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VR・スマホ・PC…クロスプラットフォームの難しさ【デザイン奮闘記vol.3】

メタバースプラットフォーム「cluster」を展開するスタートアップとして日々加速を試みるクラスター株式会社。
クラスターCEOの加藤直人とデザインエバンジェリストの有馬トモユキ氏がクラスター社のデザインの現在を語り、発信していきます。

今回からデザインチームのメンバーを迎え、実際にどういうことを考えながらメタバースプラットフォームのデザインに取り組んでいるか聞いていきます!

デザインと名がつくものを全部やってみたい

加藤直人(以下、加藤)
今回はデザインチームのよしおかこうさんにお話を聞きます。
よしおかさんは第一号社員でクラスター社の歴史をあらかた知っています。

クラスター社は2015年7月7日に創業したのですが、元々知り合いだったよしおかさんと会社設立前に焼肉屋で食事している時に誘ったら、その場でjoinすることを決めてしまった、というなかなか豪胆な方です(笑)

加藤
よしおかさんのようなグラフィックだけではなくUnityも扱えるなどさまざまなことができるデザイナーはスタートアップにとって有難い存在です。
なぜクラスター社にjoinすることにしたのでしょうか?

よしおかこう(以下、よしおか)
前の職場で加藤さんが業務委託で来ていたのが知り合ったきっかけでしたよね。
当時の私は受託の仕事ではなく自社プロダクトで色々なデザインをやりたいという思いがありました。そんな時に加藤さんからスタートアップを立ち上げると聞いて、創業当初の企業ならデザインと名のつくものをやりたい放題にできるなと思ったんです(笑)

当時はVRの世界やHMDについては無知でした。ただ、もともとMMORPGが好きで、加藤さんからの誘い文句が「SAOの世界をつくりましょう」だったのが効きましたね。

またUnityに興味があって、それを使ったことがやりたいと考えていたので、それもjoinするのを決めた理由のひとつでした。
クラスター社がやろうとしていることならUnityにたくさん触れる機会があるし、デザインについても全体的に関われる。そして、0から会社・プロダクトを立ち上げるのを見ることができるのは魅力的な機会だったのでjoinすることを決めました。入社してからは、デザインと名がつくものは全部やっていましたね。

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2015年の創業当時のオフィスの様子

現在では100人規模のオフィスへ拡大

加藤
もともとデザインに興味を持ったきっかけはあるのでしょうか?

よしおか
気づいたらデザイナーだった、という感じが近いと思います。デザイン自体に強烈な思い入れはなくて「何かをつくる」ことが好きなので、極論デザイナーじゃなくてもいいんですよね。

学生時代はゲーム開発をしたいと思っていたのですが、就活していた時にまったく受からなくて。就活を続けていたら卒業制作が終わらないから就活を辞めてしまったんです(笑)
結果として、ゲーム開発の現場には入れなかったのですが、電子玩具をつくっている会社ならゲーム開発の基礎を学べるかなと思い、その会社にグラフィックデザイナーとして入社しました。

有馬トモユキ(以下、有馬)
デザイン以前にクラフト、つまり手でものをつくることが好きということですよね。

よしおか
そうですね。

クラスター主催のGAMEJAMにも積極的に参加し、ワールドを制作している

加藤
クラスター社に入ってからはしばらくはデザイナーはよしおかさん一人でしたよね。(2015〜18年)
現在では4〜5名のチームになりましたが、昔と比べてどう変わったと感じていますか?

よしおか
あれこれ考えすぎなくてよくなりましたね。脳のリソースが開放されて、ひとつのことに集中できるようになったと思います。
当時はあらゆることを担当していて、タスクを頭の中で整理できないからとにかくやることを書き出して整理していましたね。

加藤
創業期はそもそもプロダクトがかたちになっていなくて試行錯誤しまくっていた時期もありましたからね。その中で色んなスキルを持っているデザインできるよしおかさんの存在は本当にありがたかった。

VR版UIのプロトタイピングの難しさ

加藤
創業したてのころはVRの黎明期で、すべてのことが本当に手探りでしたが、当時はどういうことを考えながらデザインされていましたか?

よしおか
一般的に使われるようなデザインになってほしいという気持ちでつくっていましたね。
clusterはサービス的には尖っていましたが、デザイン的には尖ったことをしようとは考えていませんでした。

加藤
まだ世の中にVRが浸透していない状態でVRのプロダクトをやるとなったらサービスとしては尖らざるを得ないですからね。
ちなみにVRならではのデザインでいうと、どういう部分が難しかったですか?

よしおか
VR版のデザインは実際にVR機器を被って確かめてみないと実感が分からないところですね。

モバイル版のUIデザインなどはFigmaみたいなデザインツールで制作すれば文字サイズとかレイアウトの大体の感覚を掴めます。しかしVRのUIデザインに関しては、VR機器を被って確かめてみると画面で検討した時とサイズ感や印象がまったく違ったりして、感覚がわからないんですよね。

なので、当時は段ボールでペーパープロトタイピングしていました。加藤さんが操作したら私が段ボールでつくられたUIを動かしたりして、その動きを見ながらVRのUIについて検討していましたね(笑)
いい方法かなと思っていたんですけど、それでもVR機器を被って実際に見ると感覚はまったく違っていて。VRのUIは現実世界にあるものと同じようにつくればいいと思っていたのですが、そうではないことに気づきましたね。

現在のclusterのVR版メニューUI

加藤
当時はメニューのボタンを指で押す仕様でしたが、結局レーザーポインターで選択する形式になったり、色々試行錯誤しましたよね。
2017年のOculus Connectだったかな。SIEの吉田修平さんとUIのセッションを観ながらディスカッションしたことがあって、VRで動くの疲れるからレーザーポインタの方がいいと言っていて。当時のぼくは、ボタンは指で押せる方が動きとしては自然だと考えていたんですけど、いざ実装してみると使いにくいししんどくて。色々試行錯誤した上でけっきょくレーザーポインターにしたので、思い返すと吉田さんの方が正しかったなと笑。

有馬
UIデザインにおいて、お箸やフォークのように人間と操作対象の間に道具を介在させる方が精密な動作ができるという話があるくらいですから、VRのUIでもそういう側面があるかもしれませんね。

よしおか
スマートフォンのタップ操作は実際に触ることができる物理的な接触面があってこそですからね。今のところ、それが存在しないVRでは道具(レーザーポインター)が挟まっていた方がいいのかもしれません。

加藤
直近1年clusterはPC・モバイル版の開発に専念していたこともあり、VR版のUIなどは当時よしおかさんがつくったベースのままなんですよね。
PC・モバイル版でも機能が揃ってきているので、いよいよVR版の改善がこれから進んでいきます。

よしおか
段ボールで検討するのもなかなかよかったのかもしれませんが(笑)やっぱりVR機器は視野の狭さやディスプレイを通して見ることなどリアルと比べるとどうしても体験の解像度は落ちるので、そのまま適用させることはできないと思いますね。

ただ、モバイルでペーパープロトタイピングをやる時もその動きを確認するというよりはそのフローがどれくらい自然かを確認するためにやるので、そういう点ではいいのかもしれません。
デザインチームも大きくなってきましたし、過去の経験も活かしてよりよい体験をつくっていきたいですね。

デザインチームの連携

加藤
現在では、デザイナーの人数自体も増えてきているので、こういうことがやれたらよいと考えていることはありますか?

よしおか
一人でやっていた時はやるべきことの数が膨大だったのでひとつひとつの追及が浅くなるのは避けられず、レベルが浅いところで終わってしまっているのが否めませんでした。ですが、今は人数が増えているので、より深掘りできることが増えているのかなと思います。

また先ほど言ったように一人でやっている時はあれやこれや考えなくてはいけなくて整理するだけでも大変でした。今も人は増えてはいますが、やはり頭の中の整理は大変なので、余裕を持って思考して深掘りしていくことに挑戦できるような体制をつくりたいですね。

2020年にモバイル対応し、clusterはスマホ・PC・VRに対応するクロスプラットフォームのサービスとなっている

加藤
その「余裕」はどういう風にワークしているのが良い状態なのでしょう?

有馬
時間の使い方だと思います。
余裕と手数の多さは比例すると思っていて、1時間与えられて10案をすぐに出せる人は強い。何故かというとフィードバックループがまったく違ってくるからです。余裕を持つことは自分の前に色々な案や、考え方を実現させることと近しいのかなと思います。

加藤
ちなみに、ひとりひとりの時間の使い方も重要だと思いますが、チームが大きくなった時にデザイナー同士の連携はどうなってるのが理想だと思いますか?

有馬
実際に業務としてはデザイナー同士の共同作業が少ないので、意識の連携の方が大事かなと思います。
チーム内で意見を求められたら、こういうフィードバックしようとか、どのレベルまでチェックするかという議論はよくしますね。

加藤
なるほど。それはデザイナーの数がいまの規模の2〜3倍になったとしても同じなのでしょうか? 

有馬
おそらく変わらず意識的な連携の方が重要度が大きいと思います。
ただその時は各デザイナーの得意技がもっと明確になっていて、それぞれのデザイナーにはまったく異なる別のパーソナリティがあるはずで、そこで意識の連携をどう取るかが最も難しいところになると思います。

加藤
たしかに、考えてみればエンジニアリングは協働に関するロジックが多くありますが、デザイン領域での協働ってあまり見かけない印象ですね。

有馬
デザイナーはステップアップしていくとアートディレクター、クリエイティブディレクターとキャリアアップしていきます。そして、組織体制としては階層型になることが多いので組織として協働するためのロジックが生まれにくいのだと思います。

また、デザインは最終的には合議で決めることができないという面も影響しているのではないかと思います。だから、デザイナーの連携のメソッドに関してスタートアップで適用できる「これだ」という決まったものがないのでしょう。

よしおか
デザイナーで組織論のようなことについて言及された書籍をあまり見かけたことがありませんよね。普遍的なロジックがなくて各会社で独自の文化を持っていそうな印象があります。

有馬
Goodpatchさんなどはチームをスケールさせるための新しい考え方を持っていそうな気がしますね。
ただ、確かにスケールするには会社のカルチャーと直結している必要があるのだと思います。だからこそ、会社によってそれぞれの解があるのかもしれません。

加藤
そうとなると、clusterなりの解を出して、世の中に残していきたいですね。
一方でデザインファームのようなデザインを専門にした組織はどのようにチームを組成しているのでしょうか?

有馬
海外のデザインファームは戦略含めた各々のプレゼンテーションのカルチャーなどフレームワークはあったりしますね。それでチームを最適化している面はあると思います。

デザイン会社は上部構造にいるクリエイティブディレクターが発生させているカルチャーに影響されることが多そうなイメージです。自然発生みたいなものはなくて、考え方の基礎をつくっている人がいるのだと思います。

クラスター社でもチームとしてのスケールの立て方は課題ではあると思っていますが、それは会社それぞれに解があるからこそ、まずはクラスター社のカルチャーを醸成した上でデザインのことを考えるべきであると思っています。

カルチャーから生まれる表現

加藤
ありがとうございます。
最後によしおかさんが最近アツいなと思ったことを教えてください。

よしおか
DokeV(ドケビ)というオープンワールドのゲームが気になっていますね。

キャラクターや全体的なビジュアルが物理ベースなんですが、そこにアニメ的な解釈もうまく組み合わされていて、とてもおもしろい表現だなと感じました。個人的にはこういうものが日本からももっと出て欲しいなという気持ちがあります。

有馬
いわゆるアニメルックをベースにしたビジュアル以外の可能性ということですよね。

よしおか
そうですね。
スタイル的にカラッとした感じが好きですね。

加藤
ゲームを開発する時にその国のカルチャーに反映されるんですかね?

有馬
反映されると思います。
お国柄は大事なチケットだと思います。clusterも日本発ならではをどういう風に表現していくかを考えなければならないと思いますね。

よしおか
クリエイティブってとても緻密で繊細なんですよね。
さっき自分はDokeVを“カラッと”と一言で表しましたけど、本当に言語化しようとすればそんな単純に一言で言い表せるものではないです。

カルチャーの反映された表現って、単体ではとても小さく感じるものをクリエイターが1つ1つ丁寧に繋ぎ合わせた結果だと思います。
そうやって繋ぎ合わせたものを壊さずそのまま世に送り出す。そんな仕組みや場所をつくっていくことが大事なんじゃないでしょうか。

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