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MLB史上最高契約ホアン・ソト選手の今後を占う
※キャプション画像の出典は以下です。
Juan Soto signing with Mets on gargantuan $765 million contract as Yankees miss out
By Mike Puma
Published Dec. 8, 2024
https://nypost.com/2024/12/08/sports/juan-soto-signing-with-mets-on-15-year-765-million-contract/
2024年~2025年のMLBのシーズンオフの移籍で一番大きな話題・注目を集めた1人がホアン・ソト選手だろう。既報のとおり、ニューヨーク・ヤンキースからFAとなったソト選手は、15年765Mドルという、これまでの大谷翔平選手(ロサンゼルス・ドジャース)を超えるMLB最高の契約水準でニューヨーク・メッツに移籍した。ヤンキースとメッツは同選手との契約にむけ最後までしのぎを削ったが、ヤンキースはあと一歩及ばなかった。
ソト選手の契約の概略は以下のようになっている。
・契約ボーナス:75M
・2025~26年:46.875M/年
・2027年:42.5M
・2028~29年:46.875M/年
・2030~39年:46M/年
その他、OPT-OUT条項やノントレード条項、MVPなど各種表彰に伴うボーナス、本人や家族へのパーソナルセキュリティの付帯といった条項があるようだ。
さて、本人や獲得したメッツにとって、これからの問題は、それだけの大型契約に見合う活躍を満了時までできるのかということだ。1998年10月25日生まれのソト選手にとって、契約満了時の2039年の開幕は40歳で迎えることになる。この時点のサラリーは依然46Mだ。
以上の背景を踏まえ、本文では、ソト選手の今後の成績を占っていきたい。ここでは、OPSやWARを対象としていく。以降、データや年齢は、Baseball Reference記載のものに準拠する。
ソト選手の年齢ごとのWARやOPSの推移は、これまで以下に推移している。
2018(19歳)WAR3.0 OPS.923
2019(20歳)WAR5.0 OPS.949
2020(21歳)WAR2.4 OPS1.185(※)
2021(22歳)WAR7.1 OPS.999
2022(23歳)WAR5.5 OPS.853
2023(24歳)WAR5.5 OPS.930
2024(25歳)WAR7.9 OPS.989
※21歳時の2020年は60試合の短縮シーズン。WARを162試合換算すると6.5に相当する。
ソト選手はまだ26歳半ばである。上記の数字を年齢と合わせて単純に2次回帰分析してピーク年齢を占うような推定は、ここではなじまなさそうだ。もう1つの方法は類似のキャリアを持つ選手との比較だ。ソト選手の1つの特色は、20歳未満でMLBデビューしたことだ。同様に20歳未満でMLBデビューした選手のその後の成績推移をたどれば、ソト選手の将来の行方も見えてくるかもわからない。
そこで、現役選手、OBを合わせ、以下の4人の比較対象を取り上げてみた。いずれも、20歳未満でMLBデビューを果たし、現在のソト選手より長くプレーしている選手ないしはOBである。
・ケン・グリフィーJr.(マリナーズほか)
・アレックス・ロドリゲス(A-ROD)(ヤンキースほか)
・マイク・トラウト(エンゼルス)
・ブライス・ハーパー(現フィリーズ)
OPSに関する類似選手との比較、分析
ソト選手を含む5選手のOPSに関する年齢ごとの推移をまずグラフにしてまとめてみた。
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といっても、5人が同時にいると、グラフがあまりに煩雑になってわからない。そこで、比較対象を現役2選手、OB2選手それぞれに分けたうえで、ソト選手との比較を改めて行う。
現役選手との比較を見ると、ソト選手は21歳、ハーパー選手は22歳でいったんピークを迎えているのに対し、トラウト選手は20代後半でピークが長く続いている。そのトラウト選手のOPSは、30歳代になってからは従前に比べ大きく低下している。
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OBの2選手との比較を見ると、グリフィーJr.やA-RODは30歳代前半まで一時期を除き9割超の水準を維持している。そうした中でも、細かく見ると、グリフィーJr. は20代後半から、A-RODは30代前半から成績の低下が始まっている。それでもなお、両選手とも、30歳代後半に一度リバウンドを経験している。
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各選手のキャリアの最高OPSとそれを達成した年齢は以下のようになる。
グリフィーJr. 24歳 1.076
A-ROD 31歳 1.067
トラウト 26歳 1.088
ハーパー 22歳 1.109
ソト 21歳 1.185
ちなみに、ソト選手が21歳で記録した12割近いOPSは、実は割り引いて考える必要もある。この数字を出したのは60試合の短縮シーズンだった2020年のことで、試合数の少ない分、率に関する数字は、162試合のものと比べ上振れ、下振れのいずれも大きい。もしこのシーズンが162試合だった場合、21歳の数字はもっと低位になった可能性が高い。
ソト選手を除く4選手に関し、年齢とOPSの関係を2次回帰分析してみた。
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相関を示すR2乗の数値からみると、ハーパー選手の相関値が一番低くなっているが、他の3選手に関しては一定の相関を示し、その順番はトラウト>グリフィーJr. >A-RODとなっている。
回帰式から4選手に係るOPSのピーク年齢、並びに理論上のピーク値を求めると、以下のようになる。
トラウト:26.0歳 1.080
ハーパー:26.3歳 .956
グリフィーJr.:27.4歳 .960
A-ROD:28.8歳 1.029
ピーク時のポテンシャルはトラウト選手が一番高い反面、そのトラウト選手は一番「早熟」という結果が出た。トラウト選手とA-ROD選手との間にはピーク時の年齢に3歳近い差がある。理論上のOPSが9割を来るタイミングもほぼ3歳の差があるようだ。グリフィーJr.、A-RODの両選手は、35歳近くまで9割のOPSを維持する力は持っていたことがうかがえる。
WARに関する類似選手との比較、分析
OPSと同様の分析を、今度はWARに関しても行ってみた。WARの場合、OPSに比べ、実際に出場した試合数が反映されやすいメリットがあると考えられる。なお、60試合の短縮シーズンである2020年に該当する年齢のWARは、162試合に換算した値で補正した。
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全般に、年齢との相関はOPSに比べ低く不安定に映る。ハーパー選手に至ってはほとんど相関がみられないといっていい。グリフィーJr. 選手は、理論上、デビュー以降理論上のWARが低下を続けているという結果になった。トラウト、A-RODの両選手に関しては一定の相関がみられるが、ピーク時の年齢を推定すると、トラウト選手は24.2歳、A-ROD選手は27.5歳と、3歳以上の開きが出た。また両選手とも、OPSに比べピークの年齢が早くなっている。
そうした中、ソト選手のWARがキャリアで一番高かったのは、25歳でシーズンを迎えた直近の2024年である。WARに関しては、ソト選手はむしろ遅咲きの推移を見せているように見える。
なお、各選手がキャリア最高のWARとそれを達成した年齢は以下のようになっている。
グリフィーJr. 26歳 9.7
A-ROD 24歳 10.4
トラウト 20歳、24歳 10.5
ハーパー 22歳 9.7
ソト 25歳 7.9
ソト選手は25歳とグリフィーJr.選手に次いで高い。そして、2次回帰分析の結果とはあまり符合していない。この点からも、WARと年齢との相関の不安定さがうかがえる。
まとめ:ソト選手の今後の成績は?
以上、20歳未満でMLBデビューした4選手との比較を中心に分析した。本来は他のいろいろな選手との比較分析をしたうえでないと正確なことは言えないが、私が考える範囲では、ソト選手の今後を占うと以下のようになる。
・まだ伸びしろを有し、2~3年のうちにピークを迎える可能性が高い。
・大きな故障がなければ、少なくとも35歳くらいまでパフォーマンスを維持する。
・36歳以降どこまで維持できるかが契約のポイントになるか。
簡単に言えば、不良債権化せず契約を全うするポテンシャルはあると思う。そのポイントは故障だろう。マイク・トラウト選手が30代に入り成績を低下させ、ブライス・ハーパー選手の成績がデビュー時に比べ伸び悩んでいるのは、実は故障の多さの影響もあるはずだ。この点、ソト選手は、2019、2021年以降と150試合以上に出場し、2023年は全試合出場を果たした。この頑健さが、今後の成績の安定の基盤になっていくだろう。
もう1つ、ソト選手のスイング特性も考慮しなければならない。同選手は、簡単に言うと、ミートの正確さとスイングの速さを両立させたまれにみるスイングの特性を持っている。今後も投手の投球技術がデータ解析の進行により向上していく中、ソト選手のスイング特性は、投手の技術の進歩に適応しパフォーマンスを維持、向上させるのにふさわしいものとなっている。
結果はどうか…いつのまにか2025年シーズンの開幕まであと2か月ちょっとになった。