晴彦:「その通りだ。今後も、フードデリバリー市場の厳しい競争を乗り越えるために、様々な工夫が凝らされた広告が出てくることだろう。
さて、言ってみれば、イギリスの宅配市場の状況が、今回の広告を作り出した犯人だったわけだ。市場の状況が広告を決める。これはまあ、どんな広告にも言えることなんだろうがな」
解説系のユーチューバーさんっぽく纏めてみました。
企画のコンセプトの関係上、広告から読み取れる情報を中心に推定を行いました。広報の方に確認とったりはしてないので、各社の経営戦略、配色・コピーの意図などは、あくまで「推理」としてお楽しみいただければ幸いです。
また、晴彦と次郎のビジュアルはChatGPTで制作したものです。
ちなみに、広告彦晴のどうでもいい設定は、伊藤計劃『虐殺器官』から着想を得ました。とても面白いので、気になる人はぜひご一読を。
いつか続編もやれたらいいなと思っているので、「面白かった」という方はぜひ♡をお願いします!
(文責)CMAリサーチャー 中島卓哉