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MLBにおける肘の故障、手術の増加の原因は?
※カバー写真は、以下の記事からの引用です。
https://www.westernslopenow.com/sports/ap-braves-ace-spencer-strider-will-miss-the-rest-of-the-season-after-having-ucl-surgery/
グラフは、いずれも、本Note記事で取り上げるMLB公式HP内の記事からの引用です。
MLBでの最近の課題の1つが、投手の故障の増加である。MLB機構は、ここ1年間、野球にかかわるあらゆる分野やレベルの200以上の専門家に対してインタビューを行い、その原因や対策につき調査を進めてきた。これが内部レポートとしてまとまったようだ。レポート本体は外部公開されていないが、MLB公式HP内の以下の記事に、その概要が掲載されている。
MLB releases report on injuries to pitchers
By David Adler December 17, 2024
その主要な論点は以下の5つにまとめられている。
・球速向上やstuff(※)の追求に向けた最大限の全力投球が引き金
・投手の故障は20年続けて増加
・スプリングトレーニングの故障が急増、シーズン中の故障は逆に減少
・アマチュア選手にも及ぶ故障の増加
・まだやることは多い。
(※)
投手にとって武器となる投球の総合的な質や有効性を表す言葉。球速、回転数、ムーブメント、球種の多さなどが要因として挙げられる。適切な日本語表現が難しいため、ここでは「stuff」として表記する。
1)投手が球速向上や様々なstuffの追求に向け最大限の全力投球をするようになったことが故障の増加を引き起こしているというのが、幅広いコンセンサスとなっている。
・投手はより速い球を投げようとしている
・投手はピッチデザインを通してより打ちづらいstuffを追求している
・全力でのトレーニングや試合での全力投球の重視
ファストボールに限らずどの球種の球速が上がっているのと並行して、肘のUCL(尺側側副靱帯)の手術、すなわちトミージョン手術も増加している。一方で、投球のトラッキング技術の向上につれて、投手は投球に様々なstuffを追求するようになった。より速く打ちづらい球を投げるための全力投球の増加が肘の故障につながっているというのが、多くの関係者の合意点である。
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2)スター投手の故障のために投手の健康への関心が増したが、投手の故障はこの20年間継続して増加している。
デグロム、ストライダー、マクラナハン、ビーバー、そして大谷といった近年の相次ぐエース投手の故障でひじの故障が注目を集めるずっと前、具体的には約20年前から、投手の故障は増加していた。10年以上前の調査では投球過多が肘をはじめとする投手の故障の主因と考えられていたが、その後、球速やstuffの追求も肘の故障の原因と考えられるようになった。
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3)しかし最近のシーズンでは、スプリングトレーニング中の故障が急増している一方、シーズン中の故障は横ばいないしは減少している。
シーズン中の故障はここ4年間減少している反面、スプリングトレーニング~開幕前の故障はここ数年増加している。この要因として、オフシーズン中のトレーニングの変化が挙げられる。特にプライベートな施設で、自分の投球を磨き上げるべく球速の増加やピッチデザインやメカニズムの見直しに取り組むようになった結果、開幕への準備過程の故障が増加している。投手はオフシーズンも休む時間が無くなってきている。
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4)MLBとアマチュア野球は相互連関している。
投手の故障に関しても、MLBからアマチュア野球への波及効果が認められる。球速の増加やstuffの向上、全力での投球が、若手、高校生、大学生の投手も影響を及ぼしている。ある大学のコーチによれば、選手のリクルートに際し重視するのは何よりも球速、回転数、垂直方向への変化で、防御率は二の次とのことだった。選手をリクルートするプロや大学チームは、視察対象の選手に、最大限の全力投球を求めるようになる。
アマ選手のPR機会である“Perfect Game National Showcase”に出場する選手のうち、時速95マイル超の球を投げる投手は、ここ10年で急増した。その陰で、UCLの手術を受ける選手に占める高校生以下の割合は急増、今やドラフト10巡目以内で指名される投手のうち35%がUCLの手術を受けた経験がある。
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-Andrews Sports Medicie &Orthopedic Centerの例
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5)やるべきことはもっと多い。
このレポートはまだ始まりに過ぎない。プロに対しては健康と耐久性を高めるルール変更を求める一方で、アマ選手に対してはガイドラインの強化や休養やリカバリー期間の増加を求めている。
さらなる調査が求められる領域として挙げられているのは以下の通り。
・オフシーズンの投手のトレーニングやシーズン初めの負荷
・試合がない日の投手のトレーニング行動
・バイオメカニクスおよび投球スタイル
・投手の疲労の計測
・日本のNPBや韓国のKBOといった海外のリーグでの故障の傾向や故障のマネジメント
・アマチュア野球の故障リスク要因
・アメリカのアマ選手と他国出身のアマ選手との間の故障割合の比較
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私なりにもっと簡単にまとめると、投手の故障増加の要因は以下のようになるか。
A)投手に対する要求が高くなった
B)投手の様々な指標が可視化された
A)とB)は相互連関しており、1)が2)の原因であることも、またその逆も考えられよう。技術やメカニズムの向上が、今度は健康管理の方にも生かされることが求められる。これが、長い期間にわたってお互いがパフォーマンスを発揮できる持続可能な野球にもつながっていくはずだ。